小鳥が空を飛ぶ。
自分もあの鳥のように空をはばたきたいと少年は願った。
たが空を飛んでいるのが小鳥だけでなく、鉄の塊だったのに唖然と立ち尽くしていた。
さまざまな速度の足音と、ガヤガヤと賑わう話し声。 それが調和しまるで音楽を奏でているかのような騒音だった。 一言で言うなら、賑やか。
上下左右そのまた斜めを食い入るように見渡している少年はやがていっそう騒がしい集団を見つけ、興味本意で近付いた。
例えば少年はなにかの見せ物だと思って近付いたに過ぎないとしよう、だが、少年は原因となる人物に互いの気を知ることなく利用されてしまったのだ。
「あ、あいつだ!あいつが俺を脅したんだ!見た目に騙されるな、冷酷で残忍なプロの忍だ!」
「なに?!あの少年だ、逃がすな!!!」
気が狂ったように叫んでいる男に指を指されていることに気が付くのには時間がかかった。
追いかけてくるものには応戦をしたいが、訳がわからないままの少年は忍のように屋根を飛び越え、走り抜け、木々を渡っていた。 忍のように、ではなくきっと少年は忍なのであろう。
風を切って走ることに嬉々を覚えているようで、少年は清々しい笑顔でいた。
それが追いかけてくる集団にとって笑顔でときどき振り返るそれは挑発にしか見えず、怒りを買うこととなった。
木々や建物を身軽に渡っていると、走るために横に降られた腕を誰かに捕まれ、反射的に身構えようとした。 が、本能が危険ではないと察知した。
路地に少年を引っ張っていったのは一人の女性だった。
しばらくして、先ほど少年を追いかけていた輩が遠ざかっていくのが見えた。
「なんだ、追いかけっこ楽しかったのだがな。」
「はあ?坊、まじで言ってるの?」
あれをどう思えばそうなるのかと、少年を救ったはずの郁は頭をひねった。
「ところでお前は誰だ?」
それは素晴らしい笑顔だった。
彼女の怒りを買いそうなのに本人はまるで気付いていない。
郁はそれを飲み込みため息を一つつくと口を開いた。
「フリーの仕事人かな。基本なんでも受付るわ」
郁は"基本"の部分を強調させて言いながら、名刺を差し出した。
「笠沼郁...。」
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