正義の話・前
「あ バカ2人発見アル」
前日の世にも迷わ…世にも奇妙な幽霊事件の疲労を言い訳に、盛大に寝坊した翌日の昼下がり。
歯磨き粉が切れてしぶしぶ神楽と買出しに出ていた俺は、そんなつぶやきに視線をひかれて大通りの前方を見やった。
「なに、アレ」
黒い制服を身にまとった若い男女が
、ファミレスの窓際のテーブルで向き合っているのが道から見える。
栗色頭に目を引く甘いマスクの青年と、色素の薄い髪と肌が異国の人形を思わせる美少女。
外からなのでもちろん声は聞こえないが、アテレコするなら
「はい隊長、あーん(ハート)」
「俺はいいから好きに食えよ、お前におごったパフェだ」
「たいちょう////」
てな感じだろうか。
死ね、の一言である。
「なんだ、元気そうアルなバカ加恋」
「そういえば、昨日なんかあったの?なんか新八も沖田君と一緒に消えてたけど」
昨日はそれきり帰ってこなくて、多分志村邸に直帰したのだろう。
「昨日は様子が変だったネ」
スーパーの袋を振り回しながら喋る神楽。
もうどうでもいいけど、そこにいらっしゃる俺の苺大福の存在なんてこいつの頭の中には皆無なんだろうな。
「神楽ちゃん非常に言いにくいんだけれども、君のオトモダチの頭は24時間年中無休でヘンテコだよ」
口に手を当てて声を潜めささやくと、そんなことはわかってるアルと辛辣な答えが返される。
「わたしアイツのこと、よくわからないヨ。
ニコニコして、へらへらして、ドエス野郎につきまとって…あいつの意思はどこにあるアルか?」
眉を潜めてそう訝しむ神楽は、不機嫌そうに見えるが内心では加恋のことを心配しているのだろう。
お節介なところは誰に似たのやら。
銀時は彼女の不器用な気遣いを見抜いて、しかしそれを口には出さずに頭にぽんと手を乗せた。
「全部がアイツの意志さ。心配ねぇよ、仲良くやってんじゃねーか」
ほら、おごってもらったパフェも満足に食べ終わったみてーだぞ。
そう促した銀時はしかし、次の瞬間体が肝まで冷え切るのを感じた。
「オイくそ天パ、どゆことアルあれ」
地を這うような神楽の声が聞こえた。
その目は大きなまなこをどんよりとさせ、ファミレスの中を呪うような視線で射る。
俺だって神楽と同じような目を向けてやりたい。
レジのお姉さんに札を数枚渡しているのは、なんとにこにこと微笑みをこぼすいたいけな少女の方だったのだ。
(あのやろう)
そんな加恋の隣でさも暇そうに大あくびをかます、見た目だけはたいそうな完成度の男を見て銀時は歯噛みする。
おれだって、美少女に昼飯奢られたい。
それは決して口には出ない密かな心のつぶやきだったのに、なぜか後ろの神楽に黙ってすねを思いっきり蹴り飛ばされ、銀時は以後数十分に渡って悶え苦しむこととなるのだった。
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