お前の主、あなたのペット



嬉しくて嬉しくて、だって隊長が「心配した」だって。
わたしに心を配っちゃったんだって。

ふふと笑いながら隊長の大きな手を両手でつつむ。
それを頬まで持っていってすりすりと寄せると、隊長が動きを止めた。

「隊長…わたし明日、がんばるからね」


隊長は何にもしなくていいよ。心配も、しなくていいよ。
隊長はわたしが護ってあげるからね。

隊長はしばらくわたしのことを眺めていたけど、次のときふっと笑って、

「…てめぇこそ、そんな怪我してんなら何もしなくていいんだぜ?」

いじわるく言った。

「ペットはペットらしくおとなしく尻尾振って待ってな。お前は俺に繋がれて散歩でもしてりゃ十分ですぜ」

慌てて手をひらひら振ってみせる。

「そんなことないよ!大丈夫だよ!ちゃんと、」
「それからてめーがうろちょろしなくても、俺はちゃんと先陣切りまさァ。

余計な真似はすんなよ」

無理もな。
最後にそう残してわたしの手の平の傷をそっと撫で、立ち上がる隊長。

「隊長?」
「ん?」

呼びかけると端正な顔が振りかえる。
人形をぎゅっと抱きしめた。

「……どうしてわかったの」

手の平の傷。
隊長はしばらくこちらをじっと見つめて、そしてふっと笑った。

「バーカ。左手、かばってんだよお前。
すぐわかるっつーの」

わたしと隊長の間にあるものは周りのみんなが思ってるよりもずっと壮大だ。

絶対の信頼と、それと
なんだかんだ言ったって隊長はいつもわたしのことを見てくれてることは、わたしが一番、わかってる。

「隊長」
「だから…くっつくなって言ってんだろぃ」

隊長の細腰に手を回して顔を胸のあたりに押し付けると、呆れたように頭を撫でられる。

日頃沖田隊長は、鬼才の剣士、冷徹無情、くわばらくわばらと恐れられているけれど。

(そんなことないよ)

わたしは、知っている。
だからいいんだ。わたしが知っていれば
ひとりわかっていれば、それでいい。それだけで、他の誰に知られなくったって。
私がそうだったように…


満面の笑みで見上げれば、柳眉がわずかに上がる。
くい、とスカーフを少しだけ引っ張る。

「隊長、ちゅーして」

すっとほっぺに手が添えられて、綺麗なお顔がすぐに近づいてくる。
どくんどくんという大きな波に飲まれながら目をつぶる。

ちゅ…

やわらかい感触。
すぐに離れていくのが惜しかった。

「ねえ…」
「なんでぃ」

「もっと…」
「もーおしめえだ」

そっけなく言い放ち立ち上がった隊長。
めげずに後を追うように立ち上がるわたしは後ろからその背中に飛びつく。

「もっとー!」
「うっせえよ耳元ででっけー声出すんじゃねェ!」

ぺんっと頭をはたかれて私は渋々その背中から降りる。

「もっと〜」
「…明日ちゃんと仕事したらな」

ぼそりと紡がれた声にはっと顔を上げる。

歩きだしていた隊長。しなやかな、一番隊隊長の姿。
忠誠を誓います、神様。
その背中に静かに頭を下げる。

私の主。
わたしはペット。


もう飛びついたりはせず、加恋はきゅっと口角をあげるとそっと、
掛け値なしの笑顔をそこに咲かせた。


お前の主、あなたのペット

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