お前の主、あなたのペット




「おい、」
低い声に振り向くと土方が腕を組んで立っていた。

「お前わかってんだろうな、明日」
「はい」

金色がかった栗色の髪からのぞく、深い海を秘めたような翡翠の瞳。
土方はこの目が苦手だ。

大きくて吸い込まれそうな、幼いくせにそれでいてすべてを悟り蓄えたような目。
あまり見つめているとどうにかなってしまいそうだ。

なるべく直視しないようにして煙草をくわえ直す。

「………しっかりやれよ、一番隊」

返事がない。
いらっとしながら視線を瞳に戻した。
戻して………息を呑む。

瞳が語っていた。
その決意と意志の固さを、瞳が語っていた。

わたしが、
私が任務をぬかすとでもお思いで?

強く確かに、その瞳は言っていた。
こういうところも土方がつかみきれず、当惑してしまう部分のひとつだった。

ふわふわ無邪気に振る舞って、天真爛漫、物事に頓着しない幼さを見せたかと思えば、突然どこかおとなびてこういう凛とした光をのぞかせる。

「わかってるならいい」、土方はその眼から逃げるようにそう言って座敷をあとにした。

あっさりひいた土方に取り残された加恋はひとり首を傾げ、やがて人形を抱えると立ち上がった。

広めの座敷を歩き襖まできたとき。

「左手出せ」

ふいに聞こえた低い声。聞きなれた声、大好きな…

はっとし顔を輝かせて襖の裏に回ると案の定、腕をくんで寄り掛かった沖田がいた。

「隊長〜!」
「くっつくな!左手出せっつってんだよ」

………左手…?
はっとする。隊長から身を離してうろたえた。

「早くしろ」
「あっ」

ぐいと手をつかまれて、あっという間に左手が開かれてしまった。
手の平に、赤い線。大きな切り傷。

蘇芳色に強く光る大きな瞳がそれをのぞくのを、なぜかひやひやしながら沈黙をうかがう。

「たいちょ、あの……たいしたことは」
「いつだ?」

大きな目。真っすぐに見つめられると、どきんと心臓が跳ね上がった。

「き…昨日こけて」

手をつこうとしたら机の金具でひっかいた、と告げると途端にその顔が呆れた風になった。

「………お前はあほか?」
「だって、」

「心配して損したぜ」

息をついて踵を帰す隊長。
その言葉を繰り返しかみしめると、嬉しさが、きもちが、足元からこみあげてくる。

「たいちょううう!」
「いって…だからくっつくな」

「心配してくれてたの!」

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