これがわたしの運命で構わない



「ははっ、そうか、あのふたりのこと知らなかったんですね」

たいして歳の変わらない眼鏡の少年が、湯呑みを差し出しながらはにかむように笑った。
午後の柔らかな日差しがそっと降り注ぐせまい部屋。


「知りませんよ!まさかあの剣の鬼があんなコドモの恋人だなんて」

大通りを、沖田さんの回りを跳びはねるようにして歩いていた加恋ちゃんの姿。
本当に好きなんだなあ…

ていうか沖田さんあまり相手にしてないみたいだったけど、よくあれで自分の女だなんて言えるな。
まあ、沖田さんらしいと言えばらしいけど。

「ちまたじゃ結構有名ですけどね。」

「あんなの恋人言わないヨ!
サドは全然構ってやらないアル。あんな付き合いじゃさすがに可哀相ネ。」

くちゃくちゃと音を立ててなにかをたべるチャイナ服の少女がソファーに踏ん反り返っている。
隣の銀髪の大きな男が、行儀悪いと頭をはたく。

「まァいいんじゃのぇの?本人大して気にしてねーしな」

そうなんですよねぇと新八が苦笑いする。
それに関しては同意見だった。彼女にとって最も重要なのはあの男の存在と、自分は彼のことが大好きだという事実のような気がする。
加恋はそんな奴だ。

「社内恋愛だなんてガキのくせに生意気なことするアルナ」
「いや神楽ちゃんも子供だからね。」

つっこむ新八を眺め、そこではたと気がついた。

『うちの部下が邪魔んなったな』

そう…言っていた、確かに。
部下?沖田さんの?
沖田さんて、
一番隊隊長…………で?え?だって…え?
その部下ということは……


「ええええ!?」
「んだよいちいちうるせー餓鬼だな」
「加恋ちゃんって真選組!?」

何を今さら、という3人の視線に更に慌てる。
誰か否定してくれ!

「なんだってあんな無邪気な女の子が物騒な……!」

「真選組隊士ですよ」
「しかもおめでたいことに一番隊隊長の側近アル」
「はあ!?」

一番隊隊長の側近って、それすごいことなんじゃ…

「そうネ。憧れの隊長サマの補佐、いわばお守り役アル。
アイツは真選組きっての切り込み隊員、一番隊のナンバーツーなんだヨ。」

「なんか以前は2番隊の隊長もやってたらしいですよ、あそこの…永倉さんだっけ?の代わりで。

あの辺も面倒で、一時期派閥争いなんかもあったらしいですからね」

「新八君、俺がいうのもなんだけど初期設定の自分の名前語るのってどんな気分なんだい」

「オイいきなりなに言い出すんだこの人!」


途端顔が真っ青になる新八君をよそに、おれは改めて事実のヤバさにヒヤヒヤしていた。

あいた口が塞がらないとはまさにこのこと。

落ち着こうとすすった茶はあまり味気なく、信じられない事実だけが圧迫してきた。

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