放し飼い



祭り囃子の間をベンベラと三線や琴の音が縫う。

祭りは大盛況である。


神楽は三郎の肩にまたがりあっちだこっちだと完全に自分のメカ気分だ。


「ちょっと神楽ちゃん落ちないでね」

まあ落ちたところでどうってことなさそうだけどさ、神楽ちゃんの場合は…


「あ、おじちゃんだ」

「え?あ、長谷川さんじゃないですか!お久しぶりです」


神楽ちゃんの指差す先には射的屋台で法被を羽織った長谷川さんがいた。

就職先見つかったんだ、おめでたい。

「ハハ、二人はデートか?アハハ」

「射的か〜ちょっとやってこうかな」

おっ、サービスするぞ!と長谷川さんが身を乗り出す。

神楽ちゃんは焼きトウモロコシを口にくわえると警官もびっくりな手つきで弾をこめた。

「当てれば何でもくれるアルな」

「もちろん。よ〜く狙って…」


パァン!

かわいた音とともに。

長谷川さんの動きが固まる。
グラサンが一瞬のうちに破損したのだ。状況を飲み込めず固まる僕ら。

ちょ、まさか神楽ちゃん…


「よこせよグラサン」


いらねーだろ!!

嫌がらせ以外の何ものでもないのは明白だが、もちろん新八には止める術はない。


「ちょっとまって、ちょっ違…
狙うのはあっち…」

パパァンと再び乾いた音がした。
間髪を入れず長谷川さんの腕時計が弾ける。

あれ、ちょっと今別方向から弾が飛んできた気が…


「腕時計ゲーッツ」

神楽ちゃんが後ろで息を飲むのがわかった。僕も同じ。だってそこには…


「お、沖田さん!?」

「オーイ早くよこせィ腕時計」


隊服を着た紛れもない真選組沖田総悟が銃を片手に焼きイカを頬張っていた。

神楽ちゃんが僕を押しのけて沖田さんの前へ出た。何を言うでもなく、ただメンチを切り合う。

二人の間に火花が見えた、気がした…。


「あだっ!ちょっ、おじさんのはナシだよ!ちょっと!聞いてる!?オイ!!」

長谷川さんの短い呻きが断続的に続いて、二人の放つ弾丸の音がそれをさらに痛めつけていた。

人間の諸行ではない。

新八は二人の鬼畜の奇行をはらはらと見守った。


あれ、そういえば沖田さんと言えば二言目にはその名前をあげたくなるくらいには常に付き添っている加恋さんだけど、今日は見当たらない。

大方将軍様のおもりで真選組が配備されてるって感じだろうけど、それなら真選組は総動員もので、非番なんてないじゃないだろうか?


「沖田さん、加恋さんは?」

「あん?
あぁ加恋か、あいつは今頃俺の代わりにきりきり働いてるさ」


神楽ちゃんと、もはや射的なんて関係ナシにとっ組み合いのじゃれ合いを始めてる沖田さんは、まるで留守番させてきた犬のことを今更思い出したかのように、そっけなく返事した。

背筋が冷えるのがわかる。


「ちょっとアンタ、まさか加恋さんに任務押し付けてきたんじゃないでしょうね」

と、沖田さんは動きを止めた。
僕は負けじと少しの嫌悪をにじませて、にらんでやる。

沖田さんはそんな僕を無表情で見下ろして…


笑った。


「だったらどーした?俺の命令があいつにとっては何より美味なエサだ。

俺があいつに何しようとメガネ、てめーにゃ関係ねぇ。お前にあいつのことは理解できねえよ」


はんっ、とこぼされた嘲笑は新八に惨めにふりかかる。

が、新八は真っ当にやさしき男だった。

自分が見下されたことよりも、加恋は祭で沖田とのデートでも思い描いていたのではないかと、任務を押し付けられた挙句一人遊びに行かれて傷ついてはいないかと、そんなことを何となく気にしていた。

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