縛られる自由



万事屋での和やかな時間は、陽が傾く夕刻までしばらく続いた。

甘いお菓子を次から次へと口へ運ぶ銀ちゃんは、意外なほどに饒舌に私とおしゃべりしてくれたし、新八くんはにこにこお茶をすすりながらときおり銀ちゃんのしょうもないセリフにツッコミを入れてくれた。

「だからよォ、おめーはもっと自信持っていいって。ツラだけならほかにも、何ならお前より上等やつァたくさん知ってるけどよ、こんなにまっすぐにはなかなか育たねーって」

銀ちゃんは最後のお菓子をぽいっと口にほおると、むず痒いほど私を褒め称える言葉をくれる。

褒められた時は「ありがとう!」と素直に笑うのが私のいつものリアクションなんだけど、いかんせんこんな褒めちぎられたことがあまりないので、反応に困ってしまう。

いっそ居心地が悪いような気もして、控えめに笑った。

「そうかな」
「そうそー。アレだな、親御さんの教育の賜物なんだな」

うちも見習いてーよ、教えてくんない?と神楽ちゃんを一目見て悪戯に笑ってみせた。

だけど、私にはわかる。

銀ちゃんは私がどんなにイイ子でまっすぐだと思っても、神楽ちゃんを選ばなかったりなんて、絶対にしないこと。

神楽ちゃんはその上をいくようないい子で、その上をいくまっすぐさを持った子だって、きっと銀ちゃんは全部わかってるから。

けれど、当の本人はその言葉が癇に障ったらしく、ギロッと銀ちゃんを睨みつけた後疎ましそうな目を私にもむけた。


(銀ちゃんも、それを言ってあげないと伝わらないと思うんだけどなぁ)

不器用な家族に少し内心笑いながら、私は時計を盗み見た。

「あ、私そろそろ帰らなきゃ
夕方には戻るって言ってあるんだった」

「お、そりゃいけねーな。俺がアイツにシメられる前に早くかえってやるこったな」
「アイツって?」

銀ちゃんは、なんだ鈍いやつだな、と呆れたような顔をする。


「沖田くんに決まってんでしょ」

「ふふっ、へんなのー。
隊長はそう簡単に人に怒ったりしないよ」

私はしばかれるかも知れないけど!

そう笑って付け足すと、銀ちゃんは微笑んで、膝を叩いたたきながら椅子から立ち上がった。

「っし、そこまで送ってやるよ」
「え?いいよ〜そんなの」

笑いながら手をひらひらふると、さっきまで黙って酢昆布ばかりを食べてた神楽ちゃんがやっと口をひらく。

「そうアル、こいつ仮にも警察ネ、警察官が一般市民に送られるなんておかしな話アル。そこまでしてやる必要ないヨ!」

「まっ、それもそーだな」

銀ちゃんはアッサリ引いて、再び椅子に腰掛け直した。足を大げさに組んで、気だるげな様子で、何でもないように。


「じゃあ神楽、テメーが送ってやれ」

不法入国違法滞在娘なら、一般市民でもあるめー、などと言いながら。

一瞬の沈黙の後、神楽ちゃんはすごい剣幕で食ってかかった。

「ハァッ!??!何で私が!てかその肩書きじゃ私真っ先にコイツに捕まる立場だろーがァ!」

「行かなくても良いけど、お前晩飯抜きだぞ」
「なッ…!??」

神楽ちゃんは口をぱくぱくさせて怒りに震えている。私は微妙な顔をしながら、気まずく2人の顔を交互に見やるしかなかった。


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