授業中に寝て、ランスロットが夢に出てきたのを覚えている。
目が覚めたらそこは教室じゃなくてどこかの部屋で、椅子にベルトで体をガチガチに固められて身動きが取れなくて、目の前には何故かセシルさんがいて、まだ夢を見ているのかとボンヤリ思った。
だけど後頭部がズキズキと痛い。
これは夢じゃないな現実だ。
頭だけじゃなく身体も痛い。あたしに何があったんだ?
セシルさんはお姉さんみたいな笑みを浮かべ、手当てをしてくれている。

「ごめんなさい。
痛いけど今は我慢してほしいの。
あなたには聞きたいことがたくさんあるから」
「聞きたいこと?」
「そう。どうしてランスロットの中にいたのか、その理由と経緯をね」

ランスロット? ランスロットの中に?

「……中にあたしが!?」
「ここは軍の基地よ。
ここがどんな場所かあなたに理解してほしい。
言えないならどんな手段を使ってでも、あなたに話してもらうつもりよ」

セシルさんの瞳から優しさが消えていた。
非情な軍人としての顔に、ひやりとした寒気に襲われる。
脅しじゃない。言わなきゃヤバイ。
でも、どう説明すればいいの? ランスロットに頼まれてここに来ましたって?
絶っっっっ対信じてもらえない……!!

嫌な汗がブワッと出てきそうだ。
思わずセシルさんの目から逃げ、床に視線を落とす。
言えるわけない。こんな嘘みたいな話。


「私が成せなかったことを、どうかあなたが成し遂げてください。
それが、私の唯一の願いです」



……やっぱり言おう。話せる事だけでいいから、きちんとセシルさんに。

「話します。
信じられないかもしれないけど、最後まで聞いてくれますか?」

顔を上げればセシルさんと目があった。
真剣な瞳に、信じてくれる確信を抱けた。

「あたし、違う世界から来たんです」

耳を疑うような始まりだったけど、しどろもどろの説明だったけれど、最後まで話す事が出来た。

「……私達の世界があなたの世界では物語になっていて、その物語の主人公がスザクくんだなんて……」

信じてくれたみたいで安心した。
けど、軍人としての顔が出来なくなるほどセシルさんを戸惑わせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
更に罪悪感ですごく肩身が狭い。本当はルルーシュが主人公なんです。
でもこれは仕方ない。ルルーシュやC.C.やギアスについて話すわけにはいかないからだ。
『スザクが主人公の特派の物語』にするしかない。

「……あたし自身、異世界なんて漫画や小説の中だけの話だと思ってました」

ギアスの世界に行けるなら────なんて妄想はしたことある。
でも実際に自分の身に起こるなんて思いもしなかった。

「夢を見たんです。毎日ずっと。
声が聞こえる不思議な夢を」
「声……?」
「最初は声だけで、でも今日見た夢にはランスロットが出てきて、彼を助けてほしいって言われました。
分かったって頷いて、その後目が覚めたらここにいて……」

セシルさんは絶句していた。仕方ない反応だ。あたしだってそうなる。
でもセシルさんの瞳にはあたしを疑う色は無い。彼女はすぐに口を開いた。

「あなたはこの世界を一つの『物語』として知っているんでしょう?」
「あ、はいっ。
スザクを中心に話が進むからその他のことはあまり分からないんですけど……」
「そう。なら、あなたは知っているわよね。
スザクくんが主人公の物語がどんな結末を迎えるかも」

セシルさんが何を知りたがっているかすぐに気づいた。

「ごめんなさい。あたし、途中までしか知らないんです。
だから物語の結末────この世界の未来がどうなるか分からなくて……。
あ、でも未来にあたるようなことなら知ってるかも……」

呟いた途端、セシルさんがすごい勢いで急接近してきた。

「知ってるの?!」

セシルさんの瞳はキラキラしている。
すごい食いつきっぷりだ。
驚きであわあわしてたら、奥の扉が自動で横にスライドして「アッハァ〜!!」と奇声を上げるロイドが入ってきた。
その後ろにはスザクもいる。

「盛り上がってるねぇ〜!!」
「ろ、ロイドさん!? どうしてここに……!!」
「そばで聞きたくなっちゃったぁ!!
今からボクも参加させてもらうよ」

にやぁ、とロイドは薄く笑う。

「キミの話は他の部屋で全部聞かせてもらったからね。
ボクもキミの言った『未来にあたること』が何か興味がある。
信じてもらいたいなら隠さず話してねぇ」

言わないと殺される。
そう思ってしまうような凄みのある薄ら笑いをロイドは浮かべた。

「信じてほしいです。
信じてもらうなら言わなきゃいけないのが当然だと思います。
でも、もし話して『そのこと』があたしの知ってる通りにならなかったら……。
未来が変わってしまったらどうしようって、あたしにはそれだけが不安で……」

今は『コードギアス』の何話なんだろう?
それが分からないまま話して大丈夫なのだろうか……。

「『信じてもらうなら言わなきゃいけないのが当然』
なら、話すべきだとボクは思うよ。
それにキミに一つ言っておこう。
本当に未来ってものは定められていると思うのかい?」

ロイドがあたしの後ろに回り込む。
何をするかと思ったら、あたしの両肩に手を置いただけだった。

「未来っていうのはね、誰が何を思ってどんな行動をしたかによって幾千にも分岐する。
そもそもキミがここにいる時点で、キミが知る未来の通りにはならないと思うんだけどォ?」

盲点を突かれたような気分だった。

「……そっか。確かに一理ある」

あたしが知ってるのは『“あたしが存在しない”コードギアス』だ。
確かに何が起こるか分からない。
どうやらあたし以上に、ロイドは物事を柔軟にとらえてくれてるようだ。

「………でもやっぱ言えないです。
だって『そのこと』を話して、本来は無傷なスザクが怪我をするかもしれない────そんな風に変わったら嫌なんです」

言って変わるか、言わないで変わるか。
そのどちらかなら、多分言わないほうがベストだと思うんだ。

「……でもやっぱ言わないとヤバいですよねあたしの身」

ヤバイだろうなぁという気持ちでロイドを見れば、怖くなるほどの満面の笑みを返された。

「……い、今が話のどこに位置するか確認させてください。
話すのはそれからです」

ヤバい。言わないと絶対なにかされる。
でも確認する為に何を話せば?

あたしが知ってるのは8話の、黒の騎士団誕生の回までだし。
それをヘタに言えば、黒の騎士団がアピールできるホテルジャックが未然に防がれてしまう。
それは『コードギアス』的にはNGだ。
うぅむ、どうすれば……。

「あ、そだ!
あたしが言う単語、ピンと来たら教えてください!」

これなら8話に関係する単語だけで、今が8話より後か前かっていう分かる。
この場にいる全員を見るが、誰も反対するような様子は見せなかった。

「なら、そうですね。
ホテル、人質、おとり、トンネル、ヴァリス。
えーっと……他に……」
「いや、もういい」

他の単語を上げようとしたらロイドに止められた。
どうして?と顔を向ければ、ロイドの顔から笑みが消えているのに気づいた。
セシルさんとスザクの顔には動揺が色濃く浮かんでいる。
これってもしかしてビンゴ?

「それがあなたの『未来にあたること』?」

頷けば、セシルさんとロイドは目で会話しているようにお互いを見合っている。
セシルさんは再びあたしに視線を戻す。
彼女は残念そうな顔をして言った。

「あなたが言った単語に該当する出来事は、ちょうど一週間前に起こったの。
ゼロ率いる黒の騎士団が公に現れた──────カワグチ湖のホテルジャック事件」
「そうなんですか……」
「ざぁんねんでした♪」

ロイドが小バカにするように笑う。
彼の『残念でした』が今初めて憎らしく思った。

「じゃ、どっちにしてもあたしは未来は知らないってことですね。
あたしが知ってるのはホテルジャック事件までですし」

落胆していたら熱い視線を感じた。
顔を上げれば、スザクがあたしをジッと見つめている。

「え……っと、あたしに何か?」
「キミが言う物語の主人公が僕なら、その……どこから知ってるか教えてほしい」
「どこから?」

……あ、そうか。
やっぱ気になるもんね。
自分の知らない所で自分が物語として表現されてるなんて分かったら。

「ランスロットのデヴァイサーに抜擢されたところからかな。
相手の銃撃を軽々よけてホントすごかったよ。
あぁでも、目の前の敵よりも落ちてく人を助けるのを優先したとこが一番カッコよかったなぁ……」

ザワッと場がざわつき、コードギアス熱に火がつきそうだったあたしは我に返る。
あたしは何かマズいことを言ったのだろうか?

「…………やっぱり信じるしかないと思います」

スザクが呟き、セシルさんも深く頷いて同意する。

「私も同じです。
あの時、スザクくんが人助けを優先したことは私達しか知らない出来事ですよ」
「まぁ、確かにそうだけど……。
ボクとしては別の決定的な何かがほしいなぁ」

ロイドが信じるまであと一歩、というところか。
困ったように眉を寄せていたセシルさんは、良い案が浮かんだのか手をポンと叩いた。

「そうだ! カワグチ湖のホテルジャック事件であなたが心に残ったことを言うってのはどう?
私達しか知らないことを、もしかしたらあなたは知っているかもしれないから」
「それは名案ですね!」

セシルさんとスザクはノリノリだ。
二人の期待の眼差しがきらきらと降り注ぐ。
8話で心に残ったこと?
うーん、と軽く唸り、8話のイチ場面が頭をよぎる。
心に残ったと言えばこれしかない!

「『よせ! 枢木准尉!!』ってロイドさんがスザクのことを初めてちゃんと呼んだのが印象的でした!」

言った途端、スザクは驚いた顔でロイドを見た。
ロイドは気恥ずかしそうにゴホンと咳払いする。
セシルさんは満足げに微笑んだ。

「これで決定ですね」
「……仕方ない。
スザクくん、彼女の拘束をといてあげて」
「分かりました!」

スザクが走り寄り、身動きを封じていたベルトをスルスルほどいていく。
感じていた息苦しさや圧迫感が無くなりホッとした。

「ありがとう」

お礼を言ったけど、ぷいっと顔を背けられた。何故だ。
寂しさと疑問はあったけど、それよりも自分の足で立てた感動が上回る。
ロイドがぬっと笑顔を寄せてきた。

「両手、出して」

ワケが分からないまま、言われた通りに両手を出す。
するとガチャンという金属音がして、あたしの両腕に手錠がかけられていた。

「はぁああああ!?」
「な、なにしてるんですかロイドさんっ!!」
「なにってセシルくん、やっぱり少しぐらいは警戒しないとォ。
キミ、しばらくはこのままだから」

手錠をかけた張本人は、にーっこりと憎らしくなるほどの満面の笑みを見せた。
泣きたくなるぐらい腹が立つ。
でも先ほどのベルトでガチガチに拘束されてるよりかはマシだなぁと思ってしまった自分が悲しかった。

「じゃあ改めて聞かせてほしい。
キミの名前は?」

腹は立つけど、信じてくれようとしてるのは嬉しかった。

「七河空です」

そして、その日からあたしの奇妙な生活が始まった。


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