そこに凛と立つ鋼鉄の騎士は、今は静かに沈黙している。
鋼鉄の騎士────ランスロットの生みの親・ロイドは、ふてくされたように唇を尖らせていた。

「最近、ボクのランスロットが寂しがってるよ」

学校の課題を片付けるために黙々とペンを動かしていた枢木スザクと、ノートパソコンでデータ解析をしているセシルが同時に顔を上げた。
唐突な言葉に2人は目を白黒させている。

「え? 寂しがる……?」
「うん。
最近、黒の騎士団の動きが大人しい。つまらないと思わないかい?」

少しも共感できない事を言われ、スザクは困惑の表情になる。
その表情の変化にロイドは気付かず、気付こうともせず、話を続けた。

「正義の味方を語るのは良いけど、できればランスロットのデータが取れるように動いてほしいよねぇ」

セシルは眉をひそめ、上司に非難の視線を送る。

「ロイドさん。その言い方は不謹慎ですよ」

スザクはうんうんと頷いた。
不満に満ちた顔でロイドは腕をぶらーんぶらんさせる。

「だぁってヒマなんだもぉん!
キミだってランスロットを走らせたいでしょ!?」
「ヒマでも出来る事はありますよロイドさん。
こういう時は、すぐに動けるように調整するんです。
さ、スザクくん。ランスロットに乗り込んで数値の確認をしましょう」
「はい」

席を立つスザクの面持ちは、穏やかなものから凛としたものに変わっていた。
ランスロットを見上げ、ジッと見つめ、相棒に挨拶するようにスザクは小さく頷いた。

「スザクくん。準備ができたわよ」
「はい。すぐ乗り込みます」

いつもと違う、急を要さない搭乗。
ただの数値確認で戦闘は無い。
それでもスザクは戦場に赴く気持ちでコクピットへ行く。
乗り込もうとした時、凛とした顔が驚きでギョッと崩れた。
その場で凍りつき、硬直する。
スザクの異変にセシルにすぐ気づいた。

「スザクくん、どうしたの?」

ぎこちなく顔を上げたスザクは、か細い声で呟くように返事をした。

「あ、あの………セシルさん……。
女の子が……………ランスロットの中で眠ってます」


  ランスロットの
    眠り姫/01


「……それがキミの結論?」
「はい。
私は、彼女がこの時代の人間ではないと思っています」

ランスロットの中で眠っていた少女は引きずり出して別室に連れていき、椅子に縛り付けて拘束している。

「根拠は?」
「私たちに気づかれず、たった一人でランスロットの中に侵入するのは不可能だからです」
「確かにその通りだ。
……でも、理由はそれだけじゃないんでしょう?」

セシルは頷き、少女をそばで監視するスザクを────スザクの手にある小さな手帳をジッと見据えた。

「彼女の所持品に、私達には読めない文字で書かれた小さな手帳がありました。
10年も前の生徒手帳だとスザクくんは言っていました」
「10年も前の? あれが?
それにしては紙質が新しすぎる。偽造じゃないの」
「偽造する理由が分かりません。
スザクくんは本物だと言ってました。私もそう思います」

ランスロットの中で眠っていた少女がこの時代の人間ではない。
セシルの言ったフィクションみたいな話をロイドは一笑で否定することはしなかった。

「ならセシルくん。
本人に聞いて確認してみましょうか」
「はいっ!」

セシルは早足で、ロイドはゆったりした足取りで少女の元まで歩を進める。
近づく2人に気づいたスザクは後退し、場所を譲る。

「スザクくん。彼女になにか変化はあった?」
「いいえ。異変はありませんでした」
「そう。じゃ、起こすからスザクくんは下がってて。セシルくんもだよォ」

スザクは緊張で顔を強ばらせ、セシルも同じ気持ちで唇を強く結ぶ。
ロイドはゆっくりと少女に歩み寄り、手を伸ばして彼女の鼻をつまんだ。
5秒ほど経過した後、

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」

少女がビクリと大きくのけぞり、椅子が後ろに大きくゆっくりと傾いた。
あ、とスザクが思った瞬間、凄まじい勢いで倒れ、少女は頭は強かに打ち、その場が一時騒然となった。


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