真っ暗闇の中で、誰かが何かを訴えていて、だけどハッキリとは聞き取れない変な夢を見る。
何回もだ。寝るたびに見てしまうその夢が、最近のあたしの悩みのタネだった。
寝不足が続いているのはその夢のせい。

どうして毎晩同じ夢を見るんだろう?
素で話せるたった一人の親友は、
『ご先祖さまが何か伝えたくて夢に出てるんじゃないの?』と言った。

もうすぐ定年のおじいちゃん先生がゆっくりと教科書を読み上げている授業中。
ご先祖さまの訴えが何か分かったら、もう夢に出てこないってことじゃないの?と、そんなことをひらめいた。
教室をぐるりと一瞥すれば、何人ものクラスメイトが幸せそうな顔で居眠りしている。
窓から差し込む陽光はポカポカだし、先生は居眠りを注意しないし、寝るにはもってこいの環境だ。
それに加えてあたしは寝不足。まぶたを閉じればすぐに眠れるだろう。
よし! ご先祖さまに聞いてみよう!
腕を枕にして眠る体勢に入る。窓際の席って特にあったかいなぁ。
雲ひとつない快晴の空は、写真に残しておきたいほどキレイだった。
まぶたは次第に重みを増し、あたしの意識はゆっくりと深い闇に沈んでいく。
意識がストンと落ちれば、あたしは夢の中にいた。
墨をぶちまけたような真っ黒の空間が果てしなく広がってる。


  私の望みは、彼と共に進むことです


何を言ってるか分からない声が、今は何故かハッキリと聞こえた。

「『彼』? それって誰のこと言ってるの?」

あたしの声が空間に大きく響く。
今までの夢は一方的に言われるだけだった。謎の声を聞くだけだった。
喋れるなんて初めてだ。多分、この夢は今までと違う。


  私の望みは彼と共に進むことです
  私は剣となり、盾となり、
  共に駆け、共に戦いました



空間全体に響く声は、男みたいな女みたいな不思議な声をしていた。
ご先祖さまはあたしに何が言いたいんだろう?
戸惑いの気持ちはあったけど、それ以上にふつふつと憤りが湧いてくる。

「……全然、分からないよ」

何回も何回も何回も夢に出てきて、結局何が目的なんだ。何が言いたいんだ。
ワケの分からない自己主張で人を睡眠不足にさせて!

「分からないわよそんなの!
あたしに何か伝えたいことがあるなら出てきなさいよ!!」

怒鳴った途端、空気が震えてご先祖さまが現れた。

「ご先祖さまデカッ!!!」

思ってたより巨大だった。
あたしの身長より何倍も何倍も大きい。
山みたいな形の巨人は白く輝いていて、闇を消し去るほど眩しかった。


  私は彼の絶望を、
  照らすことが出来ませんでした



ご先祖さまの言う『彼』が誰か分からない。
けど、声はすごく悲しそうで、聞いてるこっちの胸が苦しくなる。


  お願いします、どうか
  どうか彼を導いてください
  行く先を照らす光となってください

  それが、私の唯一の願いです



言うだけ言ってご先祖さまは沈黙してしまった。
これ、どうすればいいの……?
さっきまで湧き上がっていた憤りがシュンと消え、困惑する。

「あたしは誰に、何をすればいいの?
あたしに何をしてほしいの……?」


  私が成せなかったことを、
  どうかあなたが成し遂げてください



助けを求めるような切実な声。
『どうしてあたしなんだろう?』と疑問に思ったけど、それ以上に強い気持ちが、溢れるほどいっぱい湧き上がる。
助けたい、とあたしの心がそう思った。

「分かった」

山みたいな巨人がだんだんと縮んでいき、ハッキリとしたシルエットに、覚えのある形になっていく。

「え? ご先祖さま……?」

ご先祖さまじゃない。ランスロットだった。
覚えがありすぎて口がポカンとする。
眩い光を放つランスロットが片膝をつき、ゆっくりと手を差し伸べてくる。
やっと分かった。
誰か分からない『彼』が誰かやっと分かった。
すぐ目の前にある手を両手でギュッと握る。

「助ける。あたし、助けるよ。
自分に出来る精一杯で」

ランスロットの手の大きさに比べれば、あたしの手はちびっ子みたいだ。
夜が明けるように、闇がだんだん晴れていく。真っ白な輝きで満ちていく。
手の方から強い何かが流れ込んできた。
威圧感は無くて、優しくてあったかくて、悲しくもないのに泣けてきた。
そして意識が遠のき、寝落ちするみたいに意識が途絶えた。


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