19話(中編)


司令室は緊迫した空気に満ちている。
俺のそばに居る空もその空気を感じ取っていることだろう。
ロロ、咲世子、ヴィレッタの3人は俺の言葉を待っている。

会長の卒業イベント。
『スザクがなぁ、総督の補佐で参加できないってさ』とジノが残念そうに言っていた。
唯一の懸念事項が消え、これで咲世子を作戦に組み込める。

「キューピッドの日。
今日のイベントで女達との関係を一気に清算する」
「そして、兄さんは晴れて自由の身となる」
「ああ。
幸い、このイベントは教師も参加できる」

ヴィレッタはギョッとした顔で俺を見た。
イベントに参加する気は無かったのだろう。そうはさせない。

「ヴィレッタに俺の帽子を奪ってもらう」
《え!?》

思った通り、空はひっくり返った声を上げた。
すまない。それしかないんだ。

「ま、待て! それはおかしな誤解を招く!!
この件は咲世子が責任を取るべきだろう!」
「申し訳ありません。
私はイベント途中でルルーシュ様の影武者を……」
「おかしな女に捕まらない為にも必要です」

ロロにジーッと見つめられ、ヴィレッタは嫌そうな顔をした。

「だったらシャーリーでいいだろう!」
「確かに……それも一つの選択肢ですが」
「あれは相当お前に惚れているぞ。
お前を守る為に私を撃ったこともある」
「だから、もう巻き込みたくないんだ」

『失いたくないものは遠ざけておけ』といつかC.C.に言われた。
その言葉に心の底から同意する。
遠ざけなければ、マオの時みたいに。
いや、もっとそれ以上の何かが。
そうならないために俺は────

────ふわり、と。
背中の辺りに何かを感じた。

《空?》

確証はない。
それでも、後ろから抱き締めてくれたように思えた。

《成功する。
咲世子さん達がいたら大丈夫だよ》

明るい声に、肩の力が自然と抜けた。

《……そうだな》

咲世子達に作戦概要を伝え、それぞれが持ち場につく。
俺とロロは3年D組の教室に。
咲世子は地下司令室のエレベーターに。
ヴィレッタは裏門に。
空は全力で逃げる咲世子が見たい、と強く希望して別行動だ。

生徒全員が帽子を装着し、臨戦態勢に入った。
教室だけじゃなく、廊下の空気まで張り詰めている。
教室後ろの縦長ロッカーの前に立つ俺をシャーリー含む女子全員が狙っていた。
そして、校内放送の音が鳴る。

『みなさ〜ん!
今日が最後の生徒会長、ミレイ・アッシュフォードで〜す!!
まもなく私の卒業イベント、キューピッドの日を開始しま〜す!
あ、ターゲットから最低2mは離れていてね』

教室だけじゃなく廊下まで、虎視眈々と俺を狙っている。
この状況で逃走できるのはスザクと咲世子だけだ。
後ろのロッカーに潜むロロの存在にホッとした。

『ルールは分かりますね。
相手の帽子を奪ってかぶるだけで、2人は強制的に恋人同士になれます。
帽子を取る方法は問いません。
チームを組んでも、道具を使ってもオーケー。
では、スタートの前に私から一言』

息を大きく吸う音が聞こえ、そして、

『3年D組ルルーシュ・ランペルージの帽子を私のところに持ってきた部は部費を10倍にします!!』
「なにっ!?」

早口の追加ルールに、男達も一斉に俺を見た。

《難易度が上がったーーーー!!》

遠くで空が絶叫する。
「部員を集めろ!! うぉーーー馬を出せーーー!!」と遠くで雄叫びまで。

「最後まで悪ふざけを……!!」

視界に入る全てを見据える。

『それではスタート!』

開始の声を聞いた直後、視界が大きく変わった。
時間を止めている間、俺をロッカーに入れてくれたのか。
騒々しい声はロッカーを隔てた向こう側から聞こえる。
あとは、そばで苦しそうな荒い呼吸。

「悪いな、ロロ」
「う、うん。大丈夫……」

顔色が悪い。
必要とはいえ、こんな事でロロの心臓に負担を掛けなければいけないとは。

バタバタと廊下を出ていく騒がしい音が聞こえ、教室内は一気に静まり返る。
しばらく待ってからロッカーを出た。
動くのが辛そうなロロに、自分の部屋で休むようにお願いし、俺は教室を後にする。
事前に何人かギアスをかけ、偽りの逃走情報をバラまくようにしたおかげで、発見されることなく図書室まで行くことが出来た。
静かな空間には誰もいない。

《ルルーシュ。
あたし今ジノの所にいるんだけど、8人の女子に追われてめちゃくちゃ楽しそうに逃げてるよ〜》
《……本当にジノはこの学校に遊びに来ただけのようだな》
《大丈夫そう。あとはアーニャだけど……。
あれはビックリしたね。まさか皇子の時の写真があるなんて……》
《アーニャは俺を疑っているようだが、そのレベルなら問題はない。
ナイトオブラウンズの件はクリアだ
あとは咲世子と入れ替わり、会長の遊びに付き合ってやれば……》

突然頭が軽くなる。 

「やった〜! これでルルーシュ君と恋人同士だ〜!!」

背後で聞こえた軽い声。
俺としたことが、帽子を奪われてしまった。
振り返れば嬉しそうな笑顔の女がいる。
薄紫色の長髪と丸い顔────水泳部所属のミーヤ・I・ヒルミックか。

「……ああ、ミーヤ君」
「何? マイハニー!」

無邪気な瞳をジッと見つめて、俺はギアスを発動させる。

「返してくれないか? その帽子を」
「は〜い!」

返してくれた帽子を受け取ってすぐ逃走する。

《すまない、話の途中で。
ちょっとした些事が》
《トラブル? また後で話そうか》
《そうだな。落ち着いた時に。
咲世子がもうすぐ外に出る。ポイントaで待っていてくれ》
《うん! ありがとう!》

周囲には誰もいない。近づく気配も感じない。
これなら咲世子と問題なく入れ替われる。

司令室に続くエレベーターが開く。
中でもうひとりの俺 咲世子が待機していた。

「入れ替わりは?」
「ここでいい」
「わかりました」

変声機を装着している咲世子は、今は俺の声になっている。
咲世子を見送り、エレベーターが閉まる。
やっと一息ついた。

司令室に到着してすぐ、モニターに表示している校内図を確認する。
発信機は問題なく作動していて、咲世子の現在地がよく分かった。
走っている。俺では出せないスピードで。
セットした数多くの盗聴器が音声を拾い、ラグビー部と俺の声がハッキリ聞こえた。

『これで部費は我がラグビー部のものだー!!』
《ぷっ……ははは!》
『とう!!』
《あははっ!!》
『さらば!』
《んくくくく……!!》

空は何をそんなに笑っている!?
俺はすぐに通信機を咲世子に繋いだ。

「咲世子、変な掛け声はやめろ。
俺の人格が疑われる」

モニターに監視カメラの映像────木陰に隠れる咲世子を映す。

『申し訳ありません。思わず』
「それと裏門には行くなよ。
ヴィレッタが待機しているからな」
『分かりました』

咲世子は俺の姿で地を駆ける。猛スピードで。
表示していた映像を消し、モニターの校内図に意識を向ける。

「咲世子。
校舎を迂回して、第二体育館へ移動。正面には敵軍科学部がいるはずだ」

隠しカメラの映像を確認する。
思った通り、科学部はロケット花火発射装置と共に待ち構えているのが見えた。

『撃てーーー!!』

全てのロケット花火が発射され、

『ふんっ!』

咲世子はスザクしか出来ないような跳躍で、空高く一回転して避けた。
《きゃああああああああ!!!!》と熱狂的な喜びの声と共に、美しい花火が空を彩る。
《ルルーシュすごい!! クルクルしたよ! クルクルって!!》と空は興奮した。
大喜びの声に俺は苦笑する。
今は返事をしない。優先するべきは咲世子だ。

『バカな!』

軽やかに着地し、逃走した。
科学部は敗北に震えながら、『ルルーシュのくせにーーー!!』と吠えた。

「(どう考えてもやりすぎだが。
咲世子は天然だから指示を出しても無駄か。
仕方ない、明日から体育の授業はあいつに……)」

科学部を突破しても、次の特殊部隊が咲世子の行く手を遮る。

『幻惑部隊! 前へ!!』

女が五人、横並びで現れた。
布面積の少ない服を着ていたり、ビキニ姿で肌を惜しげもなく晒していたり、リボンやフリルを存分に使った服を着ていたり、なんだあの衣装は?と眉をしかめたくなる格好をしている女もいる。
下心のある男が見たら鼻の下を伸ばすだろうが、俺の心には一切響かない。

《うわぁ……》と空が元気無く呟いた。

『ルルーシュ君もォ男の子!』
『絶対隙がぁ』
『できるはず〜』

減速することなく、咲世子は軽々と飛び越えた。

『女体に意味はありません!!』

颯爽と走り抜ける。
スザク以外で咲世子に敵う生徒は誰ひとりいない。

《これは本当に咲世子さんで良かったよ……》

空の声は疲れきっていた。
校内放送の音が鳴る。

『全生徒に通達!
ルルーシュ副会長を見つけて一斉攻撃!』
「会長! 完全に遊びモードに……!!」
《る、ルルーシュ!! 空! 空に!!》
《どうした?》

まるで空からスザクが現れたような取り乱し方だ。俺は身を固くする。

《モルドレッドが!!》
「なに!?」

急ぎ、モニターに映像を表示させる。
モルドレッドが低空飛行で校舎周辺を徘徊する姿が映し出された。

「……迂闊だったな。アーニャまで一般常識に欠けていたとは……!
咲世子!」
『はい!』
「作戦を最終局面に移行、咲世子は図書室に!」
《ギャアアッ!!
ルルーシュ! モルドレッドに見つかった!! 追い、追いかけてくる!!》

空が悲鳴じみた声を上げる。

《安心しろ。咲世子なら捕まらない》

咲世子の身体能力なら不安は無いが、追跡されたままでは入れ替わりに支障をきたす。
ヴィレッタ含む全教員に、時間稼ぎの妨害を指示した。
これが功を奏したのか、

《こ、怖かったー……。
モルドレッドやっと止まってくれたよ……。
あたし、アーニャのそばにいるね》

聞こえた声に、妨害が成功したことを知る。

《ああ。
何かあれば教えてくれ》

図書室で咲世子と合流し、入れ替わりは滞りなく終わった。
本棚がエレベーターを隠した直後、シャーリーがいきなり現れる。

「あ、ルル!
やっぱりここにいた!」
「シャーリー」

ジッと俺を見据えるシャーリーに笑顔は無い。

「ねえ、ルル」
「ん?」
「どうしてルルは……私を抱き締めたの?」
「そ……それは……」

ジッと一心に見つめてくる。
真剣な顔で目力が強い。
今この場で、俺は嘘を言ってはいけない。

「大切、だから……」
「ウソ。そんなんじゃなかった。
あの時のルルは何か隠そうとしてる感じだった」

鋭い。本当によく見ている。
シャーリーは頬を少し膨らませる。
目力は強いまま、不満そうだ。

「私、ルルが全然分かんないよ。
急に抱き締めてきたり、寮の子みんなとデートばっかりしたり」
「違う! 断じてデートではない!」
「デートなのっ!!」

空だけじゃなく、シャーリーまでそう思っている。
男女が二人きりで出掛けるだけ。そう思っていたのに。
相手はデートだと受け取っていたのか。約束している108人の女子全員が?
思い至ってゾッとした。

「デートは……好きだと思う者同士がするものだろう……」
「る、ルルはそう思ってたの……?」

シャーリーの目力がほんの少しだけ弱まった。

「そうだ。
デートは、その、特別だからな。
好きだと思える人とするのがデートなんだ。
俺はただ、頼まれて出かけてるだけで」
「そ、そう……なんだ……。
ルルにとってはデートじゃなくて……」

勢いがどんどん無くなっていく。
目が潤み、泣きそうな顔になる。

「誤解させてすまない。
でも、シャーリーを大切に思っているのは本当だ。
俺の気持ちに偽りは────」

言い切る前に顔面に柔らかいものをムギュッと押し付けられた。
両手で掴み、確認する。
赤い帽子。
次いでシャーリーを見て、これが彼女の帽子だと気づいた。
俯いていて表情が見えない。

「大切、なら……。
ルルは……私の帽子……かぶって、くれるの……?」

シャーリーの気持ちも、彼女が俺に望んでいる言葉も、よく分かっていた。
正直に伝えるべきだ。すべてを話せなくても。

「……俺は、誰の帽子もかぶれない」

シャーリーはバッと顔を上げる。
瞳を限界まで見開き、どこか鬼気迫っていた。

「好きな子がいるの!?」
「あ「待って言わないで!!」

今度は両手で口を塞がれた。
シャーリーの名を呼ぼうとしても、彼女の手のひらが発声を妨げる。

「な、なん、なんにも言わないで……!!」

手が震えている。
シャーリーの瞳に涙が浮かび始め、見てはならないものを見てしまった罪悪感で目を伏せた。
渡してきた帽子を落とさないように右手で持ち直し、空いている左手を、今も口を塞いでいるシャーリーの手に重ねる。
彼女はびくりと震え、バッと離れる。
聞こえた後ずさりの音から、シャーリーがだいぶ離れたのを察した。
遠くで鐘の音も聞こえてくる。
“キューピッドの日”終了だ。
事前に周知されたプログラムでは、終了後に参加生徒は外に集合することになっている。
シャーリーが離れていく。彼女の足音が遠ざかる。目を開いてすぐに追いかけた。

何も言うな? 素直に従うわけにはいかない。
シャーリーにギアスをかけた日────なくしてから初めて分かったんだ。
思っていることは伝えろ。シャーリーの心に届くように。

「大切だ!
失いたくない、大事だと思ってる……!
シャーリーの笑顔に救われた日もあったんだ。
『ルル』と呼ぶ声に俺は何度も!」

シャーリーは振り返らない。
歩き続ける彼女の後を追いかける。
ぐす、とたまに聞こえる小さな音に、俺はこれ以上何も言えなかった。
外に出るまであと少し。シャーリーは止まり、振り返ってくれた。
目が赤い。泣かせたのは俺だ。

「ねぇルル」
「は、はい」

泣き顔のシャーリーはくすりと微笑んだ。

「私の帽子、ずっと持ってくれてるんだね」
「……あ。
ああ、そうだな……」

言われてから視線を落とす。
シャーリーの赤い帽子を、俺は両手で抱え持っている。
顔を上げ、シャーリーに視線を戻した。

「ルルの心に、私はちゃんといる?
いなくならない?」
「もちろんだ。
シャーリーは俺の心にいる。
これからもずっと」
「ずっと……」
「ずっとだ。俺の命が尽きるまで」
「……へへ」

破顔一笑。シャーリーの嬉しそうな表情に安心した。
シャーリーだけじゃない。
会長もリヴァルも、カレンもニーナも、スザクだって、俺の心にずっといる。

「それじゃあ信じる。
約束した子、みんなにちゃんと言うのよ?
これはデートじゃないって」
「分かった。
ありがとう、シャーリー」
「うん! 行こうルル!
会長が待ってる!」

シャーリーは先に走り出す。
その後を追いかけた。

校舎を出る。
集合場所には生徒が全員揃っていた。
帽子を交換した男女もいる。
モルドレッドからアーニャも降りていて、隣にはヴィレッタも。

《お帰り、ルルーシュ。
モルドレッドの騒ぎにナイトポリスまで駆けつけたよ。
上空にスザクとギルフォードもいる》
《スザクのやつ、結局来たんだな》
「これで全員ね!」

出迎えた会長がシャーリーと俺を見る。
青い帽子をかぶったまま、シャーリーの帽子を持つ俺を見て、何があったのか察したようだ。

「会長……ほんとに卒業……」
「うん」

涙ぐむリヴァルに、会長は穏やかに微笑んだ。
シャーリーが一歩前に出る。

「会長」
「なに?」
「これまで、ありがとうございました!」

シャーリーの言葉をきっかけに、感謝の声がたくさん上がっていく。
イベント好きな会長に振り回され、巻き込まれて、だけど悪くはなかった。
俺も、解散した後で一言ぐらいは感謝を伝えよう。

ランスロットがゆっくりと降下してくる。
外に出てきたスザクが晴れ晴れとした微笑みで地上に降り立ち、会長の前で一礼する。

「会長! ご卒業おめでとうございます!」
「うむ!!」

リヴァルは号泣して何も言えない様子だ。
寂しさでしんみりする空気に、会長は笑顔を見せる。
晴れやかな空よりも明るい表情で頭の帽子を外した。

「これにて! モラトリアムとかいろいろ終了〜!!」

帽子を空に高く放り投げる。
大きな拍手や歓声があがり、空にたくさんの帽子が舞い上がる。
シャーリーが俺のそばを離れて会長の元へ走って行った。

《あたしも……ミレイにありがとうって伝えたかったな……》
《手紙を書けばいい。俺が代筆する》
《手紙……? いいなぁ! ありがとうっ!!
あとは花も贈りたい!》
《選びに行くか。悩んだら手伝う》

空の嬉しそうな朗らかな声が聞こえて、思わず小さく笑ってしまう。
いや、これで終わりじゃない。
卒業イベントが大盛況で幕を閉じても、俺がやるべき事は残っている。
約束している女は大勢いる。スザクが帰った後に片付けるか。
チラ、と確認すれば、スザクがきょろきょろしながら歩いていた。誰かを捜しているのか?
怪訝に思いながらも俺は声を掛ける。

「スザク」
「ルルーシュ」
「どうした。そんなに周りを見て」
「ごめん、ソラがいると思ったんだけど。もう帰ったの?」
「え?」
《……え?》

寝耳に水だった。
俺だけじゃない、空だって戸惑っている。

「帰った? いや帰ったも何も……。
……こっちは何も聞いていない。
卒業イベント、顔を出してくれることになっているのか?」

スザクは顔色を変え、深刻そうな面持ちで頷いた。

「ああ。そうだ。
今日の朝、ジノとアーニャが登校した後にソラが。
卒業イベントには行けないって言った僕に『スザクの分まで行ってくる』って。
『花を贈りたい』『花屋さんに寄ってから行くね』と言って……」
「近くの花屋なら10分の距離だ。生徒会がいつも世話になってる」
「ああ。ソラは僕が言った通りの店に行った」
「……花束の注文は予約無しだと時間が掛かるが」
「そうだ。でも、その時はお客さんが他にいなくて、すぐ花束を作ってもらえて……」

スザクは思い出しながら話す。
その顔は余裕が無くて、本当に思いもしないことが起きてるようだった。

「電話で……『魔法みたい。すごくきれいだよ。気をつけて行くね』って……。
本当ならそのまま……まっすぐここに……」
「なら、もうすぐ着くはずだ」
「その電話は、話したのは……」

スザクの顔色が悪い。取り繕えないほど弱々しい。
俺の意識は全てスザクに集中した。
周りの歓声が遠ざかる。
スザクは口元を手で隠した後、

「……3時間前なんだ」

呟いた声は震えていた。
胸の奥がざわめき、嫌な予感がした。


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