1/SS.眠れない夜に思うこと


ナナリーの部屋のカーテンは夜でも開けたままだ。
月明かりが降り注ぎ、室内を優しく照らしている。
就寝時間をとうに過ぎても、ナナリーは眠ることができなかった。

「空さん、かぁ……」

呟いて、そっと吐息をこぼす。
今日出会った女の人を思うと、苦しい気持ちになってどうしても眠れなかった。

明るく優しい声。
年齢はきっとシャーリーさんと同じ。
日本人の方だ。
お兄さまと知り合い。
今はそれしか分からない。

静かに扉が開く。
コツ、と小さい足音がひとつ聞こえて、ナナリーは体を起こした。

「お兄さま」
「ナナリー、眠れないのか?」

歩み寄ってくれる。
そばでしゃがむ音も聞こえた。

「はい。
少し、気になったことがあって……」
「気になったこと?」

そして手を握ってくれた。
両手で包んでくれる温かい手にナナリーはホッと安心する。

「空さんはお兄さまのお友達ですか?」

兄の手がピクリと震える。
いつもならすぐ返事をしてくれるのに、沈黙して答えてくれなかった。
少し不安になる。

「お兄さま?」

声をかけてやっと「……ああ」と言ってくれた。

「……まぁ、友達と言えば友達だよ」

すごく苦いものを食べたような声。
柔らかく握る手は、今は緊張しているようだった。
何か隠しているみたい。ただの友達ではないのかもしれない。
気づいてもナナリーは追求しなかった。
友達だと兄が言った。なら、自分はそれを信じるだけだ。

「アイツがどうかしたのか?」
「お兄さま。
私、空さんとまたお話したいです」

廊下で聞こえたあの人の声を思い出す。
泣きそうな声は弱々しくて、帰る家を失った……途方に暮れた声だった。

繋ぎ止めないと消えてしまう。
そう思えるほどすごく儚かった。
だからつい、声を掛けてしまった。

「そうだな……。
……じゃあ、機会があれば連れて来るよ」
「ありがとう、お兄さま」

ナナリーは心の底からホッとする。
今夜はぐっすり眠れそうだ。


 ***

あの女。

あれを思うと、ひたすらイライラしてしまう。
ああなんて忌々しい。
部屋から出るのを全力で阻止するべきだった。
ナナリーと会話するな関わるな、と先に釘を刺して勧告して念押しして警告するべきだった。

『あたしは何も言わない』
『ルルーシュが不利になることも』
よく言う。
生徒や教師が通る廊下でベラベラ喋っていたのはお前だろう。

『あたしはルルーシュの敵じゃない』
『だから殺そうとか考えないでよね』
脅威そのもの。むしろ俺の命を狙う人間なら迅速に排除できた。

機会があれば連れて来るよ、とナナリーに言ったものの、その機会を作るつもりは毛頭ない。
会わせたくない気持ちが極まって頭痛がしてきた。

あの女を収容できるのは現時点で俺の部屋だけ。
俺の寝込みを襲う……なんてことはしないだろうが、信じられるわけがない。
一睡もしないで見張ってやる。

そう強く、決意した。


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