12話(中編)

アーサーは生徒会室でくつろいでいる。
帰るまでアーサーはそこでゆっくりしているみたいだ。

リヴァルとシャーリーと“あたし”の3人で、使った食器類をキッチンで片付けている。 
楽しそうな話し声がわずかに聞こえていた。
スザクは廊下の壁に背を預け、ルルーシュは窓際にもたれて話している。

「ラックライトさんは、スザクに心を許しているみたいだな」
「一緒にいるのが多かったから。
主治医の先生が言っていたよ。そばにいるだけで精神が安定するって」
「手を握るのは?
泣いてしまった時は、いつもああやって慰めているのか」

穏やかに微笑みながら話すルルーシュの表情は完璧だ。
パーフェクトすぎて恐ろしくなる。
スザクは沈黙し、視線を外して少し考える。
ルルーシュは腕を組んでスザクの返事を待った。
あごに手を当て、スザクは答える。

「……他にも色々、かな。
人の体温は涙に効くって教えてもらったから」

色々って何!?

「色々か……」
 
ふ、と微笑むルルーシュの笑顔は穏やかだ。
爽やかで非の打ち所がないけど超怖かった。
扉越しにシャーリー達の話し声が小さく聞こえてくる。

「お手洗い?
それならここを出て、奥に進んで曲がってすぐのところだよ」
「ありがとう。行ってくるね」

“あたし”の口調がさっきと違う。ずいぶん親しくなっていた。

「戻ってきたら保管室見に行こうぜ。この近くにあるから。
イベントで使った着ぐるみとか小道具全部置いてるんだ」
「うん!」

楽しそうな声で返事する。
リヴァルとも仲良しになったみたい。

キッチンを出た“あたし”はスザクに「お手洗い行ってくるね」と声をかけて軽い足取りで廊下を歩いていった。
スザクはホッとした顔で笑う。

「良かった。思ったより早く打ち解けて」
「会長がそのうち生徒会に勧誘しそうだな。
そう言えば、ラックライトさんは短期の留学だったな。
期間を過ぎたら帰る?
ここにいたいと思っても戻らなきゃいけないのか」
「……ああ。ここにはいられない。
彼女がそう決めたんだ」
「期間を設定したのは彼女の身元引受人か?
ずいぶん大事にされているんだな」
「ルルーシュになら、話してもいいかな」
「俺に? なんだいきなり」
「機密情報じゃない。でも、他の人にはあまり知られたくないんだ」
「ラックライトさんの身元引受人が誰かを?」

笑みを浮かべていた顔を真剣なものにして、スザクはルルーシュをジッと見つめた。

「ソラの身元引受人は皇帝陛下だ」
《えっ!?》

ルルーシュは動揺を隠せなかった。
浅く息を吐き、ルルーシュは口元を手で隠す。

「そ、れは……。
……俺なんかに、話していい情報じゃないだろう」
「キミが一番信頼できるから。
僕の唯一の友達だからね」

“友達”────ルルーシュを皇帝に売ったのはスザクなのに、その言葉を平然と使う。
スザクは分かってて言ってるんだ。
ルルーシュを揺さぶる為に。

「先生は知ってるのか? 理事長は?」
「誰も知らない」
「俺も知らないままでいたかった。そんな最重要機密の情報は」
「ごめん、ルルーシュ」
「いい。友達だからな。誰にも話さないから安心しろ」

今のルルーシュは記憶を失っていた時のルルーシュみたいだ。
演じているんだろう。顔つきや声音が全然違う。
どれだけ心を殺せばこんな風に振る舞えるんだろう。

「ありがとう。
キミがいれば……」

ビー!!と警告音がスザクから聞こえた瞬間、スザクはいきなりロケットスタートを決めた。
“あたし”が行った方向へ全速力で走り、あっという間に廊下を曲がる。

《なに!?》

ルルーシュもダッと後を追いかけた。

《ラックライトだ! スザクのあの走りは尋常ではない!!》

走る後ろ姿に慌てて続く。
曲がってすぐ、立ちすくむスザクが見えた。
あたしもルルーシュも絶句する。
スザクのそばで、床にぺたんと座る“あたし”がいた。
手を祈りの形で握ったまま、まるで極寒の吹雪の中にいるみたいにガタガタ震えている。
横顔は髪で隠れて見えない。
目の前の異常事態にあたしもルルーシュも動けなかった。
スザクはゆっくりとしゃがみ、目線を合わせようと廊下に座る。

「空」

呼びかける声は優しい。
ラックライトのほうの“ソラ”じゃなくてあたしの名前だった。

「空。僕はここにいるよ」

“あたし”の呼吸は速い。深呼吸させないとヤバそうだ。

「すざ、く……くび、くびが……あたしのくびが……」

スザクはゆっくりと近づき、首を挟むように両手を当てる。

「うん。首はここだね」

その言葉をきっかけに、速い呼吸が徐々に安定していく。
自分で意識して深呼吸できるくらいには落ち着きを取り戻した。

「も……だいじょうぶ……」

大丈夫とは思えない声だけど、それでもスザクは“あたし”の言葉を信じて手を下ろした。

「立てる?」
「うん……」

もぞもぞと何回か動き、ひどく立ちづらそうだ。
床に手をつかないと立てないけど、今の彼女の手は祈る形のまま硬直している。
どれだけ強い力で握っていたのか。

「……これ無理だ。
スザクごめん……。立たせてほしいな……」
「ソラ、そのままで。
ちょっと運ぶよ」

たった数秒、ヒョイッという軽々しさで、スザクは彼女を抱き上げた。
拍手したくなるほど見事なお姫様抱っこ。
これはヤバい光景だ。
隣に立つルルーシュがどんな気持ちで見ているか分からなくて怖い。

「どこか落ち着ける場所に……。
……いや、先にシャーリー達に声をかけてくる。
待っててくれ」 

ルルーシュはスタスタと行ってしまった。
うわぁ……ああ……あああ……ルルーシュ……。

いたたまれない気持ちになり、後を追いかける。
シャーリー達は廊下で待っていた。
「ソラ、戻ってこないね……」と心配していて、近づくルルーシュにハッと気づいた。

「ルル!
ソラとスザク君は?」
「ラックライトさんは例の発作で苦しんでいる。
今はスザクが落ち着かせているところだ」
「それは早く休ませなきゃだな」
「写真はまた後日にしよう。今日は解散で」
「スザク君がいてくれて良かった。
先に帰るね……」

シャーリーもリヴァルも、後ろ髪を引かれる様子で帰っていった。
それを死角から見届け、スザクがひょっこり曲がり角から出てきた。

「ありがとう、ルルーシュ」
「すみません……」
「顔色がひどい。
すぐ横になったほうがいい。
3日に一度清掃しているゲストルームが一室ある。ついて来てくれ」

先導するルルーシュは歩きながら携帯でどこかに電話をかける。
会話の内容から、相手は校舎にいる養護教諭の先生みたいだ。
クラブハウスに来てもらうよう頼んでいる。

スザクに運んでもらっている彼女は半分も開いていない瞳で、ルルーシュの頼もしい背中をジッと見続けていた。


  ***


ルルーシュの言っていたゲストルームは元あたしの部屋だった。
扉をルルーシュが開け、先に中へ入ったスザクがベッドに直行し、彼女をふわりとベッドに下ろす。
支えたまま、スザクは頭を優しく撫でた。

「ソラ、少し眠るんだ。
キミはひとりじゃない。そばにいるから」

すごく優しい声、穏やかな口調。
安心したのかカクンと意識を失った。
スザクは彼女の靴を脱がして床に置き、首元のボタンをひとつ外す。
寝苦しくならないように、かな。
ブランケットもかけた。

「助けてくれてありがとう、ルルーシュ。
こんなこと初めてで……僕だけじゃあ、ここまで対処できなかった……」
「俺だって同じだ。
落ち着いたのは、スザクがラックライトさんの首に手を当てたからで……。
……あんなに怯えて、あれは普通じゃない。
首に、何かあったのか?」

スザクの顔色も悪い。
思い詰めた表情で頭を振った。

「僕も本当に知らなくて。
ごめん、ルルーシュ……」

隠している感じじゃない。
動揺している、本当に何も知らない反応だった。

「……そうか。
そうだ、スザク。先生が来る前にラックライトさんの手を離しておこう。
手のひらの傷跡に響いてしまう」

ルルーシュの提案にやっと気づいた。
彼女の手はまだ硬直していて、祈りの形で握ったままだ。
「そうだね。このままじゃあ、ぐっすり眠れないから……」とスザクは呟きながらベッドに向き直った。
手を優しく拾い上げた瞬間、スザクの眉間に深いシワが寄る。
かすかな声でボソッと呟いた。

「どうしたんだ?」
「……ソラが、自分の苦痛を和らげる為に握っていたんだ。
鎖が切れるくらい必死に手繰り寄せて……」

血を吐き出すような声で言って、スザクは丁寧に彼女の指を解いていく。
半分ほど手が開いた時、コロンと何かがベッドに転がった。

《あ……ああ……!!》

丸いペンダントだ
桜の形の石がきれいな、ルルーシュのプレゼント。

《この子、やっぱりあたしだ……!》

目のあたりから熱いものが溢れてくる。
すると、彼女のまぶたもピクッと動いた。
涙が連動しているのを思い出し、溢れてくるものを必死で抑え込んだ。
スザクは彼女の枕元にペンダントを移動させる。
切れた鎖がこすれる音が小さく聞こえた。

「きれいだな。
それも手袋と一緒にプレゼントされた品か?」

ルルーシュの仮面は壊れなかった。
完璧に、別の自分を演じている。

「これは……」

スザクは見て分かるほど困惑している。
ルルーシュが動揺していないことに戸惑っていた。

「大切なものがいくつもあるのはいいな。
不安な時に支えになる」
「あ、ああ……。
……うん」
「そうだ。スザク、うちで食事でもどうだ?
もちろんラックライトさんの分も作る。
いつ起きる分からないから」
「後で政庁へ行くよ。
終わったらすぐ戻るから、その後なら」

ルルーシュは大きく戸惑った。

「後で?
その間ラックライトさんはどうする。
そばにいてやらないのか」
「僕が直接行かなきゃいけなくて。
ごめん、ルルーシュ。
僕がいない間、キミに彼女を頼みたい」
「俺に……!?
いや、ちょっと待てスザク。
いきなり頼まれても困る」

戸惑いが伝わってくる早口だ。
スザクの言葉に見せる反応がうまい。
誰だって、よく知らない異性の面倒を見てくれと頼まれたらこんな風になる。

「ルルーシュだけなんだ、安心して任せられるのは。
終わったらすぐ戻るから」

頭を下げて頼むスザクに、ルルーシュは言葉を呑み込む渋い顔をした。
重いため息を吐き、根負けした表情で頷いた。

「……分かった。
分かったから顔を上げてくれ。
そばに居る。だけどずっとは居られない。
夕食を作りたいからな。
ロロと協力する形になる。それでいいか?」
「ありがとう、ルルーシュ。
ソラに書き置きしてから行くよ」
「ラックライトさんに食物アレルギーは?」
「大丈夫だよ。
検査でどれも引っかからなかった」
「それなら、腕によりをかけて作るから。
だからたくさん食べてくれ」

苦笑するルルーシュに、スザクも目を細めて微笑んだ。

養護教諭の先生とロロが来たところで、ルルーシュはスザクに一言かけてから部屋を出た。
スタスタと歩いていく。 
廊下にも隠しカメラは設置されている。
だからルルーシュは、ひとりになっても仮面をかぶり続けている。

《……疲れた》

それだけ、ルルーシュは呟いた。
泣きそうな、吐きそうな、弱りきった声。
目のあたりが熱くなる。
押し出されたように溢れてくる。

《ルルーシュ……》

抱きしめたい。抱きしめたいのに、触れない。
それがすごく悔しい。

《……名前を。
俺の名を、呼んでくれ……》

頼まれるまま、ルルーシュの名前をたくさん呼ぶ。
それしかできないのが悔しかった。


  ***


ガスの火を止め、ルルーシュがエプロンを外したところで、すべての料理が完成したことに気づいた。
いい気分転換になったようで、額を軽く拭うルルーシュの顔色は明るい。

《全部あたしの好きなものだ。
ありがとう、ルルーシュ》
《記憶を失っても舌は覚えているだろう。
今度は俺が揺さぶってやる番だ》

不敵な声は強がりじゃない。
料理を作ってる間に気力が回復したみたいだ。
ダイニングの扉が開く音がした。
その後、ロロがキッチンにヒョコッと顔を出す。

「兄さん」
「ああ、ロロ。
今完成したところ……」

ロロの隣には“あたし”もいて、ルルーシュは驚きに言葉を失った。
彼女は謝りたくて仕方ない顔をしている。

「ロロ君と先生から話を聞きました。
本当にごめんなさい。たくさん迷惑かけちゃって……!!」

彼女は体調不良じゃなくて、今度は自己嫌悪で顔色が悪い。

「いい。いいから。
迷惑かけたなんて思わないでくれ。
体調はどうだ?」
「元気になりました。
ありがとうございます、ルルーシュさん。
スザクが戻るまで夕食作りのお手伝いをさせてください」
「気持ちは嬉しいけど全部できてる。
ラックライトさんは座ってくれ」
「兄さんもそう言ってるから。
ソラさん、こっち来て」
「ゆっくりしてくれ。
何か飲み物を用意する」

ロロの案内に“あたし”はダイニングへ行く。

《ソラさんって呼んでる……》
《……ここに来る間に話したみたいだな》

ルルーシュがお茶の準備をしている間、あたしはロロと彼女の席にお邪魔した。
隣同士で座っている。
テーブルの、彼女の手元には桜のペンダント。
切れた鎖はポケットに入れているのか見当たらない。

「はい、これ。
ソラさんみたいなやつ、僕も持っているんだ」

ロロは携帯ごと彼女に渡した。
両手で恐る恐る受け取り、ハートのロケットを指先でそっと開く。
聞こえるオルゴールに目を見張った。
宝物を目撃したように瞳がきらきら輝いている。

「すごい!
ロロ君、これどうしたの!?」
「誕生日プレゼントだよ。
去年、兄さんに貰ったんだ」
「ルルーシュさんに……」

目を伏せ、オルゴールの曲に耳を傾ける。
少し聞いた後、指先でロケットを閉じて両手でロロに返した。

「ロロ君ありがとう。
大切なもの見せてくれて」
「お返しだよ。
ソラさんも僕に見せてくれたから」

“あたし”の笑みに、ロロも自然な笑顔を向けてくる。
ロロはずっと話したかったのかもしれない。
やっと話せて嬉しそうな顔をしていた。

「話がはずんでいるな」

ティーセット一式を手に、ルルーシュが微笑ましそうに表情でキッチンからやって来る。
なんだかすごく懐かしい気持ちになった。
ナナリーといつも飲んでいたカップにルルーシュはお茶を注ぐ。

「ラックライトさん、どうぞ。
生徒会室で飲んだものとは違うやつだけど」
「ありがとうございます。
いただきます」

ふぅふぅしてから、ゆっくりと飲む。
温かくなった息をこぼす姿を見て、そう言えばこんな風に飲んでいたなぁ……と懐かしくなった。
カップを持ったまま、“あたし”は動かなくなる。
目が潤んでいて、でも涙は流さない。
もう一口飲んだ。

「兄さん。
ソラさんの持ってるペンダントもオルゴールなんだ」
「へぇ。それはすごいな」
「聞かせてもらったんだけど知らない曲で……。
……兄さん、ピアノを弾くでしょう? 知ってたらどんな曲名か教えてほしいな」
「ラックライトさん、聞かせてもらっても?」

“あたし”はカップを起き、こくりと頷く。
ルルーシュはテーブルの上のペンダントに手を伸ばした。

「この石の形は桜か。色もきれいだ」

細くて長い指がペンダントを開く。
オルゴールが鳴り、“あたし”は柔らかく微笑んだ。

《すごい久しぶりに聞いた》
《俺もずっと聞きたかった》

ルルーシュはペンダントを閉じ、元の場所に置き直した。

「……すまない、ラックライトさん。
これは俺も初めて聞いた。
多分、検索しても出てこない曲だ」
「お世話になった方にも言われました。
これは作曲家がプライベートで作った曲じゃないか、って。
このペンダントは、あたしが唯一持っていたものです」
「それがソラさんの大切なものなんですね」
「はい」

意思の強い声で頷いた。

「ペンダントの石が、この国にしか咲かない花で……。
だからあたしはエリア11に来たんです。
桜が咲いてる時に行きたかったな、って少し思ってます」

残念そうに眉を下げる。
でもすぐにパッと笑顔になった。

「……そうだ。聞きたいことがあるんですけど」
「ああ。聞いてくれ」

ルルーシュは自信満々の笑みを浮かべた。
どんな質問でも答えてやる、とやる気に溢れている。

「トウキョウ租界でも桜って咲きますか?」
《あ》

かつて、家具探しの時にあたしがルルーシュにした質問。
それを今のルルーシュに聞くのか。

紫の瞳が生き生きと輝いたように見えた。

「もちろん咲く。どこもかしこも満開だ。
このアッシュフォード学園にも植えられていて、数ヶ月前に咲いた時はみんなで花見もした。シャーリーが写真を撮っているから後日見せてもらおう。
クラブハウスの裏がレジャーシートを広げられて、花見に最も適している。他には────」

ガイドブックかな?っていうぐらい、ルルーシュはペラペラ話しまくった。
学園内に植えられた全ての桜の位置、今年の開花日や、さらに公園の桜情報まで!
“あたし”だけじゃなくてロロもぽかーんとしている。
桜博士かな?ってぐらい話しまくった後、

「────と、いうわけだ。
このトウキョウ租界に桜は毎年咲いている」

キメ顔で話を終えた。
圧巻だった。
ここ最近で一番良い笑顔でルルーシュはお茶を飲む。
“あたし”は興奮した顔で拍手した。

「ありがとうございます!!
ルルーシュさんすごいです! 学校の先生みたい!!」
「ハハハ。先生か」
「……兄さん、すごい詳しいね」

ロロは呆れ顔だった。

「生徒会の花見に備えて色々調べたんだ。
役に立って良かった」

“あたし”はお茶を一口飲み、満足そうに息を吐いた。

「毎年咲くんですね。良かった」

水分をとり、また瞳が潤んでいる。

「桜が咲く季節に……もしかしたら会えるかも……」

小さく呟いた言葉に、カップを置いたルルーシュの手がピクッと動いた。

「会えるかも……?
ソラさんは誰かに会いたいの?」
「はい。
このペンダントを贈ってくれた方を捜す為に、あたしはこの国に来たんです」
「……思い出したいから、じゃないのか?」
「あたしの脳はどう治療しても思い出せないみたいです。
脳の画像をスザクが見せてくれて……。
思い出せないけど、あたしを知ってる人はこの国にいるはずだから……」

ペンダントを取り、手のひらに乗せて優しく握る。
真剣な眼差しだった。

「何年かかってもずっと捜します。
全て忘れても、会いたいって思ったから」

もし、全てを忘れて彼女みたいになってしまったら。
あたしだってきっと捜す。

同じだ。
それがすごく嬉しかった。


[Back][12話後編へ]
 


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -