10話(前編)


頭に拳銃を突き付けられても、フッと微笑むルルーシュは余裕たっぷりだ。

「お前のギアスは時を止める能力か」
「答える理由はありません。
僕に与えられた指令は、ルルーシュ・ランペルージの記憶が戻ったなら、ゼロが復活したなら抹殺する」
「16、17、18……」
「何です? その数字は」
「お前が現れたときから、俺は心の中で時を数えていた」

ルルーシュがモニター下を指差した。
通信機横のタッチパネルにタイマーが表示され、今も秒数をカウントしている。

「だが、今はその数値がずれている。
なぜだと思う?」

リモコンをピッとして、監視部屋のモニターがパッと切り替わる。
頭上にある監視カメラの映像だ。

ルルーシュが拳銃を出してからの一部始終が録画されていた。

「ロロ、おまえが止めたのは時間ではない。
俺の体感時間だけだ」
「それが分かったところで僕には勝てません」
「ロロ、おまえは正しい。
すぐに俺を殺さないのは分かっているからだろう。
このままでは、ニつとも手に入らないと」
「二つ?」

余裕ありまくりの兄の顔に、ロロは警戒心をより剥き出しにする。

「一つは、この俺を餌に探していたC.C.だ。
俺を見逃してくれたらC.C.を引きずり出してやろう」
「売るのか? C.C.を」
「自分の命とは比べられないからな」
「……もう一つは」
「おまえの命」
「命なんて」

フッと嘲笑を見せる。
この子にとって自分の命は軽いんだろう。

「ロロ、未来とは何だ?」

嘲笑が怪訝そうに歪んだ。

「未来とは希望だ。
おまえの任務の先に希望はあるのか?
C.C.を捕まえることで、おまえにはどんな未来が開ける?
今のままでは何も変わらない」
「これは任務だ」

ルルーシュはクルッと振り返り、距離を詰める。
予想しなかった動きにロロは少し困惑した。

「俺を殺したら任務は果たせない。C.C.を捕まえたいんだろう?
明日、俺がC.Cを引きずり出してやろう。
それでおまえは新しい未来をつかめる」

兄の顔でルルーシュは微笑む。
とろけるくらい優しい表情だった。

「大丈夫、嘘はつかないよ。
おまえにだけは」

嘘の塊じゃん!!と思いながら、あたしは両手で口を塞ぐ。
でもロロはコロッと信じてしまって、淡い紫の瞳は揺れまくっていた。
拳銃を握る手に優しく手を添える。

「帰ろう。俺達の家へ」

拳銃を片付け、ここにいた痕跡を消し、二人は何事も無かったようにクラブハウスへ帰っていく。
監視の目が戻った後、二人は普段と同じように振る舞った。
ただし、ロロはずっと無口だ。
たまにルルーシュにこっそり視線を送る時があって、疑問をぶつけるような真剣な眼差しをしていた。
変化があるとすればリヴァルから電話が来たぐらいで、バベルタワーから回収されたバイクの返却についての連絡だった。
駐車券はルルーシュが持っていて、バベルタワーで発行された駐車券じゃないと受け渡しできない、との話で、ルルーシュが出かけることになった。
見送るロロに「待っていてくれ」と伝え、外出する。

《空はロロのそばに。
もし指令室での会話があれば俺に知らせてくれ》
《うん》

ルルーシュの動向を見張る為、ロロはやっぱり監視部屋に行った。
入ろうとしたら、

「納得できません!!」

中から怒鳴り声が聞こえ、ロロは足を止めた。

「ブルーノを殺したのはあのガキじゃないんですか!?」
「これで5人目です」
「ビクトルなんて、やつのロケットに触っただけで……!」
「彼は普段から問題があった」

激怒する男と違い、ヴィレッタの諭す声は冷静そのものだ。
ダン!と机を叩く音も聞こえてくる。

「殺されるほどではないでしょう!」
「……ゼロを名乗る者が現れた以上、我々はよりまとまらねば」
「仲間を殺すような死神とチームは組めません」

きびすを返し、ロロはまたエレベーターに乗り込んだ。
扉が閉じてから、

「……チーム?
大事なのは任務でしょう。仲間なんて……」

平然とした顔で、呆れた声で呟いた。
孤立していても関係ないんだろう。
そばを離れて2階まで昇る。

《ルルーシュ。ロロは司令室には入らなかったよ》
《何かあったのか?》

つい先ほど見た内容を話す。
ふむ、とルルーシュは息を吐いた。

《……大事なのは任務か。
そこまで固執する、あいつの根源はなんだ。
ブリタニアでの出世や忠誠とは違うようだが……》
《それしかないって考えているのかも。
任務を完遂したり、命令に従うのが絶対だと思ってるんじゃないかな》
《ルール違反した奴を片付ける命令にも忠実に従っているしな》
《“局員の所持品に触れてはならない”だよね。
……それなんだけど、ルール違反したから手に掛けたんじゃなくて“大切にしているものを触ったから”だと思うよ。
ルール違反はただの後付けで。
本当にロロは大切にしているの。
誕生日を祝うルルーシュからプレゼントされたものを》
《ふ、ふふふ……》

肩を震わせ、息をこぼすみたいにルルーシュは笑った。

《ルルーシュ?
え? どうしたの?》
《ハハッハハハ》

底抜けに明るく笑う。
突拍子もなくて、あたしはそれを黙って聞くしかなかった。

《……すまない。
ふふ、まさか今、活路を見いだせるとは思わなかった。素晴らしい。恐れ入る。
俺は黒の騎士団を救いだし、同時にロロを排除する方法をずっと考えていた。
殺しも情報操作も偽装も、どこをたどってもロロがネックになるからな。
思い出したんだ。いつか空が言ってくれたことを》

声しか聞こえないけど、ルルーシュが今すごく良い笑顔をしているのが頭に浮かんだ。

《あたしが言ったこと……》
《覚えているか?
白兜の脅威は排除したい、空がもし俺ならどう無力化する?と聞いたのを。
『白兜を脅威だと思わない存在にする』と空が答えたのを》
《あ! それ……!!
うん、覚えてる!》
《今のロロが“それ”だ。
空の話を聞いていなければ、“それ”に思い至るまで時間を費やすところだった。
感謝する》
《よかった……!
明日は大丈夫そうだね!》
《ああ! いける!! いけるぞ!!》

高笑いしそうな声に心の底からホッとした。

《明日はロロのそばにずっと居てほしい。
……そうだな。ロロが乗る金のナイトメアの内部に潜り込んで見ていてくれ》
《ロロはまたあれに乗るんだ。
うん、分かった》
《おやすみ、空。また明日》
《おやすみなさい》

明日実行する作戦のほとんどが、すでにルルーシュの頭の中で組み上がっているんだろう。
何をするかは考えもつかない。
それでも絶対にうまくいくと思った。


  ***


翌日、ルルーシュはロロを映画に誘った。
私服に着替えて二人で外出する。
場所はスパイラルシアター。
ロロと一緒に行動しているからか、隠しカメラはシアター前の1台だけだ。
監視の目は無いに等しかった。
チケットを買い、二人は一番奥のスクリーンを目指して歩いていく。
壁に設置された館内図を見たら、外に出るのにピッタリの非常口があった。

「……ねぇ、ルルーシュ」

不信感バリバリの低い声にルルーシュは「兄さんって呼んでくれないんだな」と寂しげな微笑で返事した。
ロロは少しだけウッとする。

「あ、新しい未来をつかめるって言ったでしょう。新しい未来って何」
「家族がいる未来だ。
任務としての“弟”じゃない、ちゃんとした……。
……ロロ、俺は思うんだ。
お前に人殺しがある世界は似合わない。
この後、俺は行動を起こす。俺と、ロロの新しい未来の為に。
約束する」
「……やくそく」
「ここから先は俺に任せてほしい。
ロロはこのシアターに居てくれ。
俺とロロの約束をヴィレッタ先生に邪魔されたくないからな」

優しい“兄”の声だけど、ロロの不信感は拭えないようだった。

「僕から離れるの?」
「ひとときだけだ。
約束を守る為に必要なことなんだ、ロロ」
「……そう。分かった。絶対、約束を果たしてね」

上着と帽子を別の物に替え、ルルーシュは非常口から外に出る。
それを見送るロロの眼差しは鋭く、少しも信じてない冷たさを帯びていた。
非常口の扉が閉じ、ルルーシュは階段を急いで降りていく。

《上手くいったな》
《本当に大丈夫? あれは全然信じてないよ……。
あ! そうか! だからロロが乗るナイトメアって言ってたのか!》
《ああ。今のロロは脅威でも何でもない。
あいつのおかげで得たこの時間、有効的に使わせてもらおう》
《あたしに出来ることって何かある?》
《……無いな。
やってほしい事があればその都度こちらから言う。今は見ているだけでいい》

ルルーシュは今回の作戦を明かさなかった。
気になるけど口は一切挟まない。
邪魔したくないから、ただ見守るだけの浮遊霊になった。

軍の人間に変装してギアスをかけていく。
捕まった全員を助ける為に、ルルーシュはたったひとりで準備を進めた。


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