34-2


敵意の視線には本当にうんざりする。
睨むふたりにボクは言った。

「違う。彼女に力を借りたんだ。
ボクは頼まれて助けに来ただけ。
ほら上!! オレンジ君が来る!」

ボクの言葉にC.C.はすぐ反応する。
潰したと思っていた大型機は無傷で現れ、スラッシュハーケンを飛ばしてくる。

『私です、ゼロ! 懺悔は今!』
「しつこい奴!」

避けたガウェインは空へ逃げる。
即座に追いかけてくる大型機は全てのスラッシュハーケンで攻撃してくる。
避ける動きを読んでいるような四方からの猛攻だった。

「ボクはオレンジ君の所に跳ぶ!
だからキミは黒の皇子を!!」
「お前に何が……!!」
「できるよ! だってオレンジ君は空に負い目があるんだからッ」
「よし行け!!」

瞬間移動でオレンジ君の元へ跳んだ。
目の前に急に現れたらさすがの狂乱オレンジ君も目を剥いた。

「ウッ!? ア、貴女様は……!?」

オレンジの右目が動揺で揺れ、緑の左目はぐるぐる回る。ウワ気持ち悪い!
ピカピカ眩しい内部が急激に光を失っていく。

「ジェレミア・ゴットバルト!
どうしてマリアンヌ様を守れなかったの!?
あたしはあなたに守ってと言ったのに!!」

彼女のフリをして言い慣れない一人称を口にする。
今の彼を揺さぶるにはこれしかない。
ジェレミアは両手でガバッと頭を抱えた。

「ア、アア、ああああああアア!!」

内部が激しく点滅する。
エラー音がビービーうるさい。
今にも爆発しそうだった。

「ワタシは! アアアワタシはアアアアア!!!!」

視界がグンと動いた。これは多分、ガウェインが押しているんだろう。

ドーーーン!!と海中に落とされ、ジークフリートはバリバリと嫌な機械音を上げていく。
慟哭していたジェレミアはピタリと急停止し、ガクンと崩れ落ちた。
悪いことをしたような気分にすごくなる。

「……ジェレミア・ゴットバルト。
忠誠を尽くすキミが、オレンジの名を誇りに思うキミが、ボクはすごく大好きなんだ。
心を取り戻した時、ゆっくり話そう。
キミが知りたい事を全て話すから」

次はC.C.の所に跳ぶ。
ガウェインも破損がひどく、内部が少しずつ浸水している。

「よく時間を稼げたな。簡単に落とせたぞ。
オレンジにはどんな負い目があったんだ?」
「過去にちょっとね。
守れなかった、っていう罪悪感をめちゃくちゃ揺さぶったんだ。
……ねぇC.C.」
「不死の魔女、とは呼ばないんだな」
「……だって呼んでほしくないんでしょ?
さっきルルーシュとキスした?」
「どうして私がルルーシュとキスをしなければならないんだ」

ドン引きの顔にあれ?と思った。

「してないの? えー……そうなんだ。
『勝てよルルーシュ自らの過去に。そして行動の結果に』って言ったでしょ」
「なんだそれか。知りすぎて気持ち悪いなお前は。
これだ、これ」

C.C.は前髪を大きくかき上げる。
ひたいには赤いギアスのマークだ。

「これをあいつの額にな。ほんの軽くだが押しつけた。
ルルーシュのはいつか必要になるからな。
キスなんてするものか。むしろあいつが拒むだろう。
ルルーシュがキスしたいと思える人間はひとりだけだ」

前髪を下ろし、C.C.はフッと息を吐く。

「……ルルーシュの所に行くんだろう? さっさと行け」
「ああ行かせてもらうよ。じゃあね」

彼女とこんなにたくさん話したのは初めてだ。ボクを見る眼差しに刺々しさが全然無い。ほんの少しだけ嬉しくなった。

黒の皇子がいるであろう洞窟の前まで跳ぶ。
彼の目の前に現れなかったのは、ルルーシュを詰問する枢木スザクを驚かせたくなかったからだ。
そろりそろりとすり抜けて洞窟内に入る。

「信じたくは……なかったよ」

今は銃で撃たれて仮面が割れた所みたいだ。素顔が晒される。

「る、ルルーシュが……?」

洞窟内には紅月カレンもいて、動揺に震える声が聞こえた。
額から二筋の血を流すルルーシュは魔王みたいな笑みを浮かべる。

「そうだ、俺がゼロだ。
黒の騎士団を率い、神聖ブリタニア帝国に挑み、そして世界を手に入れる男だ」
「あ、あなたは私たち日本人を利用していたの? 私の事も……」
「結果的に日本は解放される。文句はないだろう」
「早く、君を逮捕するべきだったよ」

枢木スザクは少しも動じていない。
背筋は凛と伸びている。

「気づいていたのか?」
「確信はなかった。だから否定し続けてきた。君を信じたかったから。
だけど君は嘘をついたね。
僕とユフィに、空に、ナナリーにも」
「ああ。そのナナリーがさらわれた。
スザク、一時休戦といかないか?
ナナリーを救うために力をかしてほしい。
俺とおまえ、2人いればできない事なんて……」
「甘えるな!」

枢木スザクは銃を突きつける。

「その前に手を組むべきはユフィだった。
君とユフィが力を合わせれば世界を……」
「そうだな。力を合わせていれば違っていただろう。だが……」

あれ?と思った。
ルルーシュは唇を結ぶ。
やっぱりボクの知る“コードギアス”じゃなくなっている。

「『全ては過去、終わった事だ』とは言わないんだね……」

驚きのままに呟いてしまった。
枢木スザクがバッと振り返り、視線がぶつかる。
彼は鬼のような形相でルルーシュに向き直った。

「ルルーシュ!!
お前は!! 空にもギアスをかけたのか!!」
「は……!? スザク、おまえ何を言っている!!」
「瞳の色だ!! ユフィだけじゃなくて、空にまで……!!」

憤怒が震えとして現れる。
スザクはぶるぶるしながら両手で銃を握り直した。

「君は最も裏切っちゃいけない人を裏切った!!
君の願いは叶えてはいけない!」
「撃てるかな?」

ルルーシュは隠し持っていた機械を胸に取り付けた。

「さあ、撃てるものなら撃ってみろ! 流体サクラダイトをな」

蛍光ピンクに光るそれにスザクは一瞬怯み、カレンは小さく悲鳴を上げた。

「俺の心臓が止まったら爆発する。お前たちもおしまいだ」
「貴様!!」
「それより取り引きだ。
おまえにギアスを教えたのは誰だ?
そいつとナナリーは……」
「ここから先の事はお前には関係無い!!」

やっぱりここは変わらない。
テレビで見た通りだ。

「お前の存在が間違っていたんだ!!
お前は世界からはじき出されたんだ!!
ナナリーは俺が!!」
「スザク!!」
「ルルーシュ!!」

ふたりは同時に発砲した。
ルルーシュのは枢木スザクのインカムに当たり、枢木スザクのはルルーシュの銃を弾く。
枢木スザクは跳躍し、あっという間にルルーシュを蹴り倒す。

「うっぐわぁ!」

一度でいいから生で見たかったくるくるキックに思わず拍手してしまいそうになる。

「ゼロ!!」
「こいつはルルーシュだ!!」

駆け寄ろうとした紅月カレンに枢木スザクは銃口を向ける。
ギクリと足を止めた彼女は今にも倒れそうな顔色だ。

「日本人を、君を利用した男だ!
そんな男を守りたいのか、君は!!」

胸に取り付けた機械を力任せにもぎ取り、枢木スザクは遠くに投げ捨てる。
紅月カレンの蒼玉色の瞳が涙で揺らいだ。
悲痛な呻き声を上げながら彼女は走り去っていった。

「ゼロ、君を終わらせる」

フッとルルーシュは不敵に笑う。

「……スザク。お前の思い違いを正してやろう。
俺は空にギアスはかけていない」
「何を……!!」
「その通りだよ」

バッと枢木スザクはこちらを見る。

「ボクは彼女から力を借りてここにいる虚ろな存在だ。
キミに教えてあげる。空はギアスが効かない人間なんだ」
「そんな……」
「それじゃあボクは戦場に戻るよ。
今ならまだ間に合うかもしれないから」

彼らの逃げ道を作るだけなら問題ないだろう。
助けたいと思った人を助ける、と契約したから。

「ごめんね、ルルーシュ。
ボクは今のキミは助けられないんだ。頑張ってね。
それじゃあまたいつか」

租界へ跳ぼうとしたら、吐き気のする悪寒が全身を走った。
体に受けたダメージが情報としてこちらに送信されてくる。久しぶりの感覚だ。アリルの時以来だ。
誰かが体を4回殺した。あっちの音がボクのところまで届く。痛々しい音が聞こえてくる。
再生された体がまた殺された。
体が──また──誰だ?──確実に───殺したいんだろう──そんな執念を───感じた。
やだなぁ──また───あの時と──同じになる。
でも───大──丈夫だ──記■■失っても──■ミなら──取り戻■■と■■■■■────、──、───、──────〈嚮主V.V.、抹殺対象の死亡を確認しました〉《ありがとう。何回殺したの?》〈23回目でやっと死にました〉《へぇ。やっぱりあの女と同じだね。たくさん殺さなきゃ死んでくれないんだから》〈指定されたものを持ち帰ります〉《うんお願い。キミの不可視のギアスなら簡単に逃げられると思うけど、油断しないようにね》〈はい〉────────


    飛翔物語/第1部 END


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