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「てめぇ…誰だ」


目の前に立っている男はニコニコと俺のことを見下ろしている。
どこかで見たことのあるようなこの笑顔、何故か気持ち悪い。


「気持ちわる!?」

「え、何?俺口に出してた?」

「あぁ思いっきりな!あああ〜妹に気持ち悪いって言われた、妹に気持ち悪い言われたって、妹に気持ち悪いって言われた、妹に((以下略」


うわー、いまいち聞き取れないけど高速でブツブツ呟いてよくもまあ噛まないな、と現実逃避気味に感嘆してみたり。
しかしそれにしても―――


「うぇ、引くわ…」

「引くなぁぁぁああ!!!」


大声に驚いた鳥達が羽ばたく音だけが虚しく響いたのだった。



閑話休題



「で、結局お前誰なわけ?」

「あぁ、自己紹介がまだだったな。俺の名前はアルフォード・スパディーニ。今日からベル様専属の執事…になる予定」

「ふーん。帰れ」

「えぇ!?ちょ、俺来た意味、というか何故!?」

「俺執事とか要らないし、王位継ぐつもりもないから。そもそも俺、正統王子でもないしな」

「…ベル様はこの国の第二王子、でしょう?」

「肩書きだけはな」


勉学も武術も、俺はジルより劣っている。カリスマ性という点に於いても。だから、名実共に正統王位継承者はジルだ。
それを気に入らない大臣どもが勝手に俺を巻き込んで争っているだけだからな。

俺にその気はないというのに…。

どうせこいつも俺の地位が目当て何だろ。
こうでも言っとけばさっさと帰るだろ。今までがそうだったし。


「なら…お前がここに居る意味は何なんだろうな…?リベルタ」

「そんなの俺が知りたいくらッ…!?」


通常であれば立ち去っている俺のぶっちゃけた話を聞いてもなお立ち去らなかった気概に興味を惹かれた所に直球で聞かれたため、ほぼ反射的に答えてしまった。が、こいつッ何で俺の名前を…!

俺の本当の名前を知ってるのは国王と王妃――つまり父さんと母さん、そして兄のジルと父さんの本当に信頼している限られた少数の側近だけだ。その、この国一番のトップシークレットを一執事ごときが知っていて良い筈がない。
何故なら俺という存在は内部だけでなく、虎視眈々とこの国を狙っている外部の国にとっても格好の餌食だからだ。こいつ…どこかの国の回し者か…。


「やっぱり本当の名前はリベルタらしいな」

「てめぇ…どこの国の回し者だ」

「回し者!?いやいやいや!俺はスパディーニ家次期跡取り候補のしがない一執事だ!ただ―――」


この世界に生まれてくる前の記憶を持っているのさ。お前と同じように


生まれてくる前って前世のことだよな、そんなことってあるのかよ…。でも俺が持っているこの記憶も前世の記憶に間違いはないわけで。
しかも俺が前の記憶を持っているといことも確信している。


「ついでに言うなら俺は―――」

「!」


俺の前世の名と、かつての家族について耳打ちされた言葉に、ただただ驚くことしかできず、認めざるを得ないことを心の片隅で悟ったのであった。




Ricordoー記憶ー




そんなアルフォードとの劇的な出会いから早3年。俺は8歳になり、アルは14歳となった。
あれからアルは俺専属の執事として仕え、一緒に登用されたという何だっけな…あぁ、オルゲルトはジル専属の執事になった。

そしてこれはいつもと対して変わらない筈だったある日の出来事。


「アルー、飲み物ー」

「はいはい。今日は何にするんだ?オススメはダージリンだぞ」

「んー、それでいいぜ。あ、砂糖多めな」

「わかってるよ」

「さすが俺専属の執事。ししっ♪」


あの時は執事なんて要らないと思ってたけど、居て良かったなって今なら思う。だって何もしないで済むし、色々と押し付けられるし。
執事って便利だよな。アルからしてみれば大変なこの上ないだろうけど、まぁ俺には関係ないし。だって俺王子だもん♪

それにしてもアルの手際も良くなったよな。出会った頃は武術一辺倒で、父親に礼儀作法その他諸々叩き込まれたといえど紅茶を上手く淹れられなかったのにな。


「ん?何だ?」

「いや、出会った時と比べると見違えるようになったよな、と」

「あー、あの時は正直すまなかった。力加減が馬鹿になってたみたいでな…」

「あれな。濾しすぎて真っ黒いものが出てきたときには何かと思ったぜ…」


2人して過去を思い出して遠い目をする。
本当によく飲んでたものだ…。

その時、俺の耳が足音と気配を捉える。
これは…オルゲルトか。まだこいつなら足音も捉えやすいけど、父さんと母さんの専属執事ともなると本当に足音が捉えられない。アルも…殆んど足音ないんだよな…。


「アル」

「おう。オルゲルトだな」


流石に気付いてるか。
アルの生家であるスパディーニ侯爵家はイタリア全土でも有数の剣士を世に送り出している名家として知られているし、アルは次期侯爵である訳だからな。
こうして考えるとアルが俺の専属執事になれたのって護衛としての役割もあったのかもな。


《オルゲルトです。ベル様はいらっしゃいますか?》

「えぇ、どうぞ」

《では、失礼します》

「何?俺に何のよう?」

「3日後に行われるパーティーについてですね。国王からのお達しで_」
「あ、俺パス」
必ず・・パーティーに参加するように、とのことです」


無視!?スルーなのか!?
というか必ずってかなり念押ししてたよな?この時期のパーティーって……あぁ、あの件について、か。

どうせ俺関係ねぇじゃん。とりあえず返事だけ返しといて当日はサボってやろうっと。


「――ベル様?返事だけしといてサボろうと等と思ってませんよね?」

「オモッテナイゼ」

「それはようございました」


アルの目が笑ってないって、怖えよ。何で俺の考えてることがわかるんだ。誰だよ、執事が便利だなんて思った奴。……俺か。

全然便利じゃないじゃん。見張られてるじゃん。サボれねぇじゃん。じゃんじゃんじゃん。
ってことはパーティーに強制参加なのか。この時期のパーティーは出たくねぇんだけど。だって、次期王位継承者発表パーティーな訳だし、俺は王子だけど王子ではないからさ。


行ってもあまり意味はないから行きたくないんだよ。

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