「ねえ、私がこのまま首を掻き切ってしまうと言ったら貴方はどう答えるの?」
それは純粋な好奇心とその延長線上にある笑顔。悪意はこれっぽっちも感じられない。目と鼻の先に僕の彼女、岩下明美がいた。放課後の教室はオレンジ色の西日が差し込んで少しノスタルジックな感情に浸らす。背中は何時からか床に張り付いて、何時からか彼女は僕の上に馬乗りになっていた。そして首筋には沿うようにして彼女愛用のカッターナイフが宛がれている。
「それは、…命乞い、でしょうか。」
期待外れ、といった顔だ。予想はしていたが興ざめ、面白くなくなったと言わんばかりの表情を浮かべた岩下さんは僕の上に被さっていた上半身を起こして、すっと凶器をしまった。つまらなさそうにしているのに依然僕の上から動こうとはしないのはさすが岩下さんといったところか。
「僕の命はもう僕に選択権はないですから、岩下さんの言う通りに何でも従ってあげたいのは山々ですけど僕は貴方の恋人です。」
そう言いながらゆっくりと上体を起こし、岩下さんと向き合う。相変わらず、拗ねたような表情を変えないがここまでは予想の範囲内だ。
「こうやって抱きしめたり、手をつないで帰ったりやりたいこと沢山あるんです!今死んじゃったら岩下さんの前に化けて出てしまうかもしれません!」
そう必死の懇願するように叫ぶと顔は見えないけど岩下さんが笑った気がした。


 2012/04/12 02:02


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