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輝けるものたちへ *1*

*これからの
レオンさんがディシディアにいたら妄想


輝ける庭、とはまた少し違う、でも、光に満ちたこの場所は秩序の聖域という。
俺のいた世界ではないこの場所は、いつか見た星々の一つなのだろうか。

「ッ、決める!!」
「甘いな、」
「!?」

所々に花の咲く野原の一角。風と共に散っていく草花と、温かい日差し。そんな、この場所で。鉄色をした一撃をガンブレードで弾く。火花が散り、俺より少し力の劣るその少年−スコールが険しい表情の上に焦りの色を乗算する。それを見届けてやるまえに、俺はトリガーを引いた。爆ぜる、爆ぜる、緋色の弾丸。追い打ちをかけるように踏み込んで、回避しようとするその身体を薙ぐように、振り切る。ふわりと舞う、花びら。細身の身体が体勢を崩し、不安定に構えるガンブレードが、俺のそれとまたぶつかり合う。今度散るのは火花だけでは、ない。きいん、澄んだ音と共に、一撃を受け損なった刀身が宙を舞い、向かい合った少年がその場に膝を付いたのは、ほぼ同時だった。そして、

「すとぉおおおーーっぷ!!」

鐘を鳴らしたような、よく通る声が響いたのも、ほぼ同時だった。

「…なんだ。」
「なんだじゃねぇよッ!スコール、大丈夫か?怪我してないか?おいレオン!スコールいじめんのやめろって言ったろ!」

そう言いながらつかつかと俺の方に歩み寄ってきたのはラグナという男だ。彼はさも、『怒ってます!』と言わんばかりに大地を踏みしめながら寄ってきて、俺たちの前に立ち腰に手を当てて見せた。普段は優しい印象を与える垂れた目尻もきりりと力が込められていて、一目見た限りでは凛々しい印象を受けるこの男。すらりとした長身に、艶のある黒髪。どこからどう見ても頼れる大人の男−そんな風貌をしたこの男が、実はびっくりするくらい『残念な』中身を持つ男だということを俺は知っていた。
そして、そんなラグナに声を掛けられたスコールが、どんな反応をするのかも。
手に持ったままのガンブレードを一度振って、霧散させる。光の粒となって消えたそれ。ふるふる、と、肩を震わせる目の前の少年。

「いじめ…だと…?」
「そうだ!スコールはまだ子供なんだから、レオンに敵うわけねーじゃんか!」
「…いい加減にしろ!」

オーバーな身振り手振りの最中、突然上げられた叫び声に男が背筋を跳ね上げる。緩慢な、というより、もったいぶったようにゆっくり立ち上がった少年が、ラグナに向かって噛みつくように、いつも噤んだままの唇を大きく開いた。ああ、今日はいつもより荒れそうだなんて俺は思う。口には、出さないけれど。

「子供だと!?アンタに何が分かる!俺はな、たしかにアンタより若いがプロの傭兵だ!しかもいじめ!?俺は手合わせをして貰っていただけだ!まともに武器の手入れすらしないアンタと違ってな!!」
「…えッ…あ、いや、そんなにおこんなくても…」
「うるさい!迷惑なんだよ!あとレオンに謝れ!!」

…どうやら今日は手合わせの成果と相まって、機嫌は最悪なようだ。
完全に手合わせ中の緊迫感を奪われた、馴染み深くて心地よい空気感を感じながら俺は二人を眺める。あまり感情を表に出すことのない少年(今日は特別だ)と、そんな少年に怒鳴られる男の両者を。
この世界は俺の元いた世界ではないように、この二人も異世界からここに呼び出された−秩序の戦士の一員である。二柱の神々の抗争に、戦うために呼び出された駒、それが俺たちというわけだ。異世界から呼び出された戦士の一人である俺たち。だが、俺はそんなこの二人に特別な関係を感じていた。
(…俺も昔、アンタとこんなやりとりをした、な、)
この二人を、元いた世界の記憶の中に、感じている。
それも、過去の自分と、その父親として。

「だっ、…だってよ…ずるいじゃんかよ…レオンばっかスコールと遊んで…おじちゃん寂しい…」
「知るか!」

さっきまでの威勢のよさは何処へ身を隠したのだろう、しゅん、と頭垂れるラグナ。相変わらずご立腹な様子なスコールは、そんなラグナの発言をつん、とはね除け、腕を組んで瞳を伏せてしまった。妙にスコールを構いたがるラグナと、そんなラグナを鬱陶しそうに、でも簡単にあしらったり受け流したりしない、スコール。これも見慣れた−どこか懐かしい、情景だった。
俺たちはもといた世界の記憶を失った状態でこの世界に召喚されるのだが、俺は他の秩序の戦士達と比べ、もとの世界のことを覚えている方だった。俺はレイディアントガーデンという世界の人間で、一度闇に飲まれたその世界を再建しようと日々奮闘していたことを、覚えている。…そして、レオンという名前を名乗るまで。正しくは、父親であるラグナを失うまで、自分がスコールという名前だった、ということも、覚えている。

「スコールもラグナもその辺にしておけ。…今のは悪くなかった。腕を上げたな。」
「…アンタくらいにならなきゃ、腕を上げたことになんか、ならないさ。」

収拾のつきそうにない二人のやりとりに終止符を打つべく、俺はスコールに声をかけた。…きっと『俺のよく知る』スコールのことだ、手合わせの結果…というより、自分の実力に納得がいかなかったのだろう。小さく息を吐いて見えた後、スコールはまた稽古をほしい、と呟いた。
…ああ、まるで昔の自分を見ているようだ。何でも出来ないと気が済まないというか、負けず嫌いというか。きっとこの子は並々ならぬ鍛錬を積んで次の手合わせに臨んでくるだろう。それはそれで、楽しみだ。ああ、いつでも。答えると少年は何とも言えない顔で、唇を噛んだ。

「…すこーるぅ…。」
「…俺はもう戻るから。」

そんな俺たちの間で、大きな体躯を小さくしながら少年の名前を呼ぶのはラグナだった。俺の父親だったその人より随分若いその男は、やっぱり−俺の知るラグナそのもので、やっぱり懐かしいと、思う。鬱陶しそうに吐き捨てて、野営地へと歩き出してしまったスコールを潤んだ瞳で見つめるその様子も、どこかで見たことのあるそれ。そんなラグナを置き去りに、大股であっという間に遠くに行ってしまったスコール。そこに通りかかったバッツとジタンが近づいていって、もみくちゃにされているのが、見える。
この二人の関係は分からないが、何かしらの因果関係があるのだろうか。年齢的なものを考えると親子という線はないだろうが、何でもありなこの世界だ。そのまた別の世界から呼び出されたのかしれないし、同じ世界の、違う時代から呼び出された、なんてこともあるかもしれない。本人達が知らないという限り事実関係は分からないのだけれど。そんなことを考えながらぼんやりとその光景を眺めていると、隣で唇を尖らせたラグナが何か言いたそうに頭を掻いていた。

「難しい年頃なんだろう、そっとしておいてやれ。」
「そう言ってもよー、なんか、気になるんだよアイツ。ほっとけねぇってゆーか。」
「…そうだな。」

アンタらしいな、とは言わず、ふふ、なんて笑いながらラグナの言葉に相づちを打つ。

(ああ、そうだ。俺の世界のコイツも、そうだった。)

ほっといてくれ、なんて言っても聞かないし、構うなって言っても構おうとするし。言葉を換えても態度を変えても、ラグナはずっと俺の傍にいようとしてくれた。いつでも笑って、それで、それで。そんな俺の隣で、レオンばっかりスコールに懐かれてずるい!なんて騒ぎ出したラグナを宥めつつ、俺は思う。
二人の話を聞くに、この二人は俺の世界の二人ではないようだった、けれど。
俺には分かる。『あの』スコールは、俺と同じ存在で。『この』ラグナは、きっと、俺の父さんと同じ存在だ。


「きっといつかアイツも、アンタのそのお節介に救われたって時が、くるさ。だから、」
(アンタは、アイツから、離れないでやってくれ、)
(そして、スコール)
(お前は、)

日の当たるそこは居心地が良くて。懐かしいその場所にいる、みたいで。
早くこの闘争を終わらせて、輝ける庭に帰らなければと思うのに、こんな日々が、少しでも長く続けばいいのに、なんて、思ってしまう。

「…レオン?」
「なんだ。」
「…なんかよくわかんねーけど、よ。なんかあったら、ソーダンしろよ?お前もスコールとおんなじで、一人で抱え込みそうなタイプだし。お兄さんでよかったらいつでも話聞いちゃうかんな?」

隣にいる男が俺の頭を撫でて、白い歯列をにい、っと覗かせながら笑って、言う。
その笑顔が、眩しくて、暖かくて、嬉しくて。誰かの面影が、たしかにあるこの場所で、俺は、笑った。

「じゃあ一つだけ。」
「ん?」
「アイツをひとりにしないでやってくれ。」
「なに言ってんだレオンくん。______?」


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111218

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