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gleam.
(もしラグナがKHにいたら、な捏造注意)






嫌だ、待ってくれまだ行きたくない、あいつが来ていないじゃないか、あいつを追いて行くって言うのか、こんなところに残していったらいくらあの逃げ足の速いあいつだって、ああ待ってくれ、待てってば。

『シド、じゃあ子供達の事は任せた』
『ああ…てめぇも、さっさと逃げろよ』
『おう、まだ逃げ遅れた奴がいないかもう少し見て回ったらな!』

馬鹿かあんたは、もう他人を気にかける段階なんてとっくに過ぎてるのがわからないのか、どこまでお人よしなんだ本当に救いようのない頭だな!
なんで笑っていられるんだ、なんでわかってくれないんだ、あんたも俺達と一緒に──。

『…スコール。お前は兄ちゃんなんだから、みんなを守ってやるんだぞ。お父さんとの約束だ!』

後から俺もお前達を追い掛けるから、なんて。薄っぺらな気休めを手放しに信じられる程、子供じゃなくて。でも笑って信じたふりをしてやれる程、大人にもなれていなかった。


(あのときの、俺は、)
(ただ、手を伸ばすことすら、)

***


「レオン、今から出掛けるの?」
「ああ、日が落ちる迄には戻るが」
「じゃあ帰りに買い物、お願いしていいかな」

小首を傾げるエアリスからメモを受け取り、ついでに渡そうとしてきたマニーだけをやんわり断ってから軋む扉をくぐり抜けた。
穏やかな、昼下がり。雲ひとつない気持ちのいい天気に、思わず笑みが零れる。ついでにひとつ、大きな伸び。このところ動かずにコンピューターと睨み合う日が続いていたからか、ぱきんと鳴る背骨が心地好い。
さて、と。路地を抜け、通い慣れた城のコンピュータールームや商店街へと続く道とは違う角を曲がる。居住地から離れるにつれ、まだ修繕の手が入らず転がる瓦礫が目に付きはじめた。この辺りに普段人気は無いが、気まぐれに子供が入り込みでもしたら危ないな。明日からはこういう所もやっていくか。……ではなくて。今日は再建委員会の仕事に来たんじゃないだろう、俺は。
立ち止まり、苦笑混じりの溜息を吐き出しながら、ポケットを漁る。革手袋越しに触れた金属を引っ張り出し、視線の高さに持ち上げたそれが日の光をきらきらと反射して思わず両目を細めた。
銀色の鎖で繋がる、銀色のタグが、ふたつ。持ち主の手を離れてからも手入れを欠かすことはしないからだろう、年期の入ったはずの首飾りには一点の曇りも錆も見当たらない。
あの日からどれくらい時間が経っただろう。この銀色の、持ち主であるあの男の締まりのない顔が見られなくなってから、どれくらいの時が、過ぎただろうか。

(…あっという間だった、ということは、確かだな)

日常が崩れさり、根本を、世界を奪われたあの日のことは、一生掛かっても忘れられそうにない。輝きに満ちあふれた世界が闇にのまれていったあの瞬間、俺は自分の非力さを、嘆いて、絶望して。

タグが揺れて、反射する光が星のように瞬いた。降り注ぐ陽射しのなかで輝くそれは、屈託なく笑う光の勇者を連想させた。
初めて出会ったときは、ただの子供だと思った、その子供は。光の勇者は。立ちこめていた闇を払い、世界を救った。この世界を、取り戻して、くれた。
…そういえば、光の勇者─ソラは元気にしているだろうか。タグを握りしめて、思い出す。まだ少年らしさの抜けない笑顔。あどけなさの中に力強さがあって、見ていると心が安らぐのは何故だろう。
…そういえばあんたも、同じように、笑う人だったな。なあ、すごいと思わないか?あんたとは程遠い存在の、光の勇者が、あんたと同じように笑うんだ。
ここにはいない人に、音に出さずに言葉を投げ掛ける。きっと、あんたは、調子にのるだろうから、永久に音になることはないだろうけれど。

(…ほんとうに、)

いろんなことが、あった。
世界を取り戻して、また、新たな脅威が出現して、今度は俺達みんなで、守った。今度は守った、ソラと、俺達が。
懐かしい顔にも会えたんだ。相変わらず探しものを続けているみたいだったけれど、あいつはあいつなりに元気にやっているみたいだった。
全部元通りになったわけではないが、街並みも、これから、直すんだ。再建、する。絶対に。
あんたの愛したこの世界を。


「これでよかったんだよな、…父さん。」

握り締めたタグをポケットに突っ込んで、思い出した本来の目的の為に、止めていた足を動かした。靴の底が、レンガの地面を蹴る。輝ける庭の名を取り戻したこの世界を、歩く。
歩きだす。俺は、俺達は、この世界で──生きていくんだ。

あんたの愛した、この世界で。


***

『いいか、スコール。もし、もしも、だ。会えなくなったとしても、全てを忘れるわけじゃない、だから』

寂しがらないで、約束、守るんだぞ!
昨日までの面影が砕けていく、輝ける庭で。崩壊していく日常の中で、最後にみた遠ざかっていくラグナのかおは。
昨日までと同じ、日常に染み付いた頭の悪そうな笑みを湛えていた。


(寂しくない、なんて言ったら嘘になるけれど、)
(全部忘れる、わけじゃないから)
(だから。だから、きっと、)



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