「たった一言だけでいいんだ、さあ!」


奴良組に突如異変が起こった。
それは唯の危機にあらず。

「うぇーん。ぁあう。」
「んんーんんー。」
「どうしよ。……ぜんにそうだん、かなぁ。」

幼稚園年少位の黒髪の小さな男の子が、小首を傾げた。その顔の作りはまだ幼いながらも名前1と彷彿とさせるものだ。周りにいる子供たちもよく良く見てみると、雪女や首無に見える。

とてとて、と広い部屋を危なげな様子で歩き出し襖を開けようとするが襖は思ったよりも重かったらしく、ピクリとも動かなかった。だが、不意に影がかかり目の前にあった襖が開かれた。
名前1は上を向くと頭の重さに耐えきれず、ころんと後ろに転がった。

「んあっ!………いたい。」
「んー?なんだこいつら。」
「と、とおさん!たいへん、なの!きゅうに、みんなちっちゃくなっちゃったの!」
「え?お前、名前1なのか!?」

鯉伴は目の前にいる名前1を抱き上げ目線を合わせる。数秒の間のあと無言で頭を撫で始めた。鯉伴の手は大きく名前1の頭を掴むように撫でるため名前1は目が回る。名前1はそれを止めようと小さい手を伸ばし鯉伴の手を掴んだ。

「うっ!」
「悪ぃ悪ぃ!この可愛さは名前1だな。どうした?なんか喋り方まで子供っぽくなってるが。」
「このへやにはいったら、なんか、きゅうに、ぼふんっ!ってなったの!まわりみてみたら、つららとか、くびなしがあかちゃんになってて……。」

名前1は体が小さくなったからか、思考まで幼くなっていた。だからか、自身に起こった訳が分からないことに涙目になりかかっている。鯉伴は名前1を宥めるように背中を擦りながら氷麗と首無の様子を見て、名前1に微笑んだ。

「名前1、氷麗と首無はもう寝たからひとまず大丈夫だ。だけど、このままじゃ名前1達が嫌だろう?鴆の所に行こうか。」
「…っうん。」

鯉伴は名前1が安心する様に抱き抱えたまま歩き出す。その速さはとてもゆっくりだ。

「なぁ、名前1。こうやって、俺が父親らしいことするの初めてだよな。」
「………う、ん?」
「俺はさ、今までずっと名前1のこと知らなかったから。名前1をだっこなんてしたことなかっただろ?会ったときはもう大きかったからなぁ。」
「うー。名前1は、べつに、そんなことしてもらわなくても、だいじょうぶ……。」
「名前1は強い子だなぁ!でも、俺が名前1を構いたいんだよ。構われてくれるか?」
「そ、そこまでいうんだったら、しょうがないなぁ。ふふ。」

名前1は頬を紅く染めて笑う。その様子に鯉伴も嬉しそうだ。鯉伴が名前1を抱っこしたまま鴆の元へと向かった。

***

「はぁ!?幼児化した!?」
「ひっ!う、うぅ……」
「おい、鴆。今名前1は子供なんだ。そんな大きな声出すな。」
「すいません…。」

名前1は急に大きな声を出した鴆に怖がり、鯉伴の袖を握りしめた。そして、鯉伴が降ろそうとしても鯉伴の腕の中から離れようとしない。

「でも、本当にその子供名前1なんですよね?よく似た子供ってこたぁないですか?」
「この髪艶、顔貌、俺と乙女の子供以外にありえねぇ。それに、自分でも名前1って言ってるしな。」

鯉伴は名前1に笑いかける。自分の置かれている状況がよく分かってない名前1は首を傾げながらもえへへ、と鯉伴に笑い返した。





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