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貴方はいつの日か思うでしょう。
あの時私を殺しておけば良かった、と。

「使い道なんてないこの命ですが、卑劣な蛮族共にくれてやるわけにはいかないのです。ならばいっそ我が矛で死ぬ!」

目の前にいる人間たちは目を見開き固まる。それでいい。お前達に殺されるくらいなら私は自ら命を断ちたいのだから。
1度助けられたこの命、貴方のために。

状況は最悪でこちらにもう勝ち目はない。だからこそ、私は死ぬのだ。この体には死んだ後爆発的な力を放出するよう魔法をかけている。私は最後の最後まで足掻きたいのだ。ただでは死ぬまい。

敵国の奴隷で貴方を殺そうとした私を貴方は赦し受け入れてくれた。あまつさえ私を仲間にしてくれた。この恩をいつ返すのか。いましかあるまい。

少しの後悔の念に蓋をして私は前を向くのだ。私が不甲斐ないばかりに貴方の仲間を傷つけてしまった。その償いのためにも前を向くのだ。

あぁ、愛しい人よ。何故、私を生かしたのですか。私がいなければ貴方の仲間がこれ程までに傷つくことも無かったのに。

「好きです。好きなんです。けれど、私には貴方を見ることが出来ないんです。汚い私には貴方は眩しすぎて目が焼かれそうなのです。だから、私は目を閉じました。貴方の顔を見れない私の目など不要。それでも、私は貴方の顔がまた見たい。」

目を開け焼けるように輝く貴方が見える。風に靡く紫色のその髪。凛々しく輝くその瞳。私の愛しい人。我が主よ。先ゆく命をお許しください。私はもう戦えぬのです。最後に貴方が見えて良かった。

「貴方はいつの日か思うでしょう。
あの時私を殺しておけば良かった、と。シンドバット様、愛しております。」

自らに向けた矛の先。ただゆっくりと流れる。これで私は救われる。貴方に愛されなくても良いのです。愛していると伝えたかっただけなのです。

ただ、最後の悔みは貴方に後悔の念を抱かせるかもしれないことです。貴方はご自分のせいで私が死んだと思うかもしれない。それがどうしても嫌なのです。でも、それがどうしても嬉しいのです。貴方はずっと私を忘れない。忘れられない。この醜い私を貴方は許してくれるのでしょうか。

「死なせない。言っただろうなまえ。お前は俺の最愛の人物だと。必ず俺が護ると。」
「シンド……バット様。」

何故でしょう。あなたの顔がこんなにも近い。あぁ、暗転。


※※※※

「眩しい……。」
「起きたか?なまえ?」
「シンドバット様?なぜ、このような所に。」

痛みに震える体に鞭打ち起き上がる。何故あなたがいるのでしょう。何故私は話せるのでしょう。何故私の鼓動はこんなにも高鳴っているのでしょう。

こんなにも貴方の顔が近くで見える。焼かれそうに輝いているのに私の目は貴方ばかりを追ってしまう。
生きていると実感する。私は生きているんだ。

「え!なまえ!?なんで泣いているんだ。」
「………泣いている。私が泣いている。」

貴方が私の目元をなぞる手はなんて暖かいのでしょう。けれど、私が流した涙で濡れてしまった。思わず手を掴んでしまったけれどその手を逆に絡め取られた。掌から伝わる体温にまた目頭が熱くなる。私はこれで人間になれたでしょうか。

「嬉しい。嬉しいのです、シンドバット様。私はもう奴隷でなくて良いのでしょうか。人間になっても良いのでしょうか。感情を出しても良いのでしょうか。愚痴を言っても良いのでしょうか。誰かを……人を好きになって良いのでしょうか。」
「何を言っているんだ。お前はずっと前から人間だよ。そして、俺が最も愛する人だ。」

ぎゅっと抱きしめられ涙が次から次へと流れてくる。何故あなたはこれ程までに優しいお方なのでしょう。見えない鎖で繋がれていた体が嘘のように軽くなる。あぁ、あぁ、愛しています。シンドバット様。

「私も、お慕い申し上げています。シンドバット様。」
「もう、知っているさ。」

貴方がそんな風に笑うからまた涙が出てきたのは秘密だ。


困ったように微笑まないで



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