下町は噂がすぐ広まる
休日。
銀さんは大抵私の休日の前の日にうちに来て泊まり、いつ来るか分からない仕事の為に、朝帰る。
でも今日は、珍しく「たまには昼間から外ふらついてみるか」と提案してきてくれて、内心ちょっとウキウキしながら一緒に家を出た。
なのに…
「いらっしゃい、アラ銀さん。久しぶりね。」
団子屋さんも、
「あ、銀さん。いらっしゃいませ。今日もチョコレートパフェですか?」
ファミレスも、
「よぉ銀さん、デートか?」
商店街も、
…どこへ行っても銀さんの知り合いがいる。
その度銀さんは、どこかやりずらそうな雰囲気をかもし出す。
もちろん、馴染みの定食屋や居酒屋のおっちゃん達と話すのは、楽しい。
町の色んな場所を知れるのも、嬉しい。
だけど…これデートだよね?
全くデート感がないんですけど。親戚の家に挨拶回りしてるみたいなんですけど。
「あっ!銀さん!先日はお世話になりました!」
まただ。
話しかけてきた女性は、若そうには見えないし、指輪もしてるからきっと人妻だ。
だけど、小綺麗で、人妻特有の色気がある。
それに、私のことを一切視界に入れることなく、銀さんを真っ直ぐに見て話す。ちなみに距離も近い。おっぱいもデカい。
…………。
アレ、なんかイライラしてきた。
「それでね、あのあと主人と喧嘩しちゃって…」
少し俯きながら何やら相談を始めた姿に、イライラが増していく。
でも、これは万事屋の大事なお客さんなんだ。
ここで私が口を挟んで、大事な顧客を逃せば、神楽ちゃんや新八くんの生活がますます苦しくなるだけ。
なんとか我慢をしながら、ふと回りに目を向けると、すぐ後ろのコンビニの前に喫煙所を見つけて、何も言わずにそこへ移動した。
煙草に火を点け、二人を眺める。
私が離れたことに気付いたのか、女性は更に距離を縮めて、時折銀さんの腕に触れた。
「あー、はいはい了解です。また店に電話下さい。」
盛り上がってきた女性の話を遮るように、銀さんがこちらに振り返る。
タバコを灰皿に押し付けた私の姿を捉えると、頭をボリボリ掻きながら近寄ってきた。
「あーわりィ。待たせた。」
「…大丈夫。」
こんなことで怒ったら、きっとガキだなって笑われる。
何より、こんなことで駄々をこねるなんて、自分が許せない。
だってもう、子供じゃないから。
「なぁ…やっぱ家で飲まねェ?」
「いいけど…生ビール飲みたいんじゃなかったの?」
「気が変わった。」
何となく会話は弾まないまま、買い物をして家に戻った。
もう日は沈みかけていて、あっという間に1日が終わってしまった感じがする。
「はい、ビール。」
「おぉ。」
気だるげに座った銀さんにお酒を渡して、コツンと音を立てながら缶ビールで乾杯をする。
いつもと一緒だ。
デートだなんだと浮かれていた自分がバカみたいに思えた。
ココで飲んで、ココで寝る。
結局銀さんは、それさえできれば満足なんだろうな。
「なぁ、何怒ってんの?」
「怒ってないよ。」
「……もしかして、妬いた?」
「妬いてない。むしろもっと媚売って仕事取れって思ってる。」
「へぇ。」
銀さんは、言い返すでもなく怒るでもなく、何故か私の髪を優しく撫でた。
その触れ方が、あまりにも優しくて、どんな言葉を掛けられるよりも、我慢していた心の声が漏れそうになった。
それでも何も言わない私を、そのまま引き寄せ胸に収めると、いつになく穏やかな声が私を包む。
「俺は…ココが、一番落ち着く。」
「……。」
「気楽だし、自由だし、…誰にも邪魔されねェし。」
「銀さんは…知り合いが、いっぱいいるね。」
「そりゃ、町の万事屋さんだからな。でも…」
少し身体を離した銀さんの唇が、瞼にそっと触れた。
「こういうことするやつは、一人しかいない。」
目が潤んだのを隠したくて、すり寄るように銀さんにキツく抱き付いた。
どうして、分かるんだろう。
私が思ってること。
どうして、分かるんだろう。
今、言って欲しい言葉。
「もっかい聞くけど、銀さんの人気者っぷりに妬いた?」
「………ちょっとね。」
「たぶん、1ヶ月もしねェうちに、お前もあぁなるだろうな。町歩きゃ挨拶されて、俺のツケの愚痴聞かされて。それ想像したらさァ、…それだけで妬ける。」
「…銀さんが?妬くの?」
「わりィか。」
「ふふ、悪くない。」
悪くない。
ココで飲んで、ココで寝る。
それだけでも、悪くない。
きっと、銀さんはずっと前から気付いてたんだ。
ココが私達の一番のデートスポットだって。
「あー、あの乳がでけェ女いただろ。」
「うん…」
「あの女、実はレズ。」
「え、」
「既婚者なのに最近目覚めちまったらしく、レズの可愛い子探せって頼まれてさァ。それで旦那に浮気疑われて喧嘩になったっつってさ。」
「へ、へぇ…」
「お前のこと気に入ってたぞ。」
「え"っ。女同士は…ごめんなさいだなぁ…。」
「バカ、男でも、ごめんなさいだろ。」
両手で頬を捕まれて、少し怒った顔の銀さんと目を合わせられた。
思わず目を細めたら、銀さんも優しく「ふっ」と笑って、そのままキスをした。
私だって、同じだよ。
どんなに知り合いが増えたって、こんなことする人は…一人しかいない。
銀さんしか、いないよ。
*コメント&お返事*
ミカン様、リクエストありがとうございました!!
「ヒロインが嫉妬するお話」いかがでしたでしょうか!?ちゃんと嫉妬できてましたでしょうか!?笑
普段自由奔放な二人なだけに、ちょっと甘い雰囲気を目指して書いてみました!
似て似つ大好きとお言葉頂きとても嬉しいかったです!
酒恋も、これからどんどん更新していきますので、今後もよろしくお願いします!
リクエスト、ありがとうございました!!
byゲスやば美