初めてのお仕え | ナノ




#15 地味には地味の仕事がある



一週間の敵地潜入から帰宅し、早々に報告書を出すために副長の部屋を目指した。

何故副長が自室にいると知っているのかというと、さっき廊下を歩いていたら、風呂上がりの近藤さんと鉢合わせ、居場所を聞いたから。

なんでこんな真っ昼間から風呂なんて入ってるのかは聞き忘れたけど、きっとまたろくでもないことしてたんだろう。

縁側を進み、副長の部屋が見えてくる。


………なんだ、この違和感。

……アレ、こんなとこに建物あったっけ。何コレ。
てゆうかこんな渡り廊下もなかったよね?何コレ。


「……あの、ふくち


ガラッ


「…お疲れ様です。」

「あ、お疲れ様です。」


………。

……………誰ぇぇえええええええ!?!?

普通に挨拶されたからつい挨拶し返したけど、誰ぇぇえええええええ!?!?
何この超絶美人んんんんん!!!!
ていうかなんで女の子が隊服着てるの!?!?
しかも隊長格の!!あ、アレか!?またイメージアップキャンペーンかなんかで雇った子か!?!?
待って!!今副長室の隣の部屋から出てきた!?!?なんで!?この部屋書類置き場になってなかったっけ!?

いや待って颯爽と立ち去ろうとしてるけど誰なのぉおおおおおおおおおおおおお!!!!


「あー、山崎。帰ったか。おい待て、ついでだから紹介する。」


部屋の中からではなく、縁側の向こうから濡れた髪をタオルで拭きながら現れた副長が、丁度そちらに向かって歩いていた美女を引き止めた。


「コイツは監察方の山崎だ。」

「あ…初対面でしたか…、すみません。挨拶も無しに。先日お会いしたような気がしてたので…。私、金城七星と申します。よろしくお願いします。」

「あ、はい。よろしくお願いします…」

「とっつぁんのコネで入隊した。これから雑務はコイツに任せる。お前の仕事も少しは減るかもな。」


え、えぇぇえええええええ!?!?

俺が知らない間にとんでもなく濃いキャラ入ってきたよぉおおおお!!!しかも会ったような気がしてたってそれその辺のモブキャラと印象被ってたんだろぉおおおお!?!?良くあることだよぉおおおお!!!
まぁ確かに雑務手伝わされる量が減るのは嬉しいけど……この感じだと俺って……


「七星と土方コノヤロー、近藤さんが呼んでやすぜィ。…………あ、ザキ。いたのか。」


ホラァアアア!!!地味さが際立つじゃんんんんんんんんんんん!!!

そりゃそうだよ!!!副長と並ぶと美男美女オーラが半端ないよ!!!背景に謎のキラキラが見えるよ!!!!
ぬぉああああああああ!!!!沖田隊長が加わると更に眩しいぃいいいいい!!!さすが顔だけは好青年!!!顔面偏差値の暴力だよコレぇえええええ!!!
俺の僅かな存在感なんか塵のようにかき消されていくよぉおおおおお!!!!


「アンタも風呂上がりか?」

「はい。」

「超いい匂い。」

「高級シャンプーなので。」


美女の後頭部に鼻を寄せる沖田隊長に驚愕する。
何この既に親しくなってる感じ…!!


「山崎、早くそれよこせ。」


副長に声をかけられ我に帰る。書類を受け取った副長が"行くぞ"と声をかけると、少し後ろを着いていった美女が報告書を覗き込みながら何やら質問をし始めた。


「これは監察方専用の調査報告書で…」


ピンと背筋を伸ばし副長の話を聞く姿からはデキる女感が満ち溢れている。
先程の数分の会話からも、常識人な感じがするし。
真選組で一番まともな常識人(味覚以外)の副長と、なんとなく波長が合っているように見えた。


「大丈夫でさァザキ。アイツまあまあ強いし仕事もできるみたいだから、アンタと同じく副長のパシリポジションになるだろうけど、地味さにおいてはまるでキャラ被ってないから安心しなせェ。」


沖田隊長………

まるで慰めになってないよ……


改めて自分の地味さを思い知り、だけどそれが俺のアイデンティティーであり監察方として外せない特性なのだと自分を慰めた。

一旦自室に戻り着流しに着替え、遅めの昼食を取ろうと食堂へ向かってみると、局長の豪快な声が轟いてきた。


「それでだ!!真選組のイメージ改善の機会に丁度いいと思ってな!!さっそく七星ちゃんに仕事を任せたいんだが!!」

「ちょっと待て近藤さん。コイツの素性はなるべく隠す方針じゃなかったのかよ。」

「とは言ってもなぁ…屯所に籠らせっぱなしにするわけにもいかんだろ。」

「私は一向に構いませんよ。むしろ、真選組にとっても、いい餌になるかもしれませんし。」

「餌?」


なんの話なのかはよくわからないけど、とりあえず食事をもって隣のテーブルに座ってみた。


「私の顔を知る者は、主に…ごく僅かな上流階級のセレブと、金城家の財産を狙う犯罪集団です。マスコミへや世間の写真の流出なんかは、父が揉み消していましたから。」


新入隊士さんは、目の前のそぼろ丼に謎の黒いプツプツをぶっかけながら坦々と述べた。


「犯罪集団の中には、もちろん攘夷浪士も含まれます。防衛省は幕府との繋がりがありますから。セレブと犯罪組織が、裏で手を組むことも少なくありません。犯罪組織に金を流してるのは大抵欲深い金持ちと相場が決まってます。」

「だから危ねェんだろうが。お前になんかあったら、真っ先に責められんのは俺達なんだぞ。」


副長の厳しい目に、何やら素性に事情がありそうな年頃の女の子は、動じることなく冷たい表情を向ける。


「だから餌だと言ってるんです。私が真選組にいると知れば、絶対に手を出してくる奴等がいる。犯罪者を捕まえるチャンスだと言っているのに、鬼の副長とも呼ばれるお方がその手を使わないとは…意外ですね。おじさまに似て、結構過保護なんですか?」

「あ"ぁん!?」


ふ、副長をおちょくっている…!!!

顔面に青筋を立てた副長に鳥肌を立てながら、ますますこの子の素性が気になる。

……金城……セレブ……とっつぁんの知り合い…って、…もしかして……いや、まさかな……


「……分かった。その話受けていいぞ近藤さん。コイツを餌に、釣れるだけ釣ってやろうじゃねえか。おい山崎!!」

「ひぇあい!!」


このタイミングで呼ばれるとは思いもしてなかったし、ちょうどお茶を口にしようとしていたから、変な声が出た。


「コイツのサポートしろ。」

「サ、サポートって…なんのです?」


なんでこの子は、副長のこの威圧感に堪えられるんだなんて思いながら、イヤな予感をビシビシ感じる。


「密着警察24時の取材。」


う、うわぁぁ……

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