似て似つ続編 | ナノ




マダオ×マダオ×マダオ



「よぉホームレス。」


朝から新台目当てでパチンコ屋に並んで入ったのに見事に飲まれ、ほぼ一文無しになって路頭に迷いそうになっても、このホームレスのオッサンを見ると、俺はまだまだ大丈夫だ!と思えるから有り難い。


「おー銀さんじゃねぇか。」

「何やってんのそんなとこで。」

「自販機の下に小銭落ちてねぇかと思って。」


ホラな、小銭持ってる俺はまだまだ大丈夫だ。


「しかしあっちぃなー。」

「夏だからねー。」

「夏のいいとこっつったらアレだよなー。アイスがうめぇことと女が薄着なことくれぇだよなー。」

「そうだねー。あと凍死の危険がないことかなー。」

「お、あのねーちゃんいい脚してんな。」


自販機で缶ジュースを買って、長谷川さんの隣に座り込む。
暑さで意識が朦朧とするレベルだが、涼しい店に入る金もない。


「脚はいいけど顔があれじゃなー。」

「ホントだー。あ、こうすりゃいいんじゃね、ホラ、良い身体してるやつでも大抵顔見ると萎えんだろ。だからこう、顔だけ隠して。」


視界の上半分を手で隠し、町行く女の身体を眺める。
夏になるたび似たようなことを何度かしてきたが、何故だか前ほど楽しくない。
つーか好みの女がいない。


「お、あの短い着物のねーちゃんは?ホラ、デカプリ娘じゃねぇ?」

「いや乳はデカいけど尻がダメだな。弛んでる。」

「うわ、あの子パンツ見えそ…あ!見えた!!やべ見えちゃったよ銀さん!」

「なんつーかなぁぁ、あの丈の短ぇ着物ってそれほど興奮しねぇんだよなー。たまにさー、丈も短ぇし襟元もはだけさせて着てるやついんだろ?あぁゆうタイプよりさー、こう、隠してる方がエロいパターンってあるじゃん?」

「それはまぁわかる。」

「あ、あの女いい尻してんな。」

「え、どこ?」


二人で目元を隠しながら、暇を潰す。
変態だとか犯罪だとかそういう苦情は受け付けねぇ。貧乏人の楽しみなんてこれくらいなんだから多目に見やがれ。


「あそこの、八百屋の前にいる洋服の女。あー、あのノースリーブで脇ががら空きな感じエロいな。下がズボンで露出してないだけに。」

「ホントだ。あ、こっち向いた。うわ、乳もいいサイズ。」


ん?なんか見たことあるなこのフォルム。

そう思って視界の上部を隠していた手を退ける。


「あ、夕日だ。」

「え!?」

「おーい、そこのお姉さーん。」


大きめの声で呼ぶと、商店街をキョロキョロしながら歩いていた夕日がこちらを向く。


「あ、銀さん。何してんのそんなとこで。」


何してんのと聞かれ回答に困る。
女の品定めしてたなんて言えない。

つーか俺が何してるかよりも…


「お前こそ何してんの?なんでアイスキャンディ舐め回しながら歩いてんの?」

「え?だって今八百屋のおじちゃんがくれたんだもん。」

「だもんじゃねぇよ!卑猥だからやめろ!ほぼ公然ワイセツ罪だからやめろ!!」

「そんなヤラシイ目で見てるのなんて銀さんだけでしょ!!あ、ヤバイすぐ溶ける。」

「下から舐め上げるな!!ホラ見ろ!!このオッサンを!!この鼻血を!!」

「私さぁ知覚過敏だからアイス噛めないんだよね。あ、はひめはしへ。ジュルッ」

「くわえながら喋んな!!吸うな!!しかも初めましてじゃねぇから!!」


グラサンの下でどんな視線を送っているのか、無言で鼻血を垂らし続けるオッサンに、見兼ねてアイスを取り上げた。


「そうだ!銀さん!!この子アレでしょ!?この前修羅場ってた子でしょ!?その話聞こうと思ってたんだよ!!あのあとどうなったの!?ねぇどういう関係なの!?」

「修羅場?あ、あの時銀さんと一緒に歩いてた人ですか?」

「あっそうそう!あの副長さんと歩いてた夜の!!どうも、長谷川です。」

「夕日です。銀さんって友達いたんだね!」

「こんな金も家もないまるでダメなオッサン友達でたまるか。」

「あ、だから友達なんだね。銀さんもマダオだし。」

「なんで略し方知ってんの!?つーか銀さん友達いないイメージなの!?」

「んー、桂さんくらい?」

「ねぇ、二人で盛り上がんないでくんない?オジさん放置しないでくんない?泣くよ?あーなんかいいなぁ!羨ましいなぁ!!銀さんだけは俺を置いていかないでくれると思ってたのにさぁ!!ズリーよこんな可愛いデカプリ娘とさぁ!!ズリーよ銀さんだってマダオなくせにさぁ!!」

「おいおい長谷川よぉ、アンタだって若い頃はそこそこ出世コース歩んでたわけでしょ?金も地位もあったわけでしょ?金に物言わせて女買ったり、高級ソープとか行ってたわけでしょ?それをよぉ、金も地位もない、あるのは若さのみの男が平々凡々な女捕まえたくらいで妬むんじゃねぇよ。」

「平々凡々で悪かったですね。」

「いやアレよ、平々凡々ってのはアレな、生き方の話な。褒め言葉な。」

「全然褒められてる気がしない。」

「え、じゃあアレだ、性格マダオだけどルックスはまともだし、お前の飯は旨い。あと騎乗位がうま"ぅええっ」


大事なことを褒めようとしたら、夕日に、くわえていたアイスキャンディを思いっきり喉に押し込まれた。


「あぁぁああああもうやだぁああああ!!!なんでこんな炎天下の中イチャイチャ見せつけられなきゃなんないのぉぉお!?あっちぃぃいよやめてくれよあっちぃぃいからよぉぉおお!!」

「イチャついてねぇだろ!!俺今喉チンコ潰されかけたからね!?」

「喉チンコくらいいいだろ!!股のチンコが使えりゃよぉお!!!騎乗位出来りゃよぉぉおおお!!!」

「オイこの人暑さで頭おかしくなってるよもう!!めんどくせェよ!!」

「いやでもホント暑いね。じゃ、私暑いし用事あるからそろそろ行くね。」

「え、どこに。」

「…パチンコ。」

「出たよまるでダメなオッサンみたいな女!略してマダオ!!」

「だって今日新台入荷じゃん!!」

「そうだよ!!朝から並んだのに惨敗したよ!!あんな台いくら回しても出ねぇよ!!」

「また負けたの!?よし、私が取り返す!!」

「よし、協力しよう!!」

「いやマイナスになるだけだからやめて!!」

「お願い夕日ちゃぁぁあん!!じゃあお前が当たり引くまで待つから!!出たら玉分けて!!お願い!!このまま返ったら神楽にぶっ殺される!!」

「……仕方ないなぁ、私が当たったらね?」

「天使か!!!お前は天使か!!!」


数歩、歩き出したところで夕日が後ろを振り返った。


「何してるんですか長谷川さん、一緒に行きましょうよ。」

「えっ!?え!?」

「3人全員で勝ったら、スゴいことになると思いません?」


こういう時、コイツがやけに眩しく見えるのは、たぶん俺だけじゃないと思う。


「天使なの!?この子天空から舞い降りた天使なの!?」


ホラな。
まるでダメなオッサンみてぇな女なのに、何故だか妙に人を惹き付ける。

そして何故だか玉も惹き付ける。
コイツは神か?二千円で出したけど。すげェ連チャンしてるけど。神なのか?


「うーん、この台と、こっちの台かな。たぶん。当たっても連チャンしなかったら、こっちに移動した方がいいかも。」


言うまでもなくめっちゃ出た。
長谷川さんは当たるたび泣いてた。

そしてこの女の凄いところは、その当たった金で、マダオ二人に酒を奢るところだ。

長谷川さんはずっと泣きながら飲んでた。
そんな長谷川さんを見て、夕日は嬉しそうに笑う。


コイツのルックスが好き。尻も好き。
コイツが作る飯も好き。
コイツとのセックスも好き。


「長谷川さん面白いですね!飲み友達が増えて嬉しいです!私も友達少ないから!!」

「アンタ天使だよ夕日ちゃぁぁあん!!ホームレスを友達なんて言ってくれるの銀さんと夕日ちゃんしかいねぇよ!!」

「また新台出たら行きましょうよ!絶対当てますから!!パチンコで荒稼ぎして良い段ボール買いましょう!!冬しのげるやつ!」


でもコイツの、"こういうところ"が、一番、好きだ。

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