似て似つ続編 | ナノ




後日談×6枚入り×12枚入り



「で?あの後旦那とうまくいったんで?」

「うまく…いった、のかなぁ…????」

「心の底から疑問系な顔かよ。カウンセリングした甲斐ねェな。」

「アレから1週間たってるけど、まだ一度も会ってないし…。鍵あげたのに、私から行くのもなんか癪だし。」

「可愛くねェ女だな。まぁでも、ゲームは俺の勝ちで間違いなさそうですねィ。」


いつものように、うちをサボり場として使いに来た総悟。
私が今日休みだと把握されてるのは、完全にGPSのせいだろう。

スナック菓子を摘まみながら、楽しそうにニヤついた総悟を見て、数ヵ月前の記憶を思い出す。


「そう言えば…私を調教するとか言ってたね…。でも、別に、土方さんを選ばなかったのは、総悟の調教のせいじゃ
「勝ちは勝ちでィ。」

「……ハイハイ、私土方さんにフラれたし、負けでいいよ。」

「罰ゲーム何にすっかなーぁ。」

「ちょっと待って!罰ゲームあるなんて聞いてない!!」

「何言ってんでィ。ゲームにゃ罰ゲームが付きもんだろうが。」


あーもうホントやだこのドS皇子。
でも、逆らえる気がしないから、やっぱり私、調教されてるのかもしれない。


「折角だから、旦那も絡めてェな。」

「やめて。」

「とりあえず交際宣言くらいはして貰わねェとな。」

「やだやだやだ!誰にすんの!」

「あとはー」

「1個じゃないの!?」



ピンポーン


インターホンの音が会話を遮って、モニターを覗いてみた。


「…っ!!なんでこんなタイミングで!!」

「丁度良いじゃねェか。…罰ゲーム、決めたぜィ。」


私の真後ろからモニターを覗いた総悟の方を振り返ると、どす黒いオーラと共に、罰ゲームを言い渡される。


「旦那に甘えてみろ。全力で。」


ホントやだこの子。


渋々玄関の戸を開けると、相変わらず気だるげな空気を纏いながら、「よぉ。」と一言放った銀さんが、遠慮なしに玄関へ上がってくる。


「あ、あの、 銀さん、今総悟が
「こりゃどうも旦那、お邪魔してまさァ。」

「…よぉ、税金泥棒。お前いつもここにいんな。なんなの?"借り暮らしのソウゴッティー"なの?」

「どちらかというと、"となりのソウゴ"がいいですねィ。可愛い顔して死神なあたりが最高でさァ。」

「いやトトロ死神じゃねぇから。都市伝説だからそれ。アイツは森の精霊だから。」


銀さんは、特に表情を変えることなく部屋へ上がって、持っていたスーパーの袋から飲み物を取り出すと冷蔵庫へしまい始めた。

……ヤキモチ妬くほど子供じゃないか。


「な、なんかちょっと久しぶり?だね。」

「泊まり込みの依頼入ってたからな。」

「あ、そうなんだ。」


なんだか意地張って自分から万事屋に行かなかった自分がアホらしくなった。

3人で奥の部屋へ入ると、銀さんは然り気無く私と総悟の間に座った。


「ところで旦那は何しに来たんで?」

「別に。糖分タイムをガキどもに邪魔されないように避難してきた。」

「うちって一体なんなんだろう…。」

「なんだか、前とは少し雰囲気が変わりましたねィ旦那ァ。」

「あ?そう?わかる?髪切ったの。」

「いや、髪はわかりやせん。」

「あ、この昼ドラ見たかったんだよね俺。」


交際宣言に持ち込もうとしたのか、総悟が会話を試みるも、昼ドラのおかげで話が続かなかったらしい。
板チョコをかじりながらテレビを見始めた銀さんの向こう側から、総悟が私にアイコンタクトを取ってくる。

甘えろって意味なのは明白だ。
甘えるって何したらいいの!!!
甘えるの苦手なんだよ!!長女は甘えるの苦手なんだよ!!


「……あ、あの、銀さん。」

「んぁ?」

「私は、分かるよ…、髪切ったの。」

「いや1ミリも切ってない。」

「は!?!?」

「別に切ってなくても、会話の流れで切ったことにしとこうって時あんだろ。」

「ないよ!!」

「じゃあアレだ、"あ、なんか痩せた?"とか言われると"えーむしろ太ったよー"とか言いたくなるだろ。」

「ならない!!あの、じゃあさ、えーっと、つ、疲れてない?肩とか揉もうか?」

「別に凝ってない。」

「うーんと、じゃあ…えーーっと
「なんだようるせぇな!!CMまでちょっと待ってろ!!」

「…CMになったら、相手してくれる?」

「………。」


甘え方わからないよぉぉおおおお!!!
もう最終的にシカトされたよぉぉお!!!
目も合わせてくれないよぉぉおおおお!!


総悟下向いて笑ってるしぃい!!!
すっごいバカにしてるしぃい!!!


やっぱこれさ、関係性何も変わってないんじゃない??
何も進展してないんじゃない??
完結したのに何も変わってないんじゃない??


「あーなんだもう終わっちまったよ。前半ほぼ見逃して終わっちまったよ。」


それぞれお菓子を食べて、手の寂しさを紛らすこと数分、どうやらドラマが終わったらしい。
終わったと同時に、文句を言いながら、銀さんが側に置いていたスーパーの袋をガサゴソと漁り始めた。


「総一朗君そろそろ仕事戻ったら?コイツの相手は俺がしといてやるから。」


そう言いながら銀さんが何かのパッケージを開封する。

ん?……その箱…もしかして……


「一箱で足りっかな。」


やっぱコ●ドーム!!!!!


「ふっ…足りなかったら電話して下せェ。買ってきやす。」

「ま、待って総悟!!!お願い!夜までここにいて!!せめて夕方まで!!」


ニヤニヤと楽しそうな顔で玄関へ向かう総悟の腕をつかんで引き止める。

だって今から始まったら…一体何回戦になるんだ…!!
ホントに次の日キツいから!!ホントに筋肉痛で死ぬから!!ホンットに仕事にならないから!!


「面白いもん見れたんで、罰ゲームは、これで勘弁してやりまさァ。」


背後で布団を敷いている銀さんに聞こえないよう、耳元で囁かれて、全てを諦めた。


「じゃ、旦那ァ、ごゆっくりお楽しみ下せェ。今度感想聞かせて下さいねィ。」

「感想?…なんなら見てく?」

「総悟!!この人逮捕して!!!」

「…手錠貸して欲しいって意味ですかィ?」

「違う!!もうやだドSコンビ!!」

「仕方ねェから今日のところはコンビ解散してやらァ。視姦はまたの機会で。」


そう言って玄関を出ていった総悟が戸を閉めた。
部屋に静寂が訪れて、ゆっくりと部屋の方へ振り返ると、部屋の手前の壁にもたれ掛かった銀さんに手招きされる。

無表情なのが怖い。

おずおずと近付くと、予想に反してゆっくり抱き寄せられた。

あ、心臓破裂しそう。


「銀さんのこと煽るのそんなに楽しい?」

「…ぁ、煽って、ないよ。」

「1週間、死ぬほど我慢したんだけど。」

「…うん。」

「玄関で襲う予定だったんだけど。」

「玄関、好きなの?」

「…んん、好き。」

「ふふ、私も…好きだよ。」


お互い、肩に顔を埋めてるから、どんな表情をしてるかはわからない。
だけど、なんとなく予想ができた。


「じゃあここでする?」

「…布団でする。」

「まだ昼間だけど。」

「…カーテンは、閉めよう。」

「ふっ、アバズレ。」

「だけど、視姦は、無理。」

「バカか、させねぇよ。」


肩から持ち上がった顔が、そのまま寄せられて、ゆっくり唇が重なる。

あー…なんか、甘い。

銀さんが食べてた、チョコレートのせいかな。

でもおかしいな、口の中だけじゃなくて、全部、全部甘い。
身体を纏う空気も、流れる時間も、全部甘い。

不思議。


私やっぱり、抜け出せそうにない。

明日が、罰ゲームみたいに、辛くても。
今日が、こんなに甘いなら、それでもいいかな。



なんて、甘いこと考えてたら、1箱6枚入りだったコ●ドームが本当になくなった。

ちなみにその消費数と、私が飛んだ回数は、イコールじゃない。


次の日、筋肉痛で死ぬ思いをしながら仕事をしたのに、帰り道、ドラッグストアで12枚入りのコ●ドームをカゴに入れてる私は、ちょっとバカなのかもしれない。


だけどこんな爛れた日常が、今、死ぬほど好き。


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