短編 | ナノ




元セフレ銀さんに襲われる話


「よう」

インターホンの音に玄関の覗き穴から相手を伺い、そして扉を開けば現れたのは数ヶ月前のセフレ。

「…何」
「ちょっと頼みあんだけど」

扉を掴んできた手に警戒心が高まる。どうせろくな頼みじゃない。

「私彼氏できたって言ったよね」
「まぁ大したことじゃねぇから聞けって。これさ、お前んちに置いといてくれねぇ?」

差し出された紙袋の中身を除いてみた。
ピンク色の箱が何個か。「即イき間違いなし!」やら「リモコン式 主導権は君のモノ!」やら「これでイかないわけがない!」やら、1ミリも笑えないようなキャッチコピーが書かれてる。
どう見ても卑猥な電化製品。ホント1ミリも笑えない。

「これピンサロの呼び込みの特別報酬っつって貰ったのはいいんだけどよぉ、うちガキいんだろ?隠すような場所もねぇし、かと言って捨てるには勿体ねぇし。預かるついでに特別に1個だけ彼氏と使ってい
「無理。私だってこんなの彼氏に見つかったら、色々面倒だし」
「銀さん的には彼女が自ら大人のオモチャ買ってくるような淫乱だったら結構嬉しいんだけど」
「そういうことじゃなくて。そもそもこんなの使いたくないし、隠しておいて見つかったとして、元セフレの持ち物預かってるなんて説明出来るわけないでしょ。頭おかしいの?」

そもそも何、これを使う相手が見つかったら取りに来るとでも言うの?どこまで私を都合よく使えば気が済むんだろ。
やっと、離れられたのに。次に進めたのに。

「もう会わないから。会いたくない。」
「…へぇ、彼氏のこと、随分大事にしてんだな」
「もう、帰って。」

紙袋を突き返して手渡した。それを案外すんなり受け取ってくれたまでは良かった。
持ち主の手元に返った筈の紙袋は、一瞬で弧を描いて部屋の中に放られた。玄関先の床板に鈍い音を立て落ちたそれに気を取られ、扉を抑える力を弱めてしまった。
いや、力なんか関係無かった。無理矢理こじ開けられた扉の隙間からまんまと部屋に侵入されて、抵抗する私の腕を瞬く間に一纏めに左手で抑えつけ、空いた右手はガチャリと鍵を閉めた。

「なっ、に!離し、てっ」
「風呂上がり?」

玄関の壁に押さえつけられ動けなくなった首元に生温い舌がザラリと触れた。足をバタつかせて抵抗しようとした時には、足も絡めとられるように隙間を埋められていて、圧倒的な力の差に恐怖を感じた。逃げられない。

「やだっ、やめて!」

耳のすぐ側で、お風呂上がりの火照った肌にワザとらしく吸い付く音が響く。
部屋着の裾の隙間から侵入してきた掌が、私の抵抗を弄ぶかのようにくびれをなぞった。

「そんなに嫌?結構身体の相性いいと思ってたんだけど。俺だけ?」

相性の話じゃない。私には今アンタなんかより好きな人がいる。って、言ってやりたかったのに。部屋着の中でゴソゴソと動き回る指は、その指がかつて私に与えた快感の記憶を確実に呼び起こさせていった。

「っ、やっ、!離し、てっ」
「頼むから大人しくして。痛くしねぇから。」

子供をあやすみたいに頬に口付けられて、軽々と抱えられ床に下される。解放された腕で抵抗してみたけど、それもすぐに無意味になった。どんどん力が抜けてしまう。
下着の中に入ってきた右手のせいで。

「ひ、ぁっ、やっ!や、だめっ!」
「分かった分かった」

柔らかいショートパンツをずり下され、あっという間に下着まで取り払われる。隙を見て逃げようとしても、しつこく快感に追い詰められる。

クチャクチャと音を立て太い指が律動し始めた。それをすんなり2本受け入れてしまう程そこを濡らしている自分に腹が立った。
本当に、バカみたい。

「ぁ、あっ、や!だめっ!だ、め!」
「あーそうだ」

突然何か思い出したように靴を脱ぎ捨て床に散らばる箱を拾い集めている隙だらけの今、逃げるなら今だった。
だけど絶頂の寸前で指を引き抜かれてしまっては、もう抵抗の仕様も逃げる余裕も無い。

「これでイくか」

取り出されたのはピンク色のシリコン素材で出来た男性器の形をした玩具。
カチとスイッチの入る音がすれば、歪な機械音を奏でながら波打つように動き出す。

「っ、やだ!それはっ嫌っ!」

逃げようとする私に馬乗りになると、もう一つの箱からこれまたピンク色のチューブ取り出しながら「大丈夫、ローションかけてやるから」なんて気休めにもならないような励ましの言葉を投げかけてきた。
身体を抑え付けられながら一度スイッチを切ったそれを宛てがわれる。文字通りヌルヌルの冷たい人工物を撫で付けられ、そして少しずつナカへと押し込まれた。
無言でゆっくり出し入れしつつ、反応の良い場所を探しているらしい。そういうところが本当に憎い。

「ぅ、あっ、や、だ…!っ、気持ち、悪、いっ!」
「これでも?」
「いやっ!待っ、」

またスイッチを入れる音。身体の中で振動しながら規則的にグネグネと動く、その経験したことのない刺激に叫びにも似た声が漏れた。

「うぁっ!も、やめ、っぁ、あ、んっあ!」
「気持ち良くねぇ?」

好き勝手動き回る玩具をゆるゆると出し入れさせながら、左手でさっき開けたチューブを傾け秘部の上からヒヤリとした液体を垂らし、粘着質なそれを敏感な小さな塊へ塗りつけた。
ナカで暴れまわる物がどんなに冷たく加減を知らない動きをしようと、この人の指にその芽を優しく撫でられてしまえば、簡単に恐怖よりも気持ち良さが勝る。

「ひっぁ!やっ、あぁっ!ダメっダメっ、イっちゃ、!」

玄関の外に漏れてもおかしくないくらい、声を上げていた自覚はあった。抑える理性は無かった。
まだ白黒する視界に銀色が広がって、私の荒い息を宥めるみたいに優しく深くキスをされた。

「ん、…舌、かむ、よ」
「"銀さんのが欲しい"とか言ってくれねぇの?」
「、言わない」
「俺はお前が欲しいよ」

いつの間にか外れていたベルトの奥から私を知り尽くすそれを取り出し、ぐちゃぐちゃに溶けきった場所へ宛てがわれた。
思わせぶりな台詞も、ちゃんと私を気持ち良くさせてくれる行為も、偽物だって分かってる。

「全部入った」
「んっ、ぅ、バカ、嫌い、だいっ、きらい」

否定的な言葉を吐く口なら塞いでしまえと言わんばかりに息する間もないキスをされる。
言葉とは裏腹にそのキスに答えてしまっている時点で、私も誰かを傷付けている悪い人間だ。

動き出した腰に欲を全部乗っ取られて、目の前の快楽に騙されていたいと思ってしまったから、奥の部屋で鳴る着信音なんか耳に入らないふりをした。
銀さんの肌と私の肌が触れては離れる度、ローションが粘り気を増してネチャネチャと音を立てる。熱のない機械なんかには到底敵わない程、お腹の奥から背筋まで気持ち良さに責められた。

「ふ、ぁっ!そこっ、もっ、と!」
「ふっ、やっと良い子になったな」
「ぁ、あっ、またっイ、くっ…!」
「、俺もっ」


事が終わって部屋に残されたのはドロドロになった玩具と私。馬鹿みたい。1ミリも笑えない。

冷静になった頭で、着信の相手を確認して心を痛めた。
そして電話を折り返すこともなく、画面に打ち出した文字を送信した。

"ごめん。別れて。"

わかってる。また騙されてる。
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