銀色の迷い猫
時々、なんとなく一人で飲みたくなることがある。
そんな夜に行く、こじんまりとした居酒屋。
いつも一人でカウンターに座って、本を読みながら時々店のおじさんと話して、好きなものを食べて好きなものを飲む。
お腹が一杯になれば帰る。
いつもの流れはこう。
でもその日は違った。
その日、少しだけ混んでいた店内。
カウンターで空いている席は私の隣だけだった。
そこに座った男性。
銀色の髪に白い着流し。
店のおじさんとは親しいらしく、何やら話ながらお酒とつまみを頼んでる。
きれいな髪。
そのあとなんやかんやあって、気付いたらラブホテルにいた。
「今更怖じ気づいたなんて言わないで下さいね?」
「いやお前、それはこっちのセリフだけど。こうゆうの慣れてんの?」
「慣れてませんよ。でも、触りたくなったから。その、髪。」
「物好きだな。まぁ、髪だけで終わらす気ねぇけど。」
体だけの関係とかワンナイトとか、今までそうゆう経験は正直言って全くない。
だけど何故か惹かれたこの人と、あの居酒屋で目が合ったあと少し会話をしたら、原始的なナンパをされて、今に至る。
話しているときからずっと触れたかったその髪に触れると、柔らかくてフワフワで思わず微笑んでしまった。
だけどそのあとは、軽い気持ちで誘いにのったことを少し後悔した。
しつこいくらいの前戯に、有り余る体力。
まさに、"一戦交えた"。そんな表現がピッタリの一夜だった。いや、一戦で終わってないけど。
翌日朝起きて、何事もなかったかのようにホテルを出て、特に連絡先を交換することもなく別れた。
残ったのは腰の鈍痛と、指に残るあの髪の柔らかい感覚。
そして、思い出すと肌が疼くような、濃厚な記憶。
少し名残惜しい気持ちを残したまま家に帰ると、飼い猫がいなくなっていた。
閉め忘れていたキッチンの小さな窓から逃げ出したらしい。
今日は仕事も休みだけど、一人で探すより、誰かに手伝ってもらった方が早い。
そう思って、何度か店の前を通って少し気になっていたところに頼んでみることにした。
インターホンを鳴らすと若い男の子が中に案内してくれる。
居間に案内されると、正面に机と椅子が目に入る。
向こうを向いていた椅子がクルリと回り、日に照らされてキラキラ光る銀色が目に入った。
猫はいなくなったけど、探し物を見つけた気分になった。
そして困惑する彼に事情を話す。
「必ず見つけてくださいね、猫。」
「依頼料はたんまり貰うけどな。」
不適に笑う彼に、また肌が疼く。
「猫の名前はね、銀次郎。」
そう、銀色に惹かれて。