短編 | ナノ




初恋は叶わないもんだとどこかの年寄りが言っていた

*ツイッターでも投稿したお話です。(少しだけ修正してます)
*土方の女をオカズにする沖田君の話です。苦手な方はご注意下さい
*夢っぽい話ではないです



掌の中の生温い紙屑を見下ろして、冷静になる。

今俺がここに欲を吐き出す瞬間に思い浮かべていたのは、土方に抱かれるあの人の姿だった。
誰が見ている訳でもない、一人自分を慰める為の妄想の中だ。自分が抱く事だって出来た。
なのに、ここ数ヶ月で土方とあの人がそういう関係にあると確信してしまってからは、どうにもその情景を思い浮かべてしまうのだ。

あの人を思い浮かべると胸が高鳴ったり、何か面白いことがあった時あの人に話したくなる。あの人が土方を選んだ事が憎くもあるし悲しくもなる。
この感情が恋だというなら、確かに、そうなのかもしれない。

ぐしゃりと丸めて投げた紙屑は強めにゴミ箱に当たって部屋を散らかしたが、気にするほどのことでもないと目を閉じた。



あの人が夫を亡くしたのは俺達が江戸に来る少し前のことらしい。
夫が残した店を女手ひとつ守りながら気丈に振る舞う姿は、強く儚くそして美しく俺の眼に映った。
それはきっと俺に限らず。男なら誰しもその背中を見て守ってやりたいと感じるはずだ。
現に近藤さんもそんなあの人を支えたくて、俺達を連れて行っては高い酒を頼むのだから。

土方も例外ではなかったのだろう。
土方が時々「出かけてくる」と屯所を出る時間はいつもあの人が店を閉める時間だった。
それに気付いてからだ。瞼の裏にあの人と土方の姿を浮かべて、ぶつけどころのない欲を一人満たすようになったのは。

情けねぇなんて感情よりも興奮が勝るのは、俺は女の抱き方誘い方ひとつも知らないからで、それを知ってるあの人と土方の行為を思い浮かべる方が自然であるからなのかもしれない。

そしてあの人が夫以外の誰かに身体を許した事実に、少なからず安心しているからかもしれない。
それは自分にもチャンスがあるかもなんて浅はかなものではなくて。亡き夫への想いを理由にこの先の人生を、誰にも頼っちゃいけない、誰にも心を許しちゃいけないと暮らしていくのは酷だ。
死んだ人間を愛すなとは言わないが、寂しさに耐えられない夜に誰かに頼る事で罪悪感を抱える必要なんかないはず。

土方も同じだ。
姉上の事を想い続けろなんて俺は思っちゃいないのに、勝手に罪悪感を抱えて勝手に一人格好付けて生きていこうとする男だ。
いつまでもウジウジと姉上の事を引き摺られたって嬉しくもなんともない。

だからあの二人がそういう関係になったと気付いた時、安心した。嬉しかった。
少し苛立ちながら、幸せになりやがれと願った。


それが興奮材料だとするならば。
これが汚れなき18歳の初恋で、尚且つ失恋だとするならば。
あまりにも清すぎると、そう思いやせんか?

ねぇ、姉上。
[ prev |next ]