似て似つ | ナノ




#4 出会いは更なる出会いを呼ぶ



新しい土地に来て、新しい家に住んで、新しい職場に勤めて、新しい出会いもあった。


でも新しければ全部が全部、いいってものでもない。


数日前起こった出来事は、私の中に絶大なインパクトを残し、そこから生まれるモヤモヤした気持ちはなかなか消えてくれない。


それでも、目の前のやるべきことには集中しなきゃいけない。


今日は、私が新しく勤め始めたパチンコ店の新店舗オープンの日。
この日の為に、新人を教育したり、使い勝手が良いように業務に必要な物を配置したり収納したり、色々と準備してきた。


その準備期間に合わせて引っ越ししてきたため、荷ほどきや各々の手続きもあってバタバタした数日間だった。


いよいよオープンの時間。
新店舗は客引きのために出玉率も高めに設定してあるし、パチンコ常習者はそれを知っているので、店の前には既に行列ができていた。


そして自動ドアが開き、並んでいた人達が続々と店に入ってくる。
新しい場所での仕事が遂に始まり、普段よりもしっかり笑顔を意識しながらドアの近くでお辞儀をする。


並んでいた人達が全て店に入り、人の出入りが落ち着いたところで、私は持ち場であるカウンターへ向かう。

カウンターは、パチンコやスロットの遊戯を終えた人が、出玉を賞品に交換する場所。
なので、オープンしてすぐの時間帯はまだ皆台に座って遊戯をしているため、あまりやることがない。

新店なのでそれほど掃除をする場所もなく、笑顔で立ちながら、時々お客様の案内なんかをしながら時間は過ぎていった。


数時間が立ち、賞品交換するお客様も増えてきた頃。


「今日は大勝ちだせー」


機械で出玉数をカウントし、そこから出てきたレシートをヒラヒラさせながら男性が近付いてきた。


「お預かり致します」


そのレシートのバーコードを読み取ると、どれだけ賞品が貰えるか表示される。
パチンコ店の賞品というのは、ケースに入ったメダルのようなもの。
勿論、化粧品やサングラス、ライター、ちょっとした家電なんかの景品に交換することもできる。

でも大抵の人は、そのメダルのような賞品を受け取り、それを換金所へ持って行って現金化する。

私はその男性の賞品を数え、重ねて輪ゴムで止め、渡そうとした。

そう、渡そうと顔を見た。
向こうも私の顔を見ている。


「いやいやちょっと待って、何これ夢?どこから夢?もしかしてパチンコ大勝ちしたのも全部夢?」


なんだかこの反応、いやな予感がする。


「つーかアレじゃないよね、まさかアレじゃないよね、足透けてたりしないよね、化けて出たとかじゃないよね、だって俺激辛せんべいちゃんと食べたし?タバスコパフェも飲んだし?」


何やらブツブツと一人言を言う銀髪の男性は、思い付いたように私の胸元の名札を見た。


「やっぱ別人だよな、そうだよな。いやしかし似すぎだろどう考えても。」


私の顔をまじまじと見るその人から出た「似すぎ」というワード。

いやな予感はどうやら的中したらしく、あの雨の夜から私の中にずっと残っていたモヤモヤがまた膨らみ出す。


「お客様…もしかして真選組の方とお知り合いですか?」


本当は業務中にこんな話はスルーするべきなのかもしれない。私情とは分かりつつ、つい、口に出てしまった。


「え。なにオタク、あいつらと知り合いなの?その顔だし、ナンパでもされた?」

「ナンパじゃないです…けど…」


口ごもる私を見て何か察したらしい男性は、懐から名刺を出して、私の手から賞品を取り、空になったその手に名刺を渡した。


「真選組のバカどもがめんどくさいこと言ってきたら連絡しろよ。あ、ナンパじゃねぇからな。俺ぁ頼まれればなんでもやる万事屋やってんだ。依頼としてならいつでも受けてやる。」



銀髪の男性はどこか慰めるような表情でそう言うと賞品を見つめニヤニヤしながら店を出ていった。


手元の名刺を見てみると「万事屋銀ちゃん」と書いてあって、度重なる新しい出会いに困惑しながらも、何故かその名刺に安心感を覚え、私はそれをそっとポケットにしまった。

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