似て似つ | ナノ




#28 嘘つき(な悪友を持つこと)は泥棒の始まり



「何やってんだお前ら。」

「「ギャアアアアアアアアア!!!」」
「ヌォアアアアアアアアア!!」


人に見つからないよう、緊張感を持ちながら暗い縁側をヒタヒタと歩いていたら、突然後ろから声をかけられ、飛び上がりながら叫んだ私達。
そしてその叫び声に驚いたのか、よく分からない叫び声をあげた土方さん。


「いきなり背後に現れるのは反則だろテメェ!!」

「明らかに怪しい動きしてるからだろうが!!つーかお前ら何持ってんだソレ!!」


咄嗟にお酒と鮭とばを背中に隠したけど、絶対バレたよね。絶対怒られるよね。


「何も持ってませんけどー?なんの話ですかー?」

「隠してもバレバレなんだよ!!窃盗の現行犯で逮捕してやる。」

「窃盗?なんのことかな?僕たちは喉が乾いたから水分を取ろうとしただけだよな夕日くん?働いた者に対して水分も与えないなんてそっちこそ労働者を下僕とでも思っているのかな?それはそれで組織として問題なのではないのかな?そう思うだろ夕日くん?」

「思います。寝る前に水分取らないと脱水症状起こす場合もありますからね先生。」

「ただの水分じゃねえだろソレェエ!!お前が持ってるのに関してはただの鮭とばだろうが!!水分飛びまくりのカラッカラの鮭とばだろうが!!」

「うるっせえなー!明日まで俺たちは真選組の一員なんだよ!これもまかないに含まれるだろ!ケチくせぇんだよ!くせぇのはマヨネーズだけにしとけよ!」

「お前みたいな胡散臭ぇ奴真選組の一員だなんて一瞬だって認めねえよ!つーかマヨネーズバカにすんじゃねえぶっ殺すぞ!!」


「うるせぇ土方、死ね。」


いつものように盛り上がり始めた口喧嘩を止めたのは、突然開いた襖から現れた総悟。不運にもここは総悟の部屋の前だったらしい。
そしてこれがただの総悟なら良かったんだけど。いや、ただの総悟でも恐ろしいんだけども。
この総悟はどう見ても寝ぼけてる。8割目閉じてるもん。
そしてただ寝ぼけてるだけなら良かったんだけど。寝ぼけても総悟は総悟だった。


だってバズーカ構えてるもんんんんんんんん!!!!


こんなに色々と分析してるけど、これは総悟がトリガーを引くまでの一瞬の視界。
あぁ死ぬ前ってホントに時間がゆっくりになるんだなって思った。

体に走った衝撃にギュッと目を閉じて、死を覚悟した。

だけどその衝撃はバズーカによるものではなかったらしく、次に目を開いたときに視界に写し出された光景は衝撃的でまた時が止まった。


えーっと、たぶん総悟がバズーカを撃つ寸前に、銀さんも土方さんも、全くもって反射神経が追い付かなかった私をかばおうとしてくれたんだと思うんだけど…
銀さんが私を引き寄せて、土方さんは私を抱えるようにこちらに倒れ込んできたんだと思う、たぶん。

だから、全員銀さんの方に倒れ込んで、尻餅をついたわけだけど…

私の後ろには銀さん。銀さんの足の間に私。私の上に土方さん。
私の…お、おっぱいの、上に…土方さんの…顔面。


止まっていた時間は一瞬だった。


おそらく、自分の顔面の在処がおっぱいの上だと気付いた土方さんは、ズザザザザザザと音が出るくらいに物凄い勢いで一気に3メートルくらい距離を取った。

暗い廊下でも分かるくらいに顔が赤いし、口をパクパクして声にならない声をあげている。

そこまで照れられるとこっちも恥ずかしくなる。え、なんかもうすごい恥ずかしい。
てゆうか、土方さんって…


「童貞なのお前?」


私の心の声を代弁してくれたのは銀さんだった。


「んなわけねぇだろ!!ただアレだ、ちょっと久しぶりだっただけだしぃぃい!!?つーかなんなのお前ぇえ!!なんでノーブラなんだよバカだろお前ぇえ!!」

「すいませんんんん!!ひ、ひひひ土方さん!!わ、私のおっぱいどうですかぁあ!?もう少し大きい方が好みですかやっぱりぃぃい!!」

「照れ方が下手ぁぁぁああああ!!!」


照れすぎて思わず手で顔を覆いながらよく分からない質問を投げ掛けてしまったらスゴく大きな声でツッコまれた。


「お前ってさぁ、ラッキースケベを発生させる天才なの?ラッキースケベ発生機なの?」

「だとしたら銀さんはアンラッキースケベ発生機だね。今私の背中に銀さんの銀さんが当たっている。」

「ナニがアンラッキーじゃぁぁぁああああ!!!ラッキーだろコレ超ラッキーだろ!!!」

「いやなんかノーパンだから感触が生々しくてスゴくイヤだ。」

「じゃあ早くどけえええええ!!つーかお前さっきの照れ具合と落差ありすぎだろ!なんだその痴漢を見るような目は!!お前も露出狂みてえなもんだからね!?!」


銀さんの足の間から動いて庭の方に目線を移すと、庭に生えていた木が木っ端微塵になっていた。
避けるのがあと少し遅かったら、あぁなっていたのは私かもしれないと思うと鳥肌が立つ。
てゆうかこんな夜中にこんな爆発音かましてたらそりゃ物騒って言われるよ。不動産屋も屯所の近所はオススメしませんって言うよ。


粉々になった木から少し目線をずらすと、粉々になった見覚えのある瓶。


「ぁぁぁああああ!!!高級日本酒がぁぁぁああ!!!何やってんの銀さんんんんんんん!!」

「お前をかばうために放り投げたんだろうが!俺のせいじゃねえお前のせいだ!」

「なんでよ!そんなこと言うなら寝ぼけたまま殺人未遂事件巻き起こした総悟のせいでしょ!」

「お前ら二人で弁償な。」

「「え。」」

「そりゃないぜ副長さん。あんな大量にあんだから1本くらいどうってことねえだろ!…ところであの酒いくら?」

「1万だ。ありゃ来週新入隊志の歓迎会やるために近藤さんが自腹で取り寄せた酒なんだよ。」

「1万円のお酒が庭の肥料に……コップ一杯分しか飲んでないのに…」

「日頃の行いが悪ぃんだろ。」

「日頃の行いが悪いのはオタクの隊長さんだよね。何事もなかったかのようにスヤスヤ寝ててすげえ腹立つんだけど。」


銀さんが指す部屋の中を見てみるとバズーカを抱き抱えてスヤスヤと眠る総悟がいた。
一番場を騒がせた癖に呑気すぎる。


「まぁこれに懲りてさっさと寝るこったな。明日寝坊したら切腹だからな。その前にまた怪しい動きしたら次こそぶった切る。」

「ヘイヘイ分かりましたよ。僕たち下僕は何も飲まずに寝ますよ。干からびたらミイラになって呪ってやる。」


銀さんが土方さんの言うことを聞くなんて珍しいなと思いながらも、立ち去ろうとする銀さんに着いていく。
去り際に「おやすみなさい。」と声をかけると、目も合わさずに「お、おぅ。」と返事をしてくれた。
着流し姿が素敵すぎて夜這いしに行きたい…。


でも前に誰かが言ってた通り、土方さんって本当に意外とウブなんだなぁ。
土方さんの反応見てるとこっちまで恥ずかしくなってどうしていいかわからなくなる。
いつも銀さんがそれほど反応しないだけに、土方さんの反応は新鮮だけど逆に困惑する。
私もウブで純粋な女の子だったら、どんな感じになったんだろうな。

そんなことを考えながら、部屋の方向に曲がろうとしたら、銀さんに腕を掴まれた。


「俺が大人しくアイツの言うこと聞くと思うか?何が新入隊志の歓迎会だよ、俺たちも新入女中なんだから歓迎されるべきだ。」

「え?またやるの?窃盗団。」

「行くぞ団長。」

「次は絶対バレないように庭から行って窓から部屋に戻りましょう。行くわよ団員No.13。」

「何がサーティーンだよ。ノリが良すぎて逆に引いたわ。酒のこととなるとなんでもすんだなお前。」

「もうアルコールスイッチがオンになっちゃってんだもん。弁償してでもいいから酒を飲みたい。」

「アル中のセリフだな完全に。」


再犯を犯す逮捕者の気持ちがちょっとわかってしまって、罪悪感に駆られたけど、近藤さんに弁償する前提で飲むならいいよね。アレ、良くない?

今度こそ無事にお酒を部屋へ迎え入れ、二人だけの宴が始まる。


深夜のバラエティー番組を見て、二人して出演者の悪口を言いながら、いつの間にか時間は過ぎていく。

このアイドルは絶対整形だとか、コイツの熱愛報道は絶対炎上商法だとか、女は胸より尻だとか、男は顔より胸筋だとか、銀さんが言うことは本当にくだらなくてデタラメで適当。たぶん明日には全然違うこと言ってるんじゃないかな。

そんなくだらない会話が楽で、居心地が良くて、楽しいって感じてしまうから、私も大概適当人間なんだと思うけど。


一升瓶がそろそろ空になるころ、ふと時計を見たらもうすぐ3時を回ろうとしていて、銀さんは虚ろな目で覚悟を決めたように呟いた。


「俺は寝ることを諦めた。」
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