#25 最強キャラ設定なんかないから
頼まれた廊下の掃除をサボって縁側で寝ていたら、女中のババアにゲンコツ食らって目が覚めた。
力仕事を手伝えと倉庫に連れていかれて、食材やら米を厨房まで運ぶ。
かったりぃ…。
「アラ、夕日ちゃん洗濯物取り込むのに随分時間かかってるわね。銀さんちょっと手伝ってきて。」
なんでこうババアつーのは人使いが粗いんだよ腹立つな。
仕方なく物干し竿のある庭を見に行くと、干して乾いたであろうYシャツが数枚縁側に置かれていて、明らかに途中で仕事放棄した状態。
ここで仕事をしていたであろう当の本人は見当たらねぇし。
どっかの隊士にナンパでもされてどっかの部屋に連れ込まれたんじゃねーかとか、もしかしたらこの屯所にスパイとして入り込んでた攘夷浪士に人質として拐われたんじゃねーかとか、嫌な考えがよぎる。
これはアレだから。何かと厄介事に巻き込まれやすい性分のせいだから。
別に心配してるわけじゃないし?
もしアイツがこの数時間であのマヨネーズ野郎といい感じになってようが全然関係ねぇけど?アイツがサボってるせいで俺の仕事が増えるのは癪だから?探すだけだし?
全然心配じゃねぇし?
そう思いながらも少し早まる足で、庭を探し回るとアイツの声が聞こえてきて立ち止まる。
「ありがとう、山崎さん。」
少し遠目から見えたのは、なかなか見せないような笑顔で話すアイツとジミー。
え?なんでちょっといい雰囲気なの?
なにアイツ、マヨラー狙いからジミー狙いにシフトしたの?
確かにマヨラーよりジミーの方が取っつきやすいかもしんないけどアイツのストライクゾーンどうなってんの?守備範囲広すぎだろ。そんでジミーもちょっと照れてんのが腹立つし。
「アレ、旦那!旦那も手伝いに来てくれてたんですね!」
「あ、銀さん。」
何故だか少しイライラして、大袈裟に足音を立てながら近づいた。
「何サボってんだよ不良娘。」
「いや、これは総悟のせいで…」
「オラ、行くぞ。」
「わっ!」
サボり魔の腕を引いて歩き出すと、後ろで「アレ、俺の存在無視!?」とかなんとか騒いでる奴がいたけど地味すぎて見えなかなったことにしとく。
物干し竿のある場所まで細い腕を掴んだまま進んで振り替えると見事なむくれっ面と目が合う。
「ちょっと!痛い!そんな引っ張らなくてもいいでしょ!」
そんなに力を込めてた訳じゃない。
それでも腕を押さえて怒るコイツに、小さな興味が沸く。
「…ちょっと手出せ。」
「…?何?」
首を傾げた夕日が差し出してきた手を握手の様な形で握る。
「なんの握手?」
「力入れてみ。」
「なんで。」
「いいから。」
「私結構握力強いよ!ふんっ!」
色気のない声と共に、力を入れたらしいが、全くもって痛くもなんともない。
「ふざけんな本気出せ。」
「ぬんんんんん!本気でやってるよ!」
眉間にシワを寄せて力む姿からしてどうやらこれが本気らしい。
俺の周りには何故かバカ力の女ばかり集まるし、そのバカ力に怪我を負わされるなんてこともしょっちゅう。
自分の身は自分で守れる猛者しかいねぇ。
だけどコイツはただの、普通の女で、忘れかけていた"普通の女"という生き物が、どういうものなのか思い知る。
こんな弱い力で、こんな細ぇ腕で、男に組み敷かれたら敵うわけがねぇ。
ここが真選組の屯所だとしても、女に飢えた男所帯ってことは変わらねぇ。
警察だからって、絶対理性を失わない保証なんてどこにもない。
「はぁ…疲れた。で?何?」
「なんでもねぇ。」
「何それ、セクハラ?てゆうか銀さんの手なんか硬いね。」
握手をほどくと、俺の手を掴んでまじまじと見てくる。
「豆だらけ。意外と指長いし。」
「お前こそセクハラ?もしかして指フェチ?やめてくんない?」
「うん、割と指フェチ。この間接のとこが好き。」
やっぱコイツ、警戒心なさすぎ。
なんかムカついたから俺の手に触れるその手を、また握って少し力を入れてみる。コイツを苛めて楽しんでるサド王子の気持ちが少しわかった気がする。
「いたたたたたたた!!ちょっと!!DV!!!」
「DVってのはなぁ、家庭内暴力のことを言うんだよ。さっさと仕事終わらせんぞサボり魔。」
「だから!サボってたんじゃなくて!総悟に殺されかけて避難してただけだから!」
文句を言い合いつつ残りのシャツを取り込みながら、どうかコイツが厄介事に巻き込まれませんようにと切に願う。
コレはアレだから。別に心配とかじゃなくて、何かあったら助けんのめんどくせぇしまた愚痴聞かされる羽目になるだろうからってだけだから。
そうゆう性分なだけだから。
深い意味なんてない。
ただコイツには、
「アンタたちいつまでサボってんだい!もう夕食準備しないと間に合わないよ!」
「うるせえババア!俺はサボってないから!コイツだから!減給だ減給!」
「違う違うおばちゃん聞いてよ!銀さんがセクハラする上にDVしてきて参ってんの!人肌恋しいんだよコレたぶん!おばちゃんの母性でなんとかしてあげてくんない?」
「仕方ないね、ホラおいで銀さん。」
「やめろ気持ち悪ぃ!!」
「うるっせえお前ら!!会議中なんだから静かにしやがれ!!!」
「うわー!土方さんに怒られたー!銀さんのせいだー!!もう無理心折れたー!」
こんなバカみてぇな日常がお似合いだってだけだから。