似て似つ | ナノ




#13 素でいられることの意味



「じゃあ私そろそろ帰るね。明日仕事だから。」

「さっさと送ってくるアル銀ちゃん!プロポーズのチャンスネ!!」

「こんな夜道を女性一人で歩かせられません!銀さん絶対家まで送ってくださいね!」

「あーはいはい。」


と、まぁ何故か完全になついてやがるガキどもに急かされて俺が送っていく羽目になったわけだが。

アイツらが散々結婚しろだのなんだの騒いだせいで若干気まずいんですけど。
別に俺は全然意識しちゃってるとかじゃないけどね?
そんな、小学生じゃあるまいし「アイツお前のこと好きらしいよー」とか言われてそっから変に意識しちゃって「アレ?もしかして俺もアイツが好きなのかな?」みてぇなやつじゃないからね?全然違うからね?


「あれ、銀さんバイクで行かないの?」

「歩きの方が道覚えやすいだろ。最短ルートで帰るからちゃんと覚えろよ。」

「…うん!それってさ、また来ていいってこと?」

「…まぁ、アイツらがお前のこと気に入ったらしいからな。」

「ふふっ嬉しいな。あっ、銀さん、私が生活力がない女じゃないってわかってくれた?」

「あーまあな。ただ計画性がないってことはわかった。」

「そうなの!引っ越してから買い物すればいいやーってとりあえず引っ越してみたら思いの外生活しずらかった!」


しばらくそんなくだらない会話をしながら薄暗い夜道を歩いていると、ふと夕日の目線がこっちに向いてることに気付く。


「なんだよ。」

「銀さんって、なんで木刀持ち歩いてるの?」

「万事屋さんはなぁ、何かと物騒な目に合うもんなんだよ。」

「ふぅん。あと1つ気になってたんだけどさ、万事屋ってなんでもやるんでしょ?エッチな依頼も受けるの?」

「お前の思考はなんでそう変態オヤジみてぇなんだよ!」

「え、だって普通気になるでしょ絶対。」

「なんねぇだろ聞かれたことねえよ!そんな依頼してくるやつもいねぇし、されても受けねえよ!まぁ若くて綺麗なお姉さんならアリかもしれねぇけど。」

「若くて綺麗なお姉さんは万事屋に頼むほど男に困らないと思う。」

「…だな。」


神楽たちに結婚だのなんだの言われて少しは向こうも俺のこと意識してんじゃねーのなんてまた淡い期待を抱いちまったが、相も変わらず色気のない会話にガックリしつつ、なんとなく安心する。

色恋沙汰で騒ぐ女はめんどくせえし、変にまとわりつかれるのも御免だからな。


そんなことを思っているうちに、真選組屯所の門が見えてくる。


「あ」

「あ」


門の目の前に差し掛かったとき丁度門から出てきたのは、地味が取り柄のあの男だった。


「旦那じゃないですか、何してるんですこんなとこで…ってデート中でしたか、こんばんはっあああああああえええええっ!?!?」


俺の隣にいる夕日の顔を見るなり叫びだしたジミー。理由はまあ1つしかねえんだろうが。


「ミ、ミツバさんんんんんん!?じゃ、ない!?ですよね!?」

「ち、違います…やっぱり間違えられるんですね…」

「ごっごめんなさい!!あまりに似てるんで…」

「この顔のおかげでお宅の総一郎くんにイチャモンつけられたらしいよ、コイツ。」

「い、イチャモンってほどじゃないですけど…。その総一郎くん?とあなたが一緒に歩いてたときですよ、舌打ちされたの。」

「え、全然気付かなかったです…あっでも…見回り中突然不機嫌になった時かな…まぁ、よくあることなんですけど、その時はいつもとちょっと様子が違ったというか…」

「おたくら市民を守るおまわりさんなんじゃねーの?一般市民に迷惑かけんなよジミー。」

「俺のせいいいいい!?」

「まあ総一郎くんに言っとけよ、顔は似てるけど中身は残念なほど似てねぇから安心しろって。」

「すいませんね残念な中身で。」

「随分仲良いんですね!もしかしてコレで?」

「その小指へし折っていい?」



「おい山崎てめーそんなところで何やってんださっさと仕事行きやがれ。」

「わーーーー副長!違うんです今丁度万事屋の旦那に会って!」

「あ?仕事の邪魔すんじゃねぇ公務執行妨害でしょっぴく……」


門の向こうから歩いて近付いてきたニコチン中毒者が、顔が見える距離まで来て固まる。
まあこれも理由は1つしかねぇんだろうけど。


「お前…この前の…」

「ちょっとちょっと鬼の副長さん、あんまり瞳孔開いた目でうちの夕日ちゃん見ないでくれます?」

「副長もお知り合いなんですか?」

「いや、一度すれ違っただけだ。」

「あの、わ、私…すぐそこに住んでて…会いたくなくても、会っちゃう可能性が高くて…だから、すいません…」


突然現れた瞳孔ガン開きのニコチン野郎のせいか、あの時散々愚痴ってた酔っ払いの姿からは想像もできないくらいシュンとして俺の後ろに隠れながら、何故か謝るコイツを見てると、何故だか無性に腹が立ってくる。


「別にお前は悪くねぇだろ。お前だって好きでその顔で生まれてきたわけじゃあるめぇしなんにも迷惑かけてねぇのにいつまでもウジウジしてるコイツらが悪ぃんだろ。」

「あぁん?なんだ、テメェが人をかばうなんて珍しいな。俺は別にソイツが誰に似てようが関係ねぇよ、なにも知らねぇ赤の他人だからな。」

「いやいやそんなこと言いつつお前さっき動揺してんの丸分かりだったからね。まぁ動揺すんのも無理はねぇか。」

「テメェ喧嘩売るのも大概にしろよ。そもそもソイツにイチャモンつけたのは総悟だろうが。お前だって総悟のシスコンっぷりは知ってんだろ、アイツが動揺すんのも無理ねぇよ。」

「お前が人をかばうなんて珍しいな?お前らがコイツをどう思おうと関係ねーけどな、愚痴聞かされんのはコッチなんだよ。まあ飯おごってもらえるからいいけど。」

「ちょ、ちょっと副長も旦那もやめてくださいよ、怯えてますよ彼女。」


いつものごとく始まった言い合いだったが、それを知らない奴からしたら確かに喧嘩にしか見えない。
頭に登った血を抑えるように、頭をガシガシとかくと今度は夕日が口を開く。


「銀さん、ありがとう。私…まだしばらくはこの町から離れられそうにないので…もしかしたらまた顔を合わせてしまうかもしれないけど…でも私は誰に似てようと私でしかなくて…なんていうか、その…どうしようもないん、ですよね…。あの、彼が辛くなる気持ちもわかるけど…。」


無意識なのか、俺の着物の裾を掴んだまま、伏し目がちに少し潤んだ目で必死に言葉を選びながら話す夕日は、やっぱりどう見ても"あの女"に似てる。
そう思ったのはきっと俺だけじゃないはずだ。


「山崎、行くぞ。」

「は、はいよっ!」

「お前、夕日っつったか。総悟のやつになんか言われたら俺に言え。アイツの…部下の粗相を処理するのは俺の仕事でもある。それに、わざわざその天パーに奢る金が勿体ねえ。」

「え…」

「ちょっとお前去り際にそれはカッコつけすぎだろ!よくそういうことできんな恥ずかしくないの!?つーかやめてくんない!?俺がヒモ男みてぇだろうが!」

「……………か、かっ……カッコいい……!」


早くも振り返らず歩き出したカッコつけニコチンマヨネーズの背中を見ながら顔を赤くしている夕日。
え、なにこれ。


「ねえ!銀さん!!今の人誰!?今の何!?今のってさぁ!超さりげなく超スマートにデートに誘われたってこと!?愚痴聞いてくれるってこと!?」

「ちょ、ちょっと待って夕日ちゃん…なにその興奮っぷり。銀さんもさ、これまでちょいちょいカッコつけたシーンあったのにそんな興奮なかったよね?アレ?おかしくね?」

「しかもさ、前見たときは暗かったしちょっと距離あったから気付かなかったけどイケメンだよねあの人!!」

「え、聞いてる?俺の話聞いてる?」

「ねえ、誰なのあの人!」


何このパターンおかしくね?
俺めっちゃコイツのことかばったのにおかしくね?
ここは「銀さん守ってくれてありがとう!カッコいい!」ってなるとこなんじゃねぇの?
なんであのニコチンマヨネーズの一言に全部持ってかれるわけ?
なんなのまじで、この顔の奴はニコチンマヨネーズ中毒者が好きになる遺伝子でも持ってんの?


「お前ケロッとしすぎだろ!さっき泣きそうな面してたくせに。」

「いやだって喧嘩になりそうだったから。私の為に喧嘩しないでーみたいな?」

「みたいな?じゃねぇよ腹立つな!お前のその猫かぶりどうにかなんねぇの!?アイツらにもその調子でガツンと言えばいいだろ!」

「無理無理っ!ただの一般市民のか弱い女子が刀持った大の男に楯突けるわけないでしょ!それに、不思議と銀さんは素で居やすいんだよねー。なんでかな?」

「バカにしてんだろ、絶対俺のことバカにしてんだろ。」


別にコイツのことを好きとか全然そんなんじゃねーけど、いざ見知った女が男に落ちる瞬間を目の当たりにするっつーのはなんというか、ただ単純にムカつく。
しかも相手はあのニコチンだし。
俺がダメでアイツが良い理由を教えてほしい。今後のためにも。やっぱ顔か?顔なのか?


屯所の門から程なく歩くともはや見慣れてきたアパートが見えてくる。


「銀さん、今日はありがとう。」

「おぉ。」

「神楽ちゃんたちと友達になれたのも、真選組の人と話せたのも、銀さんのおかげ。」

「おぉ。」

「この町で、銀さんと出会えて良かった。」


たぶんコイツは何も考えずに言ってるんだろうが、そういうセリフを、そういう笑顔で言うのは反則だろ。

普通の男なら勘違いしますよねコレ。さっきイケメンイケメンって騒いでたかと思ったらコレですよ?これだから女は怖ぇよな何考えてるか全然わかんねぇよ。まぁ、銀さんは?恋愛のスペシャリストなんで?別に変な勘違いなんかしませんけどね?コイツの性格上まじでなんも考えてないパターンだからね?知ってるからね?


「じゃあな。」

「うん、ありがと。」


階段を上がる夕日を見送って歩き出そうとする。


「銀さん!」


その声に振り返り上を見上げると、2階の玄関前のスペースから夕日が体を乗り出している。

何を言い出すのか。
やっぱり泊まってかない?とか?
次のデートの約束とか?
なんなら告白とか?


「明後日、新台入荷だよ!稼ぎに来てね!じゃ!」


もうほんと期待すんの、やめよ。

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