泣かしてしまった。
誰よりも俺を思ってくれている大切な人を、俺は自分で泣かせてしまった。どんなに後悔しても遅く、どんなに懺悔しても伝わらない。自分の横にまとわりつく女が憎々しくて仕方がない。
零は自分のご両親、吹雪蓮汰と吹雪依優が亡くなった時以降一度も泣いた事がない。泣かずに、俺のために一人頑張って執事として俺の側にいてくれた。ずっとずっと俺のために動いてくれた、誰よりも大切な女なんだ。この先きっと零より大切な女なんて出来ない。意味は違えど、零以上に大切にして信頼して愛せる女など絶対に出てこない。それほどまでに大切なのに。

いっそのこと、死んでしまいたい。
零を蔑ろにしたこの瞳が、零を拒絶したこの口が、零を泣かせた俺自身が憎くて憎くて仕方がない。
嫌いな女を愛でて大切な女を嫌う…嗚呼、心が壊れそうだ。


「景吾くんー!」

「どうした?舞久」

「えへへー!好きー!」

「フッ、本当に可愛いなぁ舞久は」


零を拒絶した癖に、きっと零が助けてくれるだなんて思っている自分が女々しい。俺は零が居ないとだめな様だな…キングが聞いて呆れる。
学園中の零が以外の全ての人間が、この女を愛でて護る。こんな気持ちの悪い学園になってしまった。生徒会長として何も出来ない事が苦しく、そして不甲斐ない。


「あっとべー!丸井くんと会いたいから、練習試合して欲Cー!」

「立海か…悪くねぇな」


駄目だ、そんなことをしたら絶対に駄目だ。立海の奴等も俺達の二の舞になる。ジローもきっとわかってるのに、拒絶出来ない"何か"に促されている。


「立海ってあの立海ー?景吾くん練習試合してー!」

「アーン?」

「お願いー!会ってみたいのー!私マネージャーするよ!あ、もちろんレギュラーだけで見学は禁止でー!ね?ダメー?」


そう言ってコテンと首を傾げる。ああもうなんて気持ち悪いんだ!自分が愛されるためだけの舞台を作ろうと、俺達が拒否出来ないのをわかっているのに聞いてくる…!


「良いぜ、ただ…立海の奴らに惚れんなよ?」

「えー?わかんないー!」


ケラケラと笑うその女に嫌悪し、心の中で鳥肌を立てる。立海も手中におさめたい、立海のお姫様になりたい、そんな考えをしてるのがとてもわかりやすい。滑稽な女だ、本当に。そしてその女に操られる俺達は、憐れでやはり滑稽だ。

すまねぇ…幸村。お前の大事な立海を俺は護れそうにねぇ…。




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