セトの修行
弓影が学校に行っている間は、セトはほとんど留守番をしていた。たまに外へ出かけることはあるが、稀である。万が一、弓影が何かトラブルに巻き込まれた時にすぐに動けるように、家から離れないようにと、考えているのである。

そんな、セトに一つの悩みがあった。

「修行がしたいです……」

ぽつりと、誰もいない部屋で呟く。
セトは、ずっと昔から体を鍛える日々を送っており、それが習慣となっていたため、それが出来ないと、なんだかむず痒いのだ。
前に部屋の中でセトが体術の鍛練をしたら、テレビを蹴飛ばしてしまった。幸い軽く当たっただけだったので、テレビには傷は無く無事であったが、弓影にこっぴどく叱られてしまった。そのため、部屋の中で暴れることはできない。
何か屋内でできる修行はないだろうか。セトは部屋中を回り、役に立ちそうな物を探した。机を持ち上げたり、炊飯器を開けたりして、考えを巡らす。
台所にある冷蔵庫の戸を開け、中の冷気に触れた時、セトは閃いた。

「そうだ。冷蔵庫の中に入って、寒さに耐える修行をしましょう!」

***

「ただいまー」

授業を終えた弓影が家に帰ってきた。

「あれ? セト?」

いつもは出迎えてくれるセトがいない。弓影は首を傾げる。
だが、どこかに出かけたのだろう、と思い鞄を下ろして台所に向かった。何か飲み物でも飲もうと冷蔵庫を開ける。
そして、冷蔵庫の中に詰まっているセトを見つけて声を上げた。

「わああああああ!!!? せ、セト何してんだよ!!」

「おかえりなさいませ、ゆみかげさま」

セトの声は凍えてがちがちと震えている。

「バカ! 早く冷蔵庫から出ろよ! もー本当に何考えてんだか……」

冷蔵庫は中からは開けることができない仕組みとなっている。それを知らなかったセトは、ずっと冷蔵庫の中に閉じ込められてしまっていたのだ。
セトはもそもそと、冷蔵庫から這い出る。その後の冷蔵庫の光景を見て、弓影は唖然とした。
中に入っていた食材が全て無くなっている。

「セトオオオオオ!!! お前全部食いやがったな!!!」

「申し訳ございません弓影様! このまま凍え死ぬぐらいなら、せめてお腹いっぱいの状態で死にたいなって思って……」

「お前、今日の晩飯ヌキだからな!」

「そんな! 死んでしまいます!」

「死なねーよ! 冷蔵庫の食材全部食ったんだから!」

そんな出来事があり、セトは冷蔵庫での修行は二度とやらないと決めたのであった。


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