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【 病原菌を貰いすぎる話 】


「……あれ?…るい?まだ寝てんの?」


いつも俺より先に早起きして、鬱陶しいくらい俺の寝顔を見つめたり寝ている俺を抱きしめたりしてくるるいが、その日は俺が目を覚ました時もまだ枕に突っ伏して眠っておりなかなか起きようとしなかったから、すぐにるいがおかしい事に気付いた。


「るい?珍しいな。もう9時過ぎてんのに。」


大学はまだ春休み中で、お互いバイトも無い日だったからいつものるいならピンピンしながらテンション高く俺が目覚めるのを待ってそうなのに、ほんとに珍しい。


顔を枕に突っ伏してしまっているからるいの表情を見ることはできず、そっと頬に触れて横を向かしてみようとしたら、手に触れたるいの顔はめちゃくちゃ熱い。

うわ、待てよ?
……こいつ絶対すげえ熱ある。


「るい?お前熱っぽいぞ。大丈夫か?」


起こすべきか、そのまま寝かせておくべきか…悩みながらもそう呼びかけたら、るいは「んんっ…」と苦しそうに唸りながら寝返りを打って俺の方に身体を向ける。

うっすらとるいの目は開き、俺の顔を視界に入れると、ふにゃりと力なく笑みを見せながらるいは俺の身体に手を伸ばして抱き寄せてきた。


「んん〜…、わたるくん…おはよぉ。」

「うん、おはよう。」


明らかに気怠げな声と表情で朝の挨拶を口にしながらすりっと俺の顔に額を寄せてくるから、るいの前髪がサラッと俺の頬に触れる。そしてチュッと俺の首筋に吸いつかれたと思ったら、るいの熱い舌がペロッと俺の首を舐めてきた。おいおい、そういうことする元気はあんのか?


「なぁ大丈夫か?るい多分熱あるぞ?」

「…ねつ?」


俺の首を舐めてくるるいの額にグイッと強引に手を当てながらそう伝えると、るいは俺の言葉に動きを止めてから、ごろんと仰向けになり、自分で体温を確認するかのように額の上に手を乗せる。


「…ほんとだ、…あっついわ。」

「だろ?体温計取ってくる。」


俺はそう言ってるいの身体を跨がり、ベッドから降りようとしたのだが、るいが何故か俺の手首を掴んできたからベッドから降りることができなかった。


「おいっ!掴むなよ!体温計取ってくるから!」

「やだ、ちょっとだけイチャイチャしたい。」


明らかに熱がある赤い顔をしているくせに、るいは病人らしからぬ力強さで俺を抱き寄せてギュッと強い力で俺の身体を拘束してきた。


「はぁ?イチャイチャ?今日は我慢しろよ、お前絶対熱高いって。インフルだったら俺も終了なんだけど。」


触れ合っているるいの身体はやはり物凄く熱く、これは恐らく熱を測らなくても38度くらいは余裕でありそうなのが分かる。


「おいってば、るい離して、熱測ろ?」


そう呼びかけたが応答はなく、るいの顔に目を向けると、いつの間にかるいの目は閉じていて、間もなく「スー…スー…」と寝息を立てて再び眠り始めたのだった。


…しんどそうだなぁ。るい結構バイト連勤してたから疲れが出ちゃったかな?それともバイト先でウイルス貰ってきた?いつもピンピンしているるいの弱っている姿は非常に珍しい。こんな時こそ俺がしっかり看病してやらねば。

もう俺はるいに頼ってばっかのガキじゃねえ。るいが辛い時は俺がちゃんと支えてやれる大人になるのだ。


「るいきゅんおとなしくねんねしててな。」


るいを起こさないように小声で呟きながらそっとるいの腕の中から抜け出し、ベッドから降りてるいの身体に布団をかけてやってから体温計を取りに行く。

一度はるいの身体に布団をかけたものの、またそっと布団を捲ってるいの脇に体温計を挟むと、るいの目がスッと開いた。


「…ねつある?」

「今測ってる。」

「…そういや頭痛いかも。」


気怠げにそう言った後、ケホッと咳をしたるいは、ようやく自分の病状を自覚したようで、ごろんと寝返りを打って俺に背中を向けてきた。


「わたるくん移るから向こう行ってて…。」


お、さっきより正気になったな。

『イチャイチャしたい』とか言ってきた時は多分まだ寝惚けてたっぽいな。まあ向こう行っててと言われても行く気ねえけど。だって俺るいの看病するもんね。


暫くするとるいの脇に挟んでいた体温計からピピッと音がしたから抜き取ろうとしたら、俺が手にするより先にサッとるいが自分で体温計を抜き取った。

そして自分で体温を確認した後、すぐにピッと体温計をリセットして、枕元に体温計を置いている。


「何度だった?」

「………。」

「おーい。何度?」


おい、答えろや。どうせ高熱なことは分かりきってるのに俺にそれを隠そうとしやがる。バカなのか?何故隠す?俺は『39度』とか言われても全然驚かねえぞ。


「まあいいや。氷枕とか飲み物取ってくる。」

「……わたる、俺今日はもうこっちでずっと大人しく寝とくし、構わなくていいからな。」

「はぁ?やだよ、寂しいこと言うな。お前だって俺が熱出たら看病してくれるだろ。」


るいの言葉にそう返したらるいは黙り込んだけど、でも俺が寝室を出て行く直前に小声でぼそっと「…わたるありがと、助かる」ってお礼を言ってきた。うんうん。それで良いのだ。


台所で氷枕やコップに入れた水、解熱剤を用意して寝室に戻ると、るいは寝息を立てて眠っている。るいが体温を隠すくらいだから相当高かったのだろうともう一度こっそりるいの脇に体温計を挟んだら、表示される数字がグングン上がっていった。

ピピッと止まった時には【 39℃ 6 】と表示しており、こりゃたまげたなぁ。ガチでインフルあり得るんじゃねえの?


とりあえずるいの頭の下にタオルを巻いた氷枕を置いてから、冷えピタとか消化の良い食べ物を買ってこようと財布を手に取った。


「るい、ちょっと俺出掛けてくるから起きたらそこにある薬飲んでね。」


多分聞こえてないだろうけど、一応そう言い残してから、買い物に行くために自宅を出た。


近くの薬局への道を歩きながら、俺は数年前の高校時代を思い返す。るいは俺が体調不良の時はうどんを作ってくれたなぁ…って。

溶き卵が入ったほかほかで美味しいうどん。るいみたいに美味しく作れる自信はねえけど、俺もしんどそうなるいに作ってやりたくて、スーパーでうどんの材料も購入してから、一時間弱で帰宅した。


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