やけ食い腹痛りなの怒り [ 142/168 ]

『やっぱあいつただのあざと女子じゃんね。彼氏に愚痴聞いてもらって心配してもらえて、しかもあんな彼氏居るくせに大学では他の男と親しくしてんだから。』

『ほんとほんと。女の前では猫被りの嘘吐き女なのにね。』


りなはあの女たちのりなへの悪口を聞いてしまってからというもの、ずっと“あざと女子”というものについてを考えている。自分が気付いていないだけで、りなってそうなのか?って。知らず知らずのうちに、りなって他の女の子たちにもそんなふうに思われて、嫌われながら生きてきたのかな?って。

そうだとしたら、嫌すぎる。

だから、無意識に自分のどういうところが悪かったのかを考えている。例え自分がまったく悪くなかったとしても、悪口を言われているということは少なからず自分の存在が、相手を不快な気持ちにさせているということだから。


まずりなが多少は悪かったと思う点は、お兄ちゃんに愚痴を言いまくってしまったこと。偶然とは言え、りながお兄ちゃんに話した愚痴をお兄ちゃんづてであいつらに聞かせてしまった事はかなり分が悪い。

さらにりなの側にはやのとまというイケメン男子がついている。お兄ちゃんに、やのとま。まるで男から守られているかのように見えなくもないのかも。こういう、男が味方についてるって感じが、“あざと女子“って言われてしまう原因なのかなって考えた。


ほんとはまた悪口を言われたことをお兄ちゃんにすっごい話したい。でももうやめよう。お兄ちゃんに愚痴聞いてもらうのはやめる。

りながお兄ちゃんに愚痴聞かせちゃったら当然お兄ちゃんはりなの心配してくれるけど、大学生にもなっていつまでも心配かけるわけにはいかないしね。

だからりなは、愚痴を言わない代わりに自棄食いをしてストレス発散することにした。

昼休みになるとやのとまを連れて近くのファーストフード店へ行き、ポテトにナゲット、アップルパイにバーガー二つをバクバクと口にする。

やのとまは普通にポテトとバーガーのセットを食べながら「大丈夫かよ、食い過ぎじゃね?」ってちょっと引いた目で見てくるけど構わなかった。りなは心の中でずっと『これのどこがあざと女子なの?』って考えながら、ひたすらもぐもぐとバーガーに食らいついていた。


その結果、昼休みが終わる数分前に大学に戻り、教室に向かっていた頃には盛大な腹痛がりなを襲ってくる。


「うぐ…、く…、苦しい…。」

「ほらもー!!俺止めたのにあんなに食べるから!!」

「だって…、あいつらムカつくんだもん…っ」


やのとまに呆れられながらもりなはお腹を押さえて教室に入ると、出入り口のすぐ側の席に座っているアヤちゃんとサユちゃんの姿が視界に映る。…やっぱ、仲間割れしてるっぽいな。いい気味だ。


どこに座ろうかな、って苦しいお腹を押さえながら教室の中に入ってすぐ、「りなどうしたの?大丈夫?」って控えめにアヤちゃんが声を掛けてくれた。りなはそのアヤちゃんの心配の言葉にちょっと嬉しくなってしまい、「大丈夫、ちょっと食べすぎただけ」って返事をしながらよろよろとアヤちゃんとサユちゃんの後ろの空席に腰掛けることにした。

すると後ろを振り向いてサユちゃんが「胃薬あるよ?飲む?」って聞いてくれる。…や、優しい…。


「ありがとう、貰っていい?」

「うん!いいよ!」


単純でチョロすぎるりなは二人の優しさにまんまと引っ掛かってしまい、早くも普通に友達のように振舞ってしまっている。まあべつにいいか。今はそんなことよりも腹が痛い。

ありがたくサユちゃんから薬を貰い、「ふぅ」と息を吐いていたら、横からやのとまが「だから食い過ぎだって言ったのにー」ってずっと言ってくる。うるさいな。分かってんだよ、食べ過ぎってことくらい。

だから「うるさいな、やけ食いしたい気分だったんだよ!」ってやのとまに言い返していたら、目の前のアヤちゃんとサユちゃんはちょっと苦笑いしている。


そんな時だった。背後からカッ、カッ、とヒールの靴のような足音が聞こえてきたと思ったら、「アヤ!サユ!なんでそんなとこ座ってんの?こっち来なよ。」ってあの女の偉そうな声が聞こえてくる。


『なんでそんなとこ座ってんの』って?そんなのべつにこの二人の自由だろ。あんたなんでそんなに偉そうなわけ?てかアヤちゃんとサユちゃんの顔どう見ても嫌そう。二人で顔見合わせて顔引き攣らせて黙り込んでるし。


りなはその声を聞いただけでイラッとしてしまい、チラッと振り向き、奴を睨み付けた。

するとそんなりなの視線に気付いた奴の眉間にはグッと深い皺が寄る。しかし周りに講義が始まるのを待つ学生が座ってるこの場でりなと言い合いなんかする気は無いのか、今はりなに何も言ってこない。

言いたい時だけ人の悪口言って、都合が良い女だな。『なに睨みつけてんだよあざと女!』って言いたいならはっきりこの場で言ってきたらどうなんだ?

りなはもうイライラがマックスまできてしまったようで、鞄の中からノートを出し、ノートに八つ当たりするかのように派手に『ベシン!』と音が出るくらい机の上にノートを叩きつけながら口を開いた。


「なんでそんなとこ座ってんのって?気に入らないならあんたが前に来て入れてもらえば?」


突然りなが喧嘩を売るようにそう言ったから、奴は「…は?あたしはアヤとサユに言ってんだけど…」って言いながらちょっと狼狽えている。なに今更ビビってんの?あんた今まで散々りなに喧嘩売ってたくせに。


「うん、だから二人と一緒に座りたかったらあんたが前来て入れてもらえば?っつってんだよ。」


りなはもう一度同じようなことを口にすると、何か言い返したそうに顰め面で睨みつけてくるものの何も言葉は返ってこない。都合悪くなったらだんまりか?


「あー腹が痛い、まじムカつく。誰のせいでこんなやけ食いしたと思ってんだよ。クソ女が。」


だんまりの女にはもう話すことなんてなく、チッと舌打ちしながら前を向き、苦しいお腹を撫でながら悪態吐くと、横からやのとまがコソッと「やだりなさん口悪いですよ」と口を挟んでくる。


「知ってるよ!元からだよ!!もう!!」


お腹が痛過ぎて身体をくの字に曲げながらお腹を押さえたら、今度はやのとまに「大丈夫かよ、トイレ連れてってやろうか!?」って言われたから、さすがにちょっと恥ずかしくなってしまい、「いや胃痛だから!!!」ってキレ口調で返してしまった。


そこでしばらくだんまり状態だった女が、ふっと笑いながら「冬真くんの事はキープだったんだね」って、突然ボソッとよくわからないことを言ってきた。


「…はい?」

「りなちゃんの周りにはイケメンばっかいて羨ましいなぁ。冬真くんとも仲良くして。あんな美形の彼氏がいることもあたしらに内緒にしてて、さぞ気分が良かったでしょ?」


いきなりの『りなちゃん』呼びに、皮肉混じりのちょっと控えめな話し方。こいつりなに言い返されると分かったからか、若干態度変えてきたな?

それにしても、この女の話してる内容は滑稽すぎる。『周りにイケメンばっかいて羨ましい』?『ばっか』ってなに??りととお兄ちゃんと航くんのこと含んでる?それなら全員りなの身内なんですけど。


さすがにこれには笑えてしまい、りなは「ハッ」と鼻で笑った。


「美形の彼氏?そんなの居ないんですけど。誰のこと言ってんの?なんか勘違いしてない?……あ、もしかしてお兄ちゃんのこと言ってる?そういや昨日お兄ちゃんの隣のテーブル座ってたよね。また勝手に下のお兄ちゃんの時みたいに上のお兄ちゃんにも会われたのかと思って一瞬ヒヤッとしちゃったよ。」


りなは女の勘違いに気付いていながら、つらつらと生意気で嫌味ったらしい態度でそう言ったら、「お兄ちゃん…?」ってちょっと動揺しているのか、小声でポソッと聞き返してきた。


「そうそ、お兄ちゃんお兄ちゃん。かっこいいでしょーびっくりしたー?まあそんなこと言ってたらブラコンとか言われるから黙ってたんだけどねーあはは!あ〜腹いって〜〜!!!!!」


さすがにもう腹が痛くて相手にしていられず、言いたいことだけ言って机に顔面を押し付けて俯いた。だからそのあと奴がどんな態度でどんな表情だったかはしらないけど、無言でカツカツと立ち去る足音だけが聞こえてくる。


立ち去ったと分かったあとにそろりと顔を上げたら、目の前には唖然とした表情のアヤちゃんとサユちゃんがりなを見下ろしてくる。


「りな凄い…、清々しい性格してるんだね…。」

「うん…、はっきり物言えるの羨ましい…。」

「えぇ!!全然だよ!!今のはお腹痛かったからイラついて言えただけ!!」


アヤちゃんとサユちゃんにりなのことをどういう性格に見られたかは分からないけど、お腹痛かったことを理由にするりなはやのとまから「お腹痛いのに言いたいこと言えてすげえな…」って言われながら若干引いたような目で見られていた気がする。…けどまあ、言いたいこと言えてちょっとすっきりしたから良しとしよう。


この日以降、もうあの女がりなに関わることはなくなった。まあもしかしたらまだ裏でなにか言われてるかもしれないけど、どうでもいいか。


気にしない、気にしない。


またやけ食いして強烈な腹痛にはなりたくないから、もう絶対りなに関わってこないでね、って祈るばかり。


授業中の腹痛って、まじ泣きそうになるからね。

もうやけ食いしなくてもいいように、平穏な大学生活を送りたいものである。


やけ食い腹痛りなの怒り おわり

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