1* 航 [ 116/168 ]

ここ最近るいの帰りがちょっと遅い。正確に言えば時間帯が遅いのではなく、大学から帰ってくる時間が遅くてバイトが休みの平日でも20時とか21時を過ぎてから帰宅する。

まぁ今グループワークしてるらしいからその準備で忙しいんだろうけど、女の子も何人か一緒のグループだって言ってたから俺は嫌で嫌でしょうがない。るいが女の子と喋ってるって考えるだけで嫌すぎる。女の子があいつと普通に喋ってて好きにならないわけがないだろ。グループ発表の準備なんだからそこまで無愛想な態度は取れないはず。きっとコロッと女の子のハートを奪っているに違いない。……あぁ嫌だ!!!るいよ、頼むからもうモテないでくれ。

………と、一人で願いながら自宅で晩御飯を食べる平日の夜。その日のるいは20時過ぎに帰ってきた。晩飯はグループワークのメンバーと一緒に話し合いついでにファミレスで食べて来たらしい。モヤモヤモヤモヤ……。

るいが女の子と何かあるわけがないと分かってはいるけどモヤモヤする。これは多分、一生俺に付き纏うモヤモヤだ。るいの事を心の底から信用してるから“何かあるわけがないと分かってはいるけど”、心配にはなる。モヤモヤしないわけがない。

だから俺は、心配な分だけ自分がるいにより一層愛情表現をすることにした。



俺はすでに入浴済みなので、るいが風呂から出てくるのを寝室のベッドの上でテレビを見ているおっさんのようにゴロンと寝そべりながらコンドーム咥えて待っていた。

するとガチャと寝室の扉を開けたるいが、入り口でキョトンとした顔で突っ立って俺の口を見つめてくる。


「ぶはっ!!!何やってんの?」

「見へははんへえの?誘っへふんはほ。」

「ふふっ…なんて?写真撮っていい?」

「はへへ。」


もっと喜ぶと思いきや、るいは俺に歩み寄りながらクスクスと笑ってくる。もしや俺から誘ってることに気付いてねえの?俺から誘ってるんだからもっと喜べよ。嬉しそうにしろ。…と理想の態度が返ってこなくてムッとした瞬間、るいは俺の身体をハグし、口からピッとコンドームを取ってむちゅっと熱いキスをしてきた。

歯磨き直後のるいの口からは歯磨き粉の匂いがする。歯磨き粉味の熱いキスをしながら、同時にるいは俺のシャツを捲り上げ、手早く脱がしてきた。


「航くん分かりやすくて可愛い。」

「なにが?」

「俺がグループワークして帰ってくる日に絶対誘ってくれるね。」

「るいが女の子と絡んでるの想像するだけでやだからその日はそういう気分になるんだよ。」

「じゃあ俺毎日女の子に絡んでから家帰ろうかな。」


るいがふざけたことを言うのでやや力を込めてるいの唇をガリッと噛んでやった。


「いててて、ごめんごめん冗談だよ。」


るいは俺の顔面を胸元に押し付け、髪を撫でながら謝ってくる。るいの身体からはボディーソープの良い匂いがして、るいの腕の中が居心地良くてスンと息を吸った。

もう俺はるいとのセックスを数え切れないくらい経験し、一時は倦怠期かって思うくらい俺はヤるのが面倒になってしまったりしてた時があったけど、勝手ながら自分が不安な気持ちになってしまっている時はるいに抱かれたくて抱かれたくてしょうがなくなる。


部屋の明かりを豆電球のみにし、暗くなった室内で互いにベッドの上で全裸になり、俺はゴムをつけ終えたるいの身体を押し倒して自らるいの上に跨った。

るいはちょっと目を丸くしながら俺の腰に両手を添え、クスッと笑って「あれ?今日俺の誕生日だったかな?」ってボケたことを言っている。


「俺がなんもない日に積極的だったらダメなのか?」

「ううん、最高。……ゴム外しても良いんだよ?」


コソッと甘く囁くようにそんな返しをしてきたるいを無視して、自ら自分の中にるいのモノを入れ、上下に動き始めると、るいは枕にぐったりと頭を乗せながら目を瞑り、「あぁっ…」と気持ち良さそうな声を漏らした。

すっげーリラックスしてる。寝ちゃわないかな?ってちょっと心配になってしまったけど、すぐに目を開けて俺を見上げてきた。


「ねえ電気もう一段階明るくてしちゃダメ?航くんの顔見たい。」

「ダメ。」


豆電球の明かりだけでも顔は見えるだろ。って意味を込めて上体を倒し、自分からるいの唇にキスしに行ったら、るいはまた目を閉じて俺の背中に両腕を回し、ギュッと抱き締めながら下半身を揺さぶってきた。


「ン…、ンンッ…、ぁっ!」


自分の意図せぬタイミングで中を刺激され始め、声が漏れる。ゆさゆさと揺れるるいの下半身に合わせて俺の身体も揺れ、気持ち良くなってきて、キスする余裕が無くなってきてしまった。


「ンっ…ンっ…、ンン…っ、ぁっ」

「はぁ…っ、きもちぃ…。」


俺の耳元でるいも気持ち良さそうな声を漏らしてくるから、るいの息が当たってゾクっとする。俺がもうちょっと体力あったら、自分からもっと動くのに。

自分からるいの上に乗っかったくせに、るいからの刺激を受けるとすぐに動けなくなり、るいの胸元でへたばるようにハァハァと息を吐いた。

そんな俺をるいは「よっこらしょ」と抱えながら起き上がり、チュッ、チュ、とキスしながらベッドの上に俺を寝かせる。俺が積極的なのは最初の五分程度で情けない。いつもこうだ。


枕の上にぐったり頭を預けてるいにされるのを待っていたら、チュッと鎖骨付近に吸い付かれ、ピリッとした痛みが走る。…あ、跡付けられたな…と思っていると、目の前のるいは満足そうににっこりと笑っている。まあいいか。多分見えないとこだろうから。

…と気にせずスルーしていたら、今度は俺の両太腿の裏に手を添えてグイッと俺の下半身を上に持ち上げてきた。続けてるいは俺の太腿の裏にまでチュッチュと吸い始め、変なところにキスマークをつけられている。

「何やってんだよ」と突っ込みながらべしっと頭を叩いて早くしろよというように行為を促すと、るいはへらっと笑いながら俺の太腿から口を離す。


再び行為は再開し、るいは俺の胴体をガッチリと両手で掴みながらグイッと奥まで全部挿れて、ゆさゆさと大きく動いて中を突いて刺激してきた。


「あぁ…っ!ぁっ…!」


ゆっくりと腰を振るるいの動きに合わせて俺の声は漏れ、快感に耐えるように俺はぎゅっとシーツを握り締める。

次第にゆっくりだった動作は激しくなっていき、パンパンパンパンと腰を打ち付けられ、気持ち良すぎて俺の息が荒くなってゆく。


「あぁ…っ!あッ…、ン、っ…、ぁっ」

「ン…、はぁっ、はぁ…っ、きもちぃ…。」


互いに気持ち良くなると同時にフィニッシュは迫り、るいの腰使いがさらに速く、激しくなり、るいがイッたと分かった頃、俺はビクビクと身体を震わせながら呼吸するので必死になっている。


まだ日付けも変わっていない午後11時過ぎだった。

「はぁ…、はぁ…」と互いに息を吐きながらベッドの上でキスをする。終わった直後だけど熱く激しく絡み合うキスだ。つまりこれはまだ行為が終わってないってこと。

るいは一回イッたけど、ゴムを外して休憩するようにゴロンと俺の横に寝転がり、息を切らしながら「ちょっとだけ待ってね」って言ってきた。俺の意見も聞かずに二回目する気満々だ。


俺はそんなるいの声を聞き、『こいつ俺の事よく分かってんなぁ…』と思いながら、豆電球をジッと見つめて呼吸を落ち着かせる。

俺は行為が終わってからまだうんともすんとも言ってねえのに、まだぜんぜん俺に余裕があることをるいは分かりきってるんだろう。

俺がまだ今日はもう少しるいと繋がってたい気分だって事を、まったく何も口に出して言ってねえけどこいつは俺の気持ちをもうバッチリ分かってくれていそうだ。


るいとの付き合いも早四年。日を重ねるごとにるいと俺はもう、言葉が無くても空気感で互いの考えていることが分かるようになってきた気がする。

勿論、“言葉”で伝える事も大事だけど。

大好きな人と心で繋がってる感じがたまんないなぁ…と感じる、大学三年の初夏の夜であった。


実は俺たち、付き合った日の記念日とかは二人ともまったく覚えてねえけど、毎年この季節になると俺は『だいたいこのあたり』って、心の中でるいと付き合った時の事を密かに思い返している。


変わりゆく彼らの様子 航編おわり



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