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「ねえねえ浅見くん、スポクラの香月くんが片桐くんのこと好きってほんと?」


体育の授業の整列中、俺の隣に並んだ浮田が突然こそっとそんなことを問いかけてきた。


「…えっ、さあ…。知らねえけど…。」

「普通科の友達に聞かれたんだよね。特進の転校生って永遠とかいう名前ー?とかも。」

「はっ?普通科の人から?スポクラじゃなくて?」

「うん、普通科だよ。その友達はスポクラの人から聞いたっぽいけど。なんか香月くん本人も認めてるらしいとか言ってたけどどうなんだろ。」

「……えぇ、まじか。」


そこまで浮田から聞いたところで体育教師に号令がかけられ、授業が始まってしまった。

一方的に敵視はしていたけど、まさかガチのライバルだなんて。できれば信じたく無い話だが、最近になって永遠くんに急接近している香月の言動を見ていれば納得もできる話だ。


中間は保健体育の筆記テストが無いため実技のテストを受けさせられるが、今日はその実技テストの日だった。

サッカーのリフティングの回数を成績に加えられるようで、授業の前半はリフティングの練習時間として与えられ、皆各自サッカーボールを持って練習し始める。


「リフティング成績に入るんやったら侑里に教えてもらえば良かった〜」


サッカーボールを胸に抱き、嫌そうにぼやきながら永遠くんが俺の方へ歩み寄ってきた。

香月が永遠くんを好き、なんて話を聞いたところだから、永遠くんの口から香月の名前が出てくると思わずムッとしてしまいそうになるが、永遠くんの前で不機嫌な態度を出すわけにはいかずなんとか平常心を保つ。


「みんな似たり寄ったりな回数だろうからそんな必死にならなくて大丈夫だと思うけど。」

「そうなん?でも1回とかやったら成績1つけられたりしぃひん?」

「んー、そこまではないと思うけど。特進は実技より期末の筆記試験の方重要視されるんじゃねえかな。」

「ふぅん、そうなんや。ほなまあぼちぼち頑張ろか。」


そう言って、トン、トン、トン、と足の甲と太腿を使ってリフティングの練習を始める永遠くん。ボールがつま先に当たってしまい、「あっ!」と声を上げ、変な方向へ飛んでいってしまったボールを慌てて追いかけている。


「なかなか10回いけへんねんけど。」

「片桐くん、僕なんて最高3回だよ。」

「そんなもんやんな。まじで本番1回あるわこれ。ああもうっ、腹立つなぁ。」


永遠くんの近くで練習していた浮田が永遠くんのぼやきに反応し、ぶつぶつ言いながら練習している永遠くんにクスクス笑っていた。

俺は小学生の頃によく弟とリフティングの回数を競って遊んだりしていたから、10回は余裕だろうと練習してみると30回を超えるか超えないかくらいだった。


「うわ!光星上手いやん!」

「…まぁ、…ぼちぼち。」


あれ、これぼちぼちの使い方合ってるっけ。なんか永遠くんにつられてぼちぼちとか言ってしまったけど自分の中で違和感抱いて、一人勝手に恥ずかしくなる。

無意識に好きな人の真似してしまってるような気がしてしまい、一度そう思い始めたらめちゃくちゃ恥ずかしい。俺が関西弁喋り出したらさすがにキモすぎる。


恥ずかしさを紛らわすためにリフティングの練習を続けていたら、ボールを持ってやる気なさそうにしていた浮田が話しかけてきた。


「片桐くんだんだん遠慮無くなってきた?前までよそよそしい態度だったけど普通に話してくれるようになった気がする。」


そう言いながら浮田はトン、トン、とリフティングするが、2回で諦めてすぐにボールを手に持った。

浮田が言う『遠慮無くなってきた』っていうのは、香月と仲良くなって普通に会話ができる存在ができたからじゃねえかなぁ…とか、俺はすでに香月の存在を気にしまくってしまうのだった。



授業の後半になると、名簿順に行われる実技テストを俺と浮田はさっさと終え、グラウンドの端に座って休憩しながら自分の番が回ってくるギリギリまで練習している永遠くんの姿を眺めていた。


「片桐くん動きちょっと面白いね。僕が言うのもなんだけど。」

「必死な感じがかわいいな。」

「香月くんはどこに惚れたんだろ、やっぱ顔?」

「それもう確定なのか?」

「うーん、どうだろうね。僕の友達も人伝で聞いただけだから信憑性はあんまりないかも。」


浮田と先程の話の続きをしていたところで、永遠くんのテストの番が回ってきた。

体育教師の近くまで行き、トン、トン、トン、とまずは3回、足の甲を使ってボールを上に上げている。しかし4回目で変な方向へ行き、「あぁっ!」と声を上げながら太腿でキャッチし、そのままトン、トン、と続けて3回、テンポ早く太腿でボールを上に上げる。


「ぅおっ!…だあっ!…ぁがあぁぁ〜っ!!」


落ちてきたボールを足を伸ばしてでかい声を上げながら足の甲でキャッチし、最後は爪先が変な方向へボールを飛ばし、永遠くんはボールを追いかけていった。


「ふふっ、はい、片桐9回。」


激しいリアクションをしながらの実技試験を終えた永遠くんは体育教師に軽く笑われており、永遠くんは10回いけなかったことが悔しかったようで、むぅっとした顔をしながら俺の元へ歩み寄ってくる。


「あーあ、10回いけへんかった。」

「片桐くん、僕2回だったよ…。」

「2回?どんまいやな〜。」

「うん、…ど、どんまいどんまいっ。」


浮田は永遠くんのテスト中の言動が面白かったようで、口に手を押さえながら軽く肩を震わせて笑っていた。

笑われていると気付いていない永遠くんは普通に浮田と会話するが、途中で「ん?」と首を傾げ、浮田が笑っていることに気付く。


「なに笑ってるん?」

「ぶっふふふ…っ、片桐くんの動き、おもしろすぎ…っ」

「えっ俺のこと笑ってんの!?」


永遠くんに笑っていることがバレた浮田は開き直るように「あはははっ!」と声に出して笑うが、永遠くんは浮田に笑われているのがまさか自分だったとは思わなかったようで、ポカンとした顔をして浮田のことを眺めていた。


以前人見知りだとか浮田は言っていたが、お前ほんとに人見知りか?と思うくらい今では普通に永遠くんと会話しており、永遠くんも普通に浮田と話している。

体育の授業が終わるまで三人で他愛無い会話をしながら過ごし、もうすっかり永遠くんクラスに馴染んできたなぁと微笑ましい気持ちになる。


永遠くんが転校してきてもうすぐ2ヶ月が経とうとしているが、永遠くんが転校してきたばかりの頃は永遠くんのことを俺が独り占めしたいとか思っていたけど、今はもう全然、クラスメイトと永遠くんが仲良くしていたとしてもなんとも思わなくなった。


それはきっと、今俺が嫉妬している相手の存在がだんだん大きくなってきているから。

香月の存在感がありすぎて、クラスメイトにまで嫉妬している余裕なんかないからだった。


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