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休み時間になると永遠くんはプリント片手に席から立ち上がった。それを持ってどこかに行こうとする永遠くん。


「永遠くんどこ行くんだ?」

「ん?侑里んとこ。テストに出そうなとこまとめたから教えてあげてくるわ!」

「ふぅん、…行ってらっしゃい。」


へぇ〜…ふ〜ん…
それ絶対さっきの授業中やってただろ。

香月のためにわざわざ授業中そんなことやってあげるんだ?って、面白くない気持ちで教室を出て行く永遠くんを見送る。


この恋なんとかしたいと思っていた直後だから、香月の存在が余計にモヤモヤしてくるなぁ…と、あまり考えないようにしたくて勉強しようと問題を解いていたら、今はもう席が離れて最近は話すことが減っていた浮田が何故か突然「浅見くん勉強してていいの?」と声をかけてきた。


「え?なんで?」

「片桐くん、スポクラの人と仲良くなっちゃってるじゃん。さっき廊下で喋ってるとこ見たけど。」

「あぁ、香月だろ?知ってるけど。」


…え、それがなに?って俺の顔を見つめてくる浮田を見返していたら、互いに黙り込み不自然に間が空いた。


「…え、なんだよ。」

「あ、ごめんね。別に焦ることないか。浅見くんの方が仲良いもんね。」

「焦るって…俺が?…なんで?」

「え?だって浅見くん、片桐くんのこと好きだよね?」

「……えっ!」


いやいや待て待て、え、なんで浮田が知ってんの?もしかして佐久間に噂流されてる?って、浮田の発言に俺はすぐ佐久間を疑ったが、無言で固まる俺を見ながら浮田はクスクスと笑って「当たり?」と聞いてきた。


「なんでそう思った?」

「ただの勘だけど。」

「勘かよっ!!」

「あれ?顔赤いよ?やっぱ当たりでしょ?」


いや、まあ、当たりだけれども…。

もう浮田だし良いかと諦めて「シーッ」と口の前に人差し指を立てると、浮田は笑いながらうんうんと頷いてくれた。


「片桐くん転校してきた時から浅見くんちょっと変だったもんね。」

「変!?…えっ、どこらへんが!?」

「浅見くんすっごい転校生のこと気にしてるよなって実はまわりから結構言われてたんだよ。ずっと見てるし。自分から話しかけてるのも珍しいし、前は言わなかったけど片桐くんから話しかけられて顔にやけてたよね。」

「ちょっ、うわぁああっ!!!もういい、分かった。何も言わなくていい。」


自分の予想を超えてくる永遠くんの転校直後の気持ち悪い自分の行動の話を人から聞いてしまい、声を上げながら頭を抱えてしまった。


「あははっ、ごめんごめん。もう黙っとくから早くその赤い顔なんとかした方がいいかも。」

「死ぬほど恥ずい…」

「どこ好きになったの?顔?」

「うん。顔。」

「やっぱ一目惚れだったか。初日とかすっごいチラ見してたもんね。あとプリント回収の時とかはガン見してたし。」

「おまっ…!もう言うなって!!」

「あははっ、ごめんごめん。」


絶対わざとだ…。
絶対俺の反応を見て楽しんでいる。

『その赤い顔なんとかした方がいい』とか言ってきといて浮田自身がさらに煽るように話を続けてきたから、俺の顔の熱は引くどころか上がりっぱなしだ。


恥ずかしさから頭を抱えて顔を隠すように机に顔を伏せていると、香月との用事はもう済んだようで、教室に戻ってきた永遠くんの「光星?」と不思議そうに俺の名前を呼ぶ声が背後から聞こえてきてしまった。


「浮田くん、光星どうしたん?」

「ん〜…ふふふ、内緒だよね〜。」


ずっと顔を伏せていても不自然なためそろりと顔を上げると、浮田はにこにこと笑いながら俺と目を合わせ、余計な一言を言い残して自分の席に帰って行った。


「内緒ってなに?浮田くんとなんの話してたん?」


ほら、浮田が意味深なこと言って去るから永遠くんが気にして聞いてきただろ。何か適当に返事できる内容がないかと思ったけど、特に返せる事が思いつかず、俺まで「内緒」って言ってしまった。


すると、ムッと可愛く唇を尖らせる永遠くん。
チューしやすそうな唇やめろ、したくなるだろ。


「あかん。言うて。」

「あっ、あかんくない…。」

「あかん。」

「ちょっ、顔近いって!」


俺の机と椅子の背凭れに手を置いて、ズイッと俺に迫ってきた永遠くんに、俺は慌てて顔を引いた。


「なんなん?気になるやん。教えてや。」

「永遠くんがかわいいって話!」

「嘘はあかん。」

「まじまじまじ!!」


これ何て答えりゃ良いんだよ!って軽く浮田を怒りたくなりながらチラッと浮田の方に目を向けると、浮田はにこにこと穏やかな表情でこっちを見ている。

しかし見ているのは浮田だけでなく、その周りのクラスメイトたちからもにこやかな表情を向けられていた。


俺はこの時、分かってしまった。

…さてはこのクラスメイトたち、俺の気持ちに気付いてるな?いつから気付かれてるんだ?まさか最初から?

永遠くんが来たばかりの頃の自分の恥ずかしい行動を思い出したら、また恥ずかしくなって頭を抱えたくなる。


「あぁもう…恥ず…。」

「なにが恥ずいん!?」

「……俺の黒歴史。」


なんとかそんな言葉でごまかしたところで次の授業の先生が教室に入ってきたから、永遠くんは渋々自分の席に戻って行き、俺はホッと息を吐き出した。


「光星、俺に隠し事はあかんで!」

「ん?浅見隠し事してるのか?ダメだぞー。

さっ、では授業始めます。先週配ったプリント持ってきてるかー?」


授業が始まる直前に永遠くんは俺の方へ振り向き、わりと大きめの声でそう言ってきたから、先生まで話に乗ってきてしまった。

クスクスと笑い声が聞こえてくる中、先生は何事もなさそうに授業を始める。


これは何かの罰ゲームか?

隠し事はあかんって言われてもな…。

じゃあ俺もう告白するしかねえじゃん。


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