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『片桐 永遠(かたぎり とわ)です。京都から来ました。よろしくお願いします。』
高校2年に上がったタイミングで、俺、浅見 光星(あさみ こうせい)が通う中高一貫男子校の俺のクラスに転校生がやって来た。
サラリとした艶のある綺麗な黒髪に、少し邪魔そうな目元まで伸びた前髪が二重瞼の丸い目にかかっている。スッと通った鼻筋に、小さくてぷくっとした唇。一言で言えば、たぬき顔。
そんな転校生を、無意識に瞬きもせずジッとまっすぐ見続けていた。
中等部からずっとこの学校にお世話になっている俺が、生まれて初めて同性の同級生相手に一目惚れらしきものをした瞬間である。
多分、俺好みの顔だったんだろうな。
あの顔で、あの唇になら、同じ男でもキスできそうだ。…なんて考えている時点で俺やばい。いや、寧ろできることならしてみたい。…って、俺の片桐永遠を見る目は、明らかに周りの同級生を見る目とは異なるものだった。
『じゃあ片桐の席は…、あそこな。』
担任の指差した方向を目で追ったら、名簿順の席だから俺と同じ列の一番後ろだった。…残念すぎる…あ行があと一人居ればワンチャン隣の席だったのに…。
*
「光星のクラス転校生来たらしいな。」
「来た。」
「特進クラスに転校してくるってかなり賢くね?」
「…あぁ、…確かに。」
休み時間になると、隣のスポーツクラス、略してスポクラの友人佐久間(さくま)が俺のクラスにやって来てキョロキョロと辺りを見渡した。多分、転校生を一目見ようとしているのだろう。ちなみにここは文系の特進クラスで、普通科より勉強の進みがめちゃくちゃ早く、授業では当たり前のように普通科ではあまり深く習わないような応用問題なども説明してくる。
顔にばっか気を取られていたが、言われてみればエスカレーター式で入学した俺のような生徒より、転入試験を受けて特進クラスへ入ってくる方がかなり難易度が高いはずだ。きっと俺より賢いんだろうなぁ…って、俺の中で片桐永遠は徐々に神格化されていく。
「あっ転校生あいつだな?なんか愛想無さそうな奴だな。」
「はっ!?おい、いきなり悪口言うなよ!」
「え?だって話しかけられてんのににこりともせず相槌打ってるだけだぜ?」
佐久間がそう言うから、その様子を少し見てみようと後方の片桐永遠の方へチラッと視線を向けてみると、無表情だがクラスメイトに話しかけられコクリコクリと緩く頷いている姿を目にしてしまった。
え…、なんか…、かわいいな…。
にこりともせずっつーか、話しかけられて戸惑っているだけのような表情に見える。てか緊張してるだけだろ。
「は?おい光星どうした。」
なんだか片桐永遠を見ていたらだんだん動悸がしてきて、口を押さえながらバッと前を向いたら佐久間に変な目で見られた。
「……いや、なんでもない。」
中等部の頃から同じ男の同級生になんて一ミクロンも興味を持ったことが無かった俺は、恋愛は大学に進学してから期待しようと思っていたのに、まさか突如現れた転校生にときめくことになるなんて。
初っ端から友人にそんな気持ちを打ち明けるのは恥ずかしく、グッと胸の中に押さえ込んだ。我慢できなくなったら佐久間にくらいは言ってみよう。
でもどうする?とりあえず一度、片桐永遠に話しかけてみるか?…クラスメイトだし、なんか適当に話題探して、自然に…、
…いやでも待てよ?普段自分から同級生に話しかけに行かない俺がいきなり行くのは不自然か?
…とか、いろいろあれこれ考えていたら、結局一回も片桐永遠とは話せないままあっという間に下校時間がやってきてしまったのだった。
…ああさようなら片桐永遠くん、また明日。
明日は一回くらい、話せるといいな。
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