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「ん…っ、ああッ、…!」
柚瑠の善がる声、表情をこれでもかというほど聞いて、見つめて、キスをするために上半身を屈めると、俺の首に自分から両腕を回して、抱きついてきてくれる柚瑠に、俺の胸の中には一気に幸福感と安心感が広がった。
大好きな柚瑠。誰よりも自分が柚瑠の良いところを知ってるつもりだから、誰かが柚瑠のことを好きになる気持ちもよく分かる。
それでも柚瑠は俺のだから、悪いけどさっさと失恋してほしい。『柚瑠は俺の』って言えたらいいのに。なんでこんなに隠さなきゃいけないんだろう、って、たまにもどかしい気持ちになる。
「柚瑠、大好き。俺だけを見て。」
口からぽろっと出てくる独占欲が強すぎるような俺の言葉にも、柚瑠はクスッと優しい顔で笑いながら頷いてくれた。
「見てる見てる。えっちの時の真桜、泣きそうな顔してて可愛いな。」
「え、…そんな顔してねえし。」
「え?してるけど。気持ち良いから?」
「…んん、そうかも。」
すぐに終わってしまうのは嫌で、途切れ途切れに快感を得るために腰を動かす。
「あぁっ」
柚瑠の中に擦り付けるように、少し小刻みに動かしてみると、気持ち良くて身体が震えて声が出た。
ふっ、と小さく笑われて、柚瑠の手が俺の髪に伸びてきて、撫でられる。
「可愛いな。真桜、俺も好きだよ。」
あーもう、だめだ。無理無理。大好き。
まだまだしていたかったのに、柚瑠からのその言葉は俺にとっての興奮材料で、俺はいつもその言葉を聞いただけで、すぐに果ててしまうのだった。
*
真桜が、姫ちゃんのことを気にしまくっている。
真桜の言葉の端々でそう感じることが多かった。
姫ちゃんがやたらと可愛い子だから?
ライン聞かれてるとこ見られたから?
でもそう言えば、真桜はもう少し前から姫ちゃんのことを気にしていた気がする。
『姫井…、だから、姫ちゃん?』
『え?ヒメイ?』
『…ううん、…やっぱいい。』
…あれ?でも真桜は、いつから姫ちゃんのことを気にしてるんだ?
俺はそんなに真桜に気にされるほど真桜の前で姫ちゃんと会話したことがあったか?と、ふと少し前のことを思い返したら、違和感を覚えた。
最近まで姫ちゃんの名前も知らなかったのに、最近になって俺の学校生活にチラつく“姫ちゃん”という存在。断じて俺から近付いたわけではない。
男バスの2年と話してるところはあまり見たことないけど、よく俺に挨拶しに来てくれる。
そもそも姫ちゃんの存在がチラつき始めたのはいつだった?
…そうだ、俺のクラスの教室に、トモに挨拶しに来てからだ。真桜目当て?なんてあの時は言っていたが、結局姫ちゃんは、“何目当て”だったんだ?
考えれば考えるほど、俺の中で『あれ?』って思うことが多い。
最近になってよく感じる、バスケ部での居心地の悪さも、考えてみたらなんだか変だ。
『先輩姫井のことどう思います?』
後輩から姫ちゃんの話を振られたり、姫ちゃんと喋っていると男バス部員にニヤニヤした目を向けられることがよくあった。
感じ悪い、と思っていた男バス部員の態度の理由が、俺が考える“もしかして”だったら、物凄く納得できる。
もし、みんなが“そのこと”を知っていて、俺だけ知らない事だったら。当然、タカもそれを知っていて、真桜がそれをタカに聞いていたのだとしたら。
いくら俺があり得ないだろ、って思っても、そんなふうに考えてみたら、辻褄が合ってしまう。
しかしそうは言っても、これは全部俺の憶測。
考えすぎの可能性だってある。
それだったらそれでいい。
「なあタカ、ちょっと聞いていいか?」
「ん?なに?」
朝練後、教室に向かいながらもぐもぐとおにぎりをかじっているタカに、俺も同じくおにぎりをかじりながら話しかけた。
俺の予想が合っていたら、タカも多分知っている。
「姫ちゃんって男バスに好きなやついる?」
「………………。」
些細なことを問いかけるように、サラッと聞いてみた俺の問いかけに、タカはもぐもぐと口を動かしながら黙り込んだ。
『なんで?』とか、『姫井さん?』とか、聞き返してこないあたりが、もうタカらしい無言の肯定を意味している気がする。
それからも暫く沈黙は続いたが、数十秒後にタカはようやく反応を見せた。
「……………え、なんで?」
いや、遅いって。
今の沈黙はさすがにちょっと不自然すぎる。
「あの子よく男バスのほう見てくる気がするんだけど。…んー、あー…気のせいだったか。」
「……さあ。…男バスの1年の中にいんじゃね?
………知らんけど。」
タカはあからさまに俺から顔を逸らしながら、ぼそぼそと低い声で返事をした。
「やっぱり?俺もそう思う。」
適当なことを言うタカに、俺も適当に相槌を打ってこの会話は終わらせる。タカがそう言うのなら、そういうことにしておこう。
もしかして俺は、わざわざ気付かなくていいことに、気付いてしまった気がしたから。
柚瑠だけ蚊帳の外 おわり
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