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【 健弘の休日1】
高野家末っ子真桜くんは、友人たちの間では大人しく聞き分けもそこそこ良いためあまり感じられないが、さらに親密になるとしっかり末っ子気質を見せてくる。
休日、真桜の家に遊びに行くと、真桜はまだ布団の中で爆睡していた。俺は仕事に行く間際だった真桜のおばちゃんに鍵を開けてもらい、家の中に上がらせてもらう。笑いながら「起こしてきて」と言われることはわりとしょっちゅうだ。
「真桜ー、遊びにきたぞ〜。」
「…ん〜。」
ゴロンと寝返りを打ち、青のチェック柄のパジャマが露わになる。女子が見たら喜びそうな、普段の真桜からは想像できないレアな姿だ。
「あ、柚瑠が来たみたいだな〜。」
勿論それは冗談だが、『柚瑠』という名前を聞いただけでパチリと目を開けた真桜。この春めでたく恋人となった真桜の大好きな人だ。
突然ハッとした顔をして身体を起こした真桜が、慌てて布団から出ようとして、ずべっと上半身から床の上に転げ落ち、間抜けな姿を晒している。
「なに慌ててんだよ?今日学校休みだぞ?」
俺の言葉に、真桜は「あぁ…。」とボソッと声に出し、ボサボサな髪を掻きながら部屋を出て行った。
真桜の顔がイケメンじゃなかったらただのドジでマヌケな人間に見えてしまっただろうな。美形に産んでくれた真桜の両親に感謝した方が良いぞ。
柚瑠の前じゃ自分を良く見せようとでもしているのかクールな雰囲気だが、結構無理がある。
真桜の部屋からゲーム機を持って下に降りると、真桜は台所でコップ一杯の牛乳をゴクゴクと飲んでいた。
「すげえ牛乳飲んでんな。カルシウム不足かよ。」
「柚瑠に身長追いつかれた。」
「ああそう。」
バスケ部だしな。真桜に追いつくどころかもっと伸ばしたいくらいだろ。けれどこの真桜くんはどうやら身長を抜かれるのは嫌みたいだな。まあ頑張ってくれ。
「あ、タケ今度バスケ部の試合一緒に見に行こ。」
「試合?いいけど。いつ?」
「5月の半ばって言ってたかな。」
いいけど俺と真桜が男バスの試合見てたら怪しくねえか?…いや、別に友達の応援だし大丈夫か。
「吉川も行けたら行くって。」
真桜はそう話しながら、テレビにゲーム機のケーブルを繋げていた俺の隣に腰を下ろした。パジャマのまま。
「思ったんだけどあの子も柚瑠のことすげー好きじゃね?いっつもベタベタ触られてるぞ?いいのかよ?」
「あぁ、吉川はそーゆー奴だから。」
特に嫌がることもなく、笑い混じりに返ってきた真桜からの返事にまた「ああそう。」と返しながら、ゲームの電源をつけた。
真桜はうんと腕を伸ばして、カーペットの上にゴロンと横になる。…パジャマのまま。
真桜の方から『グー』と腹が鳴っている音がするが、真桜はテレビ画面を眺めながらその場から動こうとはせずに数分が経つ。
「真桜飯食えよ。」
「…ん〜。」
真桜はパジャマのままカーペットの上でゴロゴロし続け、また数分が過ぎた。その後結局、俺がパンを焼いてやると、真桜はむしゃむしゃと食っていた。
柚瑠が来るとシャキシャキと動くくせになんだよお前は。…って最近はよく思ってしまうが、昔から真桜は結構だらしない方だ。
「…柚瑠部活頑張ってんのかなぁ。」
真桜は閉まっていたカーテンをシャッと開けて庭を眺めた。…パジャマのまま。
「学校にいるんだったら見に行くか?近いんだし。」
「練習試合で他校行くって言ってた。」
真桜はそう言いながら、一度開けたカーテンをまた閉めた。いや開けとけよ。遮光カーテンのため、カーテンの開け閉めだけで随分部屋の明るさが変わるのだ。
「…柚瑠に触りたい…。」
悩ましげに呟きながら、またカーペットの上にゴロンと横になる。まるでアザラシのようだ。女子が見たら百年の恋も冷めてしまうかもしれない。
「いっつも言ってんな、それ。」
「…柚瑠の腹筋すげえ綺麗だった。」
「…腹筋?」
真桜はそんなことを口にしながら、いきなりパジャマを捲り上げて自分の腹を見ている。
「おお、真桜も滑らかで綺麗な腹してんじゃん?まっ平らだけどな。」
「………。」
真桜は無言でパジャマのシャツをズボンにインした。この調子じゃ一日中パジャマでいる気だ。
俺はゲームを進めながら、真桜の変態な呟きに返事をしたりする。
腹が綺麗だの毛が薄いだのどちらかと言えばあまり聞きたくない話だ。俺にとっては一応友人なのだから変な目で見てしまわないようにそういう惚気は少し控えていただきたい。
淡々とゲームを進めていると、また横から『グー』と腹が鳴る音が聞こえてくる。
なんだかんだ言いながら真桜とうだうだ過ごしていたらもう午前が終わりそうだった。
「なんか食いに行く?それかコンビニでも行くか?」
「ん〜…家出るのめんどいな。」
ゴロゴロしながら真桜が俺にそう返事をした時、『ピンポーン』と突然インターホンが鳴らされる音がした。
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