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【 2年目の文化祭 】


2年4組の、夏休み真っ只中の教室にて。


「柚瑠、ここは何色?」

「えーっと、確か水色。」

「真桜塗り間違えたら柚瑠の所為にするからな。」


文化祭準備で俺は立て看板係となり、美術部のクラスメイトが書いた絵を午前の部活が終わった後に絵の具で塗りに来ていた。


そんな俺の隣で、当たり前のように一緒に作業している真桜。忘れそうになるが真桜は2年6組だ。俺が文化祭準備に来る時間に合わせて真桜も健弘と一緒に学校にやって来る。


「真桜くんまた4組の準備手伝ってるの?たまには3組も来てよー!」


健弘たちと仲が良い隣のクラスの女子が、真桜の姿を見つけて歩み寄って来た。集中しながら水色の絵の具で背景を塗っている真桜は、女子の声を無視して真剣な顔をして塗り続けている。


俺は筆を置き、ちょっと休憩しながらそんな真桜を眺めていると、健弘が俺の方にチラリと目を向け、クスッと笑ってきた。


「なんだよ?」

「…あー、いや。柚瑠楽ちんだな。」

「まあな。」


去年の文化祭とはえらい違いだ。
今年はクラスで模擬店を出すことになっており、俺はこの立て看板が完成したら教室の飾り付けを手伝うくらいだ。しかもそれを真桜が自ら手伝ってくれているのだから健弘の言う通り楽ちんすぎる。


「タケ〜、真桜くんが無視する〜!!」

「今真桜くんは綺麗に塗ることで必死だから諦めろ。」

「え〜つまんな〜い。」


隣のクラスの女子は、一向に返事をしない真桜に残念そうにしながら帰っていった。すげーなこいつ。女子の声聞こえてないのだろうか。それとも聞こえててガン無視してるのか?


「真桜」

「ん?」


あ、なんだ聞こえてるんだ。

特に用はなかったけど名前を呼ぶとすぐに振り向いてきた真桜に、俺は真桜の頭をよしよしと撫でながら褒めてやった。


「綺麗に塗れてるな。」


多分俺が塗るより綺麗に仕上がりそうだ。
さあ、俺も再び塗り始めるか。と真桜の頭から手を離して筆を持とうとしている俺の隣で、真桜は嬉しそうに口元を緩ませて笑っていた。かわいいなぁ。



「2年6組〜高野の真桜くん〜、2年6組〜高野の真桜くんの居場所をどなたかご存知ありませんか〜?」

「あ、タカが来た。」

「真桜隠れろっ!連れてかれるぞ!」


笑い混じりの健弘の声に、真桜が急いで俺の背中にくっついてきた。多分隠れているつもりなのだろう。ギュッと俺の腹に真桜の両腕が回される。


「おい高野!今日女子に衣装合わせするって言われてただろ!!教室行くぞ!!」

「ああっ柚瑠っ…。」


若干キレ気味のタカが、真桜の腕をグイッと引っ張ってズルズルと真桜を引き摺っていった。


「なんだ、自分のクラスの準備あったのかよ。」

「そういやさっきチャイナ服着させられるっつって嫌がってたな。」

「チャイナ服?…あー、そういやタカが中華料理出すことになったっつってたな。」

「真桜がチャイナ服とか絶対似合うだろ。俺が真桜なら喜んで着るのに。」

「お前そういうのほんと好きだよな。」


ちなみにうちのクラスは健弘たちが希望したホスト&ホステス喫茶とやらになった。シャンパンタワーをやりたいらしい。勿論ホストの恰好をするのは健弘たちで俺はお断りの代わりに立て看板係をすることになったのだ。


「柚瑠もせっかくだからホストやれよ。」

「やだよ、裏方でいいわ。」

「あ〜あ、つまんね〜。てか真桜が居れば間違いなく人気ナンバーワンホストなれんのになんで6組なんだよ。」

「健弘って真桜の容姿ほんと好きだよな。」

「あれを好きにならねえやつ居る?男でも憧れる容姿だろ。」

「…まあ、そうだな。」


真桜の容姿はベタ褒めしてるけど、それ以外は結構ズケズケ言ってるから、ほんとに健弘にとって真桜は好きな見た目なんだろうな。


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