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毎年、俺の誕生日が近付いてくるといつも雨が降っている。誕生日にも雨が降っていることの方が多くて、この季節は人一倍憂鬱だ。


今年も気付いた時には梅雨入りしている。これはつまり、俺の誕生日が近いと言うこと。


今日も朝から雨が降っていて、朝練に行くのがかなりだるく感じてしまった。練習着の上からレインコートを着て、雨除けに大きめのゴミ袋の中に鞄を入れて、雨の中チャリを走らせる。着替えもタオルもいつもより多めに持っていくから荷物も増えてだるすぎる。


さらに今日は体育館が使えない外練の日だったから、校舎で階段ダッシュをさせられた。朝から階段ダッシュはまじでキツい。朝練が終わったら部員全員ヘロヘロになりながら教室に向かった。


「うわ、柚瑠髪びちょびちょ!雨かかった?」

「違う、これ汗。触んねえ方がいいよ。」


はぁ、と息を吐きながら席に座ったら、肩にかけていたタオルを取った真桜にわしゃわしゃと髪を拭かれた。


「今日まじ疲れた…。まだ朝なのに…。」


真桜に髪を拭かれながらもぐもぐとおにぎりを食べる。いつも教室で真桜に髪触られそうになると避けてしまうけどもう今日はいいや。だるくてしょうがない。


その後の授業中は見事に爆睡してしまった。

休み時間も引き続き爆睡。真桜の「柚瑠?」と控えめに呼びかけてくる声が聞こえた気がした。せっかく来てくれてるのに構ってやらず申し訳ないがまじで眠い。


その次の授業は半目で黒板の文字をノートに写し、字がえげつなく汚い。寝なかっただけマシだと思う。


さらにその次の休み時間に真桜が遊びに来た姿を見て、俺は思わず億劫な気分に負けて真桜の胴体にギュッと腕を回して抱きついてしまった。


「えっ」


動揺した声を出したのは真桜…と思いきや後ろの席の女子だ。


「雨だっる、…頭痛い。真桜癒して。」

「えっ、あ、…大丈夫?よしよし…」


真桜の身体に抱き付く俺の頭を、戸惑うような態度で撫でてきた真桜の横から、「お前ら何やってんだよ。」と呆れた表情で健弘が横から口を挟んできた。


教室でいちゃつくなって顔だな。分かってるよ俺だって。でもたまにはいいだろ。いつもこんなことしてるわけじゃないんだし。


「俺梅雨まじで嫌いなんだよ。」

「わかる、俺も嫌いだけどさ。」

「今日何日?もうすぐ俺の誕生日なんだわ。」

「えっ」


今の驚きの声を上げたのは真桜だ。
知らなかっただろ、言ってないし。


そこで真桜から身体を離し、机に肘をついてだらりと窓際の壁に凭れかかった。


「梅雨イコール俺の誕生日だし、いっつも雨降ってるし、自分の誕生日は嫌いだなー。」


俺のそんな言葉に、真桜がなにか言いたげにチラチラと目を向けてくる。


「真桜、大雨降っても俺の誕生日祝ってな。」

「降っても降らなくても祝うし。」

「まー真桜ならそう言ってくれると思った。」

「なんか美味しいもの食いに行こ。」

「お、いいねぇ。」


毎年どんよりした天気の中あっという間に過ぎていく自分の誕生日だけど、真桜が祝ってくれると言うのなら、自分の誕生日も少しくらいは特別感のある日になりそうだ。





もう今日の天気は一日中100%の降水確率で、昼休みは外にも行けないため、弁当を持った真桜と一緒に購買に行ったあと、二人で人通りが少ない空き教室へ足を踏み入れた。


やっぱり雨の日はどこも陰気な感じがする薄暗さで、教室の電気を付けようとしたら真桜に腕を掴まれ引き止められた。


「ちょっとだけ柚瑠に触りたい。」


そう言う真桜に、ぎゅっと身体を抱き締められる。

こんなところで二人でコソコソこんなことして、もし誰かに見つかったら、という気持ち半分、こんな教室、今日は誰も通らないから。という気持ち半分。


思えば俺たちが恋人らしいことをしているのはいつも真桜の家くらいだ。


ちょっとくらい、人の目を盗んで学校で真桜を独り占めしてもいいかもな。って、そんな独占欲から、俺は廊下側の窓際で隠れるように真桜に腰を降ろさせ、自ら真桜にキスをした。


するとその俺の行動が、まるで真桜の中にあるスイッチを押してしまったかのように、俺の背中、それから腰を弄るように触れ、俺の口の中に舌を入れてきた真桜が息を荒くしながら舌を絡めてくる。


「はぁ…柚瑠…。」


チュッ、チュ、と吸い付くように触れてくる真桜のキスと、俺を見る色っぽい真桜の視線が危険だ。


「誰かに見られたら終わりだな。」


少し唇が離れた時に俺がそう言うと、「俺が柚瑠を隠すから。」と言って真桜が豪快にハグしてきた。


「ククッ…、じゃあそれで任せるわ。」


そして暫く飽きるまで薄暗い教室でキスをし、互いの身体に触れ合った。


「学校で二人きりなのはちょっと変な感じだな。」


その後、壁に凭れ掛かりながら真桜と隣同士に並び、購買で買ったパンを齧った。

真桜は持ってきていたお弁当を太腿の上に乗せて器用に食べている。


「ほんとはもっと二人になりたいんだけどな。」

「また家行ってやるし。」

「カレンダー見たら柚瑠の誕生日金曜日だったぞ。…次の日部活?」

「あー多分土曜は部活だな。」


その俺の言葉に、真桜少しムッと唇を尖らせる。金曜の夜から泊まりに来て欲しかったとかかな。わかりやすい真桜の態度に、笑いながら真桜の髪をわしゃわしゃと撫でた。


「じゃあ部活終わったら行こうかな。」

「…泊まる?」

「うん、泊まる。」


俺が頷くと、無言で俺を見つめて口元を緩ませる真桜。すごい嬉しそう。何を考えているのかすぐに分かるな。真桜って多分隠し事できないタイプだ。


「日曜に美味しいもの食べに行こ。」

「おう、雨降らなきゃいいな。」

「俺晴れ男だから大丈夫。」


口ではそんなことを言っておきながら、あとからちょっと自信なさそうに「…でも降ったらごめん。」って謝ってきた真桜がかわいい。


真桜に『かわいい』なんて言うの絶対俺くらいだ。いや、言えるのが俺くらいだ。だって真桜のかわいいところは俺しか知らないし。


「まあ俺の誕生日前後は基本雨降ってるからもし晴れてたら真桜のこと晴れ男認定してやるよ。」


その時は、冗談で笑いながらそんなことを言っていた。


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