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「高野の真桜くんまじかわいいわー。」


週明けの月曜日、口に手を当てて頬杖をついて、なんかいつもより機嫌良さそうにニヤニヤしている柚瑠が、突然ひとりごとなのか俺に言ってるのかわからないことを言ってきた。


「は?」


授業が自習だったため、先生が早々と教室を出て行ったすぐあとの休み時間のことだった。


柚瑠の呟きにその顔をジッと見つめるが、柚瑠はそれ以上何も言わずに数学の問題を解きながら、それでもやはり手で少し隠れている口元はニヤニヤしたままだった。


どちらかと言えば真面目で誠実そうな性格の柚瑠がこんなにニヤニヤしているところはあまり見ない顔だ。

これは“企み”とかではなく“喜び”からくるにやけ方だな?と推測しながら、俺は柚瑠に問いかける。


「なんだよ、真桜となんか良いことでもあったのか?」

「ん?…あーいや、べつに?」


お前水臭いな。そんだけニヤニヤしてるんだったらわけを言えよ、と柚瑠をジト目で睨み付けると、柚瑠は「ククク、」と笑いながら「真桜って見てるとよしよししたくなってくるんだよな。」とか言ってきた。


「おお、柚瑠までそんなこと言い出すのかよ。俺レベルになると真桜たんおねむでちゅか〜?よちよち、だからな。」

「あはは、なんかわかるわ。」

「なんだよ、柚瑠の前ではかっこつけてんのかと思ってたけどそろそろ無理めな感じ?」

「え、かっこつけてるか?結構いつもポンコツだけどな。」

「わはは!!ポンコツって言われてるし!」


バンバンバン!!と机を叩きながら笑っているところで、噂の真桜たんが4組の教室に姿を現した。


笑っている俺に訝しむような目を向けてくる真桜に、俺は口を押さえて笑うのを止め、目の前までやって来た真桜を見上げた。


「タケなに爆笑してんだよ、すげー目立ってたぞ。」


自習の直後だったからまだ教室が静かだったのだろう。まあいいじゃん、休み時間なんだし。


「真桜たん柚瑠にポンコツって言われてたぜ〜。」


さっそく本人に柚瑠が言っていたことをチクると、真桜はムッと唇を尖らせながらぺちっと微力で柚瑠の頬を叩いた。


「真桜たんの所為で勉強全然できなかったし俺今追い込み中なんですけど?」


クスクスと笑って真桜にそう言う柚瑠に、真桜は恥ずかしそうにちょっと顔を赤くして、柚瑠の頬を摘んで軽く引っ張りながらフンとそっぽ向いた。


なんだよこいつら無意識か?
教室でイチャイチャすんなよ。


「…だって。柚瑠に触りたかっ、ンンン!!」


触りたいって言うなよ?
触りたいって言うなよ?

うわ、こいつ言いやがった!!!
…と俺は咄嗟に真桜の口を手で塞いだ。

なんで俺が止めなきゃなんねえんだよ。
お前ら隠す気ねえのか?
ねえなら俺も止めねえよ!?って真桜の口を塞ぎながら柚瑠の方を見ると、柚瑠はわけわかってなさそうにキョトンとした顔をしている。


いや、お前気付いてねえのかよ、このわりと静かめな教室でこいつ『柚瑠に触りたかった』って言おうとしたんだぜ?


「おいおい〜タケと真桜なに暴れてんだよ。」

「せっかく勉強してたのに手ぇ止まったし。」

「真桜が下ネタ大声で言おうとしたから止めてた。」


友人たちが周りに集ってきてしまい、俺はそんな適当なことを言いながら真桜から手を離した。


「下ネタ?真桜が?」

「真桜下ネタ言うの?」


しまった。真桜は友人たちの間ではそこそこ純真キャラで通っている。発言をミスってしまい、微妙な空気が流れているが、当の本人はまたススス、と柚瑠の方に近寄って行き、机に腕をついて柚瑠の手元にある勉強道具を覗き込んでいた。


はいはい、真桜たんは柚瑠くんがちゅきなんでちゅね〜。…って、

だからそれを隠せっての!!!!!


どうせ二人の時はキスくらいしてるだろうし、実際どこまで進んでんのか知らねーけど、最近では二人の関係を知っている俺の方が、本人たちよりヒヤヒヤしてしまうのだった。


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