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それから暫くして突然、俺は人伝に真桜に彼女ができたと言う話を耳にした。相手は、文化祭のダンスの練習の時に随分お世話になった同じクラスのダンス部の女子だ。
それを聞いた時、何故だか俺が失恋したみたいに、胸にズンとした痛みを感じた。俺は、信じたくなかった。
なんで俺が、こんなわけのわからない感情を抱かなければならないんだ。
真桜は俺に直接その話をしてくれることはなかったけど、クラス中がお祝いムードになっていて俺がそのことを知るのも当然だった。
「真桜くん佐伯(さえき)と付き合いだしたってまじ?」
俺の目の前の席の吉川は、嫌そうに顔を顰めて俺にそう話しかけてきた。
「そうみたいだな。」
休み時間、真桜は彼女となったダンス部の女子、佐伯と楽しそうに話している。俺はその風景から目を逸らすように、机の上に出していた教科書を意味もなくペラペラと捲った。
「あの男信じらんない、どういうつもり?」
「俺に聞くなよ、知るわけねーだろ。」
吉川がキレてるのは、真桜が好きだったはずの俺ではなく、いきなり佐伯と付き合いだしたからか。
俺だって困惑はするけど、真桜はダンス練習であいつによくお世話になってたし、もしかしたらすでに佐伯のことは好きになりかけてたのかも…なんて、そんな考えが頭をよぎる。
結局はそういうことだから、俺に好きだったことは忘れて、とか言ってきたんじゃねえの?って、勝手にそんなふうに考えたら、すげー切なくなってくる。
だからおかしいだろ、俺が失恋したみたいになってるのは。
「おい真桜、購買行くからちょっと付き合えよ。」
カップルの邪魔をして悪いが、俺は佐伯と喋っていた真桜を教室の外へ連れ出した。
佐伯は俺の方を見て、「あ、七宮に真桜くん持ってかれちゃった。」とか言っていたがそんなこと言われても知らん。呼び方もちゃっかり変わっててなんかイラッとした。別に佐伯にムカついているわけではないが。
「俺にはなんも言わねーんだな。」
階段を降りながら真桜にそう話しかけると、真桜は「ん〜…」と困ったような声を出した。
「俺って、今普通に真桜の友達なんだろ?なんで言わねえんだよ。」
「……そうだな、ごめん。」
「ちょっとは気になってたとか?」
「…え、なにが?」
「佐伯のこと。」
「…あー…良いやつだよな。」
真桜はそう言って、少しだけ笑みを見せた。
なんか、俺今すげーしんどい。
まじで失恋したみたい。
こんな感情おかしすぎる。
俺は、ずっと真桜に好かれたままでいたかったのか?ろくに気持ちも返せてないのに。好かれたままで居た関係が、心地良かったのだろうか?
そんなのは虫が良すぎるだろ。
「…まあ、びっくりしたけど、おめでと。」
「…うん。」
とても祝福してやれる気分ではなかったが、真桜が決めたことだから俺は祝福してやるしかない。
「でもなんかちょっと寂しいな。俺って普通に真桜に喋りかけていいんだよな?」
「…それは、うん、…俺だって。」
友達だったら、普通に教室で会話して、前みたいに真桜の家でまた遊んだりすれば良いんだよな?……って、俺はできるだけ、前と変わらないような関係を望んでいる。
購買まで辿り着くと、サンドイッチを購入してその場でビニールを破り、食べながらまた教室へ戻る。
「あ〜んいいないいないいな、あたしも高野くんと付き合いたい〜!!!」
教室では、文化祭の打ち上げ中に真桜に告白してあっさり振られていた女子が、佐伯の肩をガクガクと揺さぶりながら嘆いていた。
きっと他のクラスの女子も、真桜に彼女ができたことに悲しむやつは多いんだろうな。
なんでその悲しむやつの中に、俺まで含まれてるんだろうな。
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