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文化祭2日目の朝、真桜とは顔を合わせて一言だけ、「おはよう」と挨拶を交わしただけだった。

今日は放課後普通に部活があるから、Tシャツにバスパンといういつも通りのスタイルで登校し、あまり文化祭を楽しめそうな気分でも無かった。


文化祭開始の時刻が来て、昨日文化祭を回る約束をした暁人たちと合流すると、「柚瑠練習着かよ!」と言われてしまった。

そんな暁人はしっかり髪をヘアセットして学生服スタイルだった。もしかして美亜ちゃんの友達のことでも狙っているのか?と疑いの目を向けながらも、人の恋愛は割とどうでもよかった。


「じゃあまずバスケ部の先輩のとこ行っていい?」

「いいよ〜。」


ウキウキと楽しそうに歩きだした3人の後ろを歩き出すと、俺の隣に美亜ちゃんがスッと並んだ。


「今日は部活あるんだね〜。文化祭の後なのに嫌じゃない?」

「まあな。でも2日も部活休みじゃ鈍るしな。」

「あ〜、それもそうだね〜。」


美亜ちゃんとそんな会話をしながらまずは3年の先輩のフロアに行くと、さっそくメイドのようなフリフリのエプロンを着た先輩方が、呼び込みをしている姿があった。


教室の中を覗くと、「おー!暁人、柚瑠来てくれてサンキュー!」と執事のような格好をしたバスケ部の先輩がメニュー表を差し出してくれる。


「お?もしかしてお前らの彼女かよ?」

「…違います違います。」


美亜ちゃんたちを見て言う先輩の言葉に否定している俺の隣で、暁人は否定も肯定もせず笑っている。


「なぁ、もしかして二人って付き合ってる?」


俺は先輩のクラスの出し物のパンケーキを食べながら暁人と美亜ちゃんの友達を交互に指差して問いかけた。

すると二人は横目で見合わせて、「柚瑠くんだしいいっか?」と言って、「実はちょっと前から…。」と恥ずかしそうに頷いた。

付き合いたてでまだ誰にも言ってなかったのか。

まあそんな気はしたから驚くこともなく「おーまじか。おめでとう。」と二人を祝福してやると、「お前らはどうなんだよ。」と急にニヤニヤしてきた暁人が俺と美亜ちゃんを指差した。

その途端に顔を赤くした美亜ちゃんが、何も言わずにパンケーキをちびちびと食べている。


「…え、いや、お前らってなんだよ。別になんもねーよ。」

「え〜?なんだよ付き合えよ〜。」


『なんだよ』じゃねえよ。そのお前ら付き合えムードは頼むからやめてくれ。美亜ちゃんは良い子だと思うけど俺はまだこの子と知り合ったばっかなんだよ。


「こらこら、暁人でしゃばるの禁止。」

「ごめんごめん。」


彼女の一言で暁人はその話題をやめてくれたが、俺と美亜ちゃんの間には微妙に気まずい空気が流れる。


とりあえず無言でパンケーキを食べ終えると、「美味しかったね。」と美亜ちゃんが俺に笑顔で話しかけてくれたから、その後また普通に会話しながら、別のクラスの出し物へと赴いた。 


次に向かったのはお化け屋敷で、受付で「二組ずつお入りください」と言われてしまったため、先に暁人カップルが入っていってしまった。

まあそうなるわな。と思いながら俺と美亜ちゃんは外で待っていると、健弘や真桜がいるグループが俺たちのいる場所に向かって歩いて来た。


思わず真桜の姿に反応してしまい「あ、」と声に出してしまうと、その俺に気付いた健弘が「おう」と軽く俺に向かって手をあげて通り過ぎて行った。


「えー!ちょっとタケお化け屋敷はー?」

「後にとっといて先こっち行こうぜ。」


お化け屋敷を通り過ぎた健弘に、文句を言っている女子。そしてその後から、また違う女子を連れて歩いてきた真桜が、俺の方などまったく見ずに通り過ぎていった。


「ねえ真桜くん真桜くん、このクラスパンケーキだって!」


女の子に袖をくいくいと引っ張られながら話しかけられている真桜を、暫く目で追った。以前は何度も見たことのある光景だった。

まるで時間が巻き戻ったのか?という錯覚に陥りそうだ。


「あ、柚瑠くん私たちの番だって!行こ?」

「…あ、うん。」


しかしお化け屋敷の番がすぐに来て、俺は真桜から目を離して、暗幕で真っ暗に作られた部屋の中へと足を進める。


「キャッ!中暗いね…。」

「うん、大丈夫?掴まる?」


おぼつかない足取りの美亜ちゃんに見兼ねて片腕を差し出すと、おずおずと俺の腕に掴まってきた美亜ちゃん。


別にそれに深い意味なんて勿論なく、美亜ちゃんを引き連れて淡々と前に進みながらも、俺の頭の中は無反応で俺の横を通り過ぎていった真桜のことでいっぱいだった。


無視をされたような…、距離を置かれた感じが、無性に俺は悲しかった。


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