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朝練をして昼には少し身体を動かし、放課後のメイン練習という部活中心の高校生活を送っている俺だが、別に俺たちの部は熱血と言うわけではなく、朝練があるのは放課後の部活時間が短いからで、18時には片付けをして下校しなければならない。

赤点を取ると部活に参加させてもらえないから、勉強もそこそこ頑張らなければならない。

だから放課後の部活後はいつもバスケ部の仲良い奴らと勉強会……という名目でファーストフード店やフードコートで教科書片手に間食を食べながら駄弁っている。


「あ、そうそう。今日の朝練の時さあ、何故か2階の教室から高野がグランド見下ろしてた。あんな朝早くに。」

「は?高野って柚瑠のクラスの?2階って3年の教室じゃね?なんで?」

「わからん。女と会ってるとか?」

「うわ、それありそう。」

「先輩からも普通に人気だよな、あいつ。」

「そりゃあの顔だしな。俺もイケメンに産まれたかった。」


羨ましそうにそう話しながら、昼間も間食のサンドイッチを食べていたというのに、また間食のポテトを頬張っているタカ。お前は気を付けないとぶくぶく太っていきそうで少し心配だ。


バスケ部でもよく高野の話を耳にする。
大体が色恋関連の話題で俺はまったく興味がない。
あの容姿からして彼女の一人や二人いてもおかしくないしな。高野がチャラチャラ遊んでたとしてもイメージ通りだ。


「あっおい、シッ!あれ高野たちじゃね!?」


突然慌てたように声のボリュームを下げる友人が、フードコートに現れた男女数人の学生グループを横目で窺っている。男も女も派手なグループの中心には、高野 真桜がいた。


俺たちが使っているテーブルの横の通路に向かって歩いてきている彼らは、近くまで来ると「あ!バスケ部じゃん!」と俺たちに気付いて絡んでくる。


「お前また食ってんのかよ〜!」と先頭を歩いていた男がタカを見て笑う。


「部活後は腹減るの!」

「帰って夕飯も食うんだろ?すげえな。」


タカと同じクラスの奴のようで、親しげに話し始めた。


「バスケ部の隣のテーブル空いてんじゃん!そこ座ろ〜。」


女子の一人がそう言うと、隣のテーブルに荷物を置き始める男女グループ。なんとなく同じクラスで顔見知りである高野に目がいくと、同じく高野もチラリと横目で俺のことを見下ろしてきた。


高野が座ったのは通路を挟んだ俺の隣でちょっと気まずい。


「あたしオムライス買ってくる〜。真桜くんはどうするの〜?」

「…。」


え、無視?

女子に話しかけられているのに見事に無反応の高野を、バスケ部一同でジーッと観察するように見つめてしまった。


すると、ぼーっとしていたのかハッとするように一瞬こっちに顔を向けた高野が、何故かアタフタするように視線を彷徨わせ、反対側を向く。


「真桜買わねーんなら荷物番よろしくなー。」

「……うん。」


男にそう言われて高野が頷くと、みんな財布を持って席から離れていった。

俺たちの横のテーブルに一人残されている高野。
俺たちの間には少し気まずい空気が流れる。


俺らさっきまで何の話してたっけ。

………あ、高野の話か。

そりゃまた会話再開させんのは難しいよな。と俺は適当に話題を探して口を開いた。


「そう言えば7月入ったら期末テストだろ?部活停止っていつから?」

「あと1週間くらいじゃなかったか?去年先輩赤点取ったから合宿参加させてもらえなかったらしいしまじがんばろ。」

「うわ、それキッツ…がんばろ。」

「俺ガチでやんなきゃ英語やべえわ。…あっ!てか明日って小テストあるっつってたっけ!?高野!!」

「……へっ!?!?」


会話の途中でハッと昨日英語の先生が言ってたことを思い出した俺は、勢い余って確認のために高野に問いかけてしまった。


いきなり俺に声をかけられた高野はギョッとした顔で振り向く。


「英語小テストやるっつってたよな?」

「え、あっ、…っと、そうだっけ…。」


あれ?

高野ってこんなキャラなのか?


唐突に高野に声をかけてしまった俺だったが、高野は俺に話しかけられて狼狽えるようにしどろもどろになっている。


未知すぎる高野の性格に、俺はポカンと口を開けてアホ面で高野を見つめてしまった。


そうしているうちに高野の連れがわらわらと席に戻ってきて、俺は高野を見るのをやめた。


一人だけ何も注文しなかった高野だが、連れのみんなが高野にエサを与えるように注文したものをアレコレ高野に食わしていた。


高野の扱いはさすが人気者、って感じだな。


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