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「高野くんはぁ、うちらと一緒にセンターで踊ってほしいなぁ〜。」


…おぉ、さすがクラスのイケメンモテ男への要求はハードルが高い。

俺は真桜がどう返事をするのか隣で黙って様子を見ていると、「俺も柚瑠と同じグループが良いんだけど…」と言ってチラリと俺を見上げてきた。


「え〜っ!そこをなんとか!」

「それに俺、ダンス無理だし。」

「それは大丈夫!教えるから!!」


ずっとお願いポーズをされたままの真桜が、困ったように髪を触りながら、不服そうに唇を尖らせる。

そこで、「じゃあ、」と何か思いついたようにパンと一回手を叩いて、ダンス部の女子が口を開く。


「七宮も一緒ならどう!?」

「はっ?」


いやいや、俺がダンス部の女子たちと同じグループに入って踊るってこと?正気かよ。踊れるわけねーだろ。…と思いながら横で会話を聞いていたが、真桜は「…柚瑠と一緒なら。」と答えてしまった。


「ほんと!?じゃあ練習の日時は七宮に合わせるから!!」

「はっ!?」

「高野くんありがと!がんばろうね!七宮も!」

「あっおい!!!」


ダンス部の女子は、真桜が頷いた途端に話をどんどん進めてしまい、俺が何か反論する前に別のクラスメイトのところに行ってしまった。


『高野くんありがと!』って!ありがとうは俺に言うべきじゃねえのか!?俺は真桜のおまけみたいな扱いだったぞ!?


「ダンス下手でも怒んなよ!!!」


反論できず終いも悔しいので、ダンス部の女子に向かって叫ぶと、ヘラヘラした顔をしながら指でオーケーサインを作り、俺に向かって掲げてきた。


「も〜!おい真桜〜!!」


次に真桜に向かってちょっと不満気な顔を向けると、「…いや、だって…」と何か言い訳を言いたそうにしている。


まあ真桜だけダンス部の女子たちと同じグループってのも気の毒で、別に大して怒っているわけではないが真桜の言い分を聞いてやろうと真桜の横顔を見ていると、真桜はちょっとそっぽ向いて頬杖をつき、ボソボソと口を開いた。


「夏休み…、グループ一緒じゃないと全然柚瑠に会えなくなるし…。」


手で半分隠れているが、指の隙間から見える耳が赤くなっている。

変なことを言う奴だ。

別に普通に遠慮せず、遊びとかに誘ってくれれば、会えないことなんてないのに。

『会えなくなる』という思考が不思議で、そんなことを聞いてしまえば『そんなに俺に会いたいのか』と思ってしまう。


ああ、まただな。真桜の言動は『好きだ』と言われているような気分にさせられる。気恥ずかしくて、俺まで顔が熱くなりそうになるんだよ。


ここですぐに俺が戯けるように『そんなに俺に会いたいか』って返せたら良いんだけど、真桜相手に俺は冗談で返せない。


「…いや、普通に会うだろ。俺部活でしょっちゅう学校来てるし。」


真桜の赤い耳を見ながら俺はそんな返事を返すと、真桜はふっと口元を緩めて、「…そうだな。」と頷く。


「てか結局グループ一緒なら毎日会うかもな。」


夏休み中、一体どのくらい練習させられるかによるけど、試合や合宿がある日や部活が休みの日以外は学校に来なきゃいけないから、それプラスダンス練習があると思うとしんどいな。

…と、もう今から億劫になっている俺の横で、真桜は口元を緩めてにこにこしていた。


…おいおい、嬉しそうだな。と、俺は勝手に照れ臭くなりながら、無言で真桜からそっぽ向いた。


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