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『まあ、嫌悪感出すのもほどほどにな。』


七宮にもそう言われたのに……

その日の昼休み、あたしはやらかしてしまった。



「吉川さんまたさっき七宮に話しかけてたんだけど。高野くん目当てなら高野くんにだけ話しかけたらいいのに。」


友達とお弁当を食べるために机を引っ付けながらそんな不満を漏らした時、教室を出ようとしていた吉川さんに聞かれてしまったのだった。


「あんたさぁ、コソコソ話すならちゃんと聞こえないように話してくれない?」


あたしはまさか本人に聞こえているとは思わず、何も言い返すことができずに黙り込んだ。

吉川さんに対する不満は山ほどあるが、不満を言って聞かれてしまったあたしが悪い。


「………ごめん。」


あたしは罰が悪くなりながら謝ると、「ハッ」と鼻で笑いながらあたしを見下ろしてきた吉川さんが、あたしだけならまだしも、七宮までバカにしたようなことを言ってきた。


「七宮七宮って、どこがそんなに良いんだか。趣味悪いんじゃない?」


そう。この女は、基本的に高野くん以外のクラスメイトほとんどを見下している。最悪なことにあたしが七宮のことが好きってことも吉川さんに気付かれていて、ぺらぺら喋っていた自分がバカすぎる。


七宮は、いつも部活頑張ってて、お腹が空いたとご飯を頬張る姿が見ていて楽しかった。いつのまにか好きになっていて、自分が趣味悪いなんてまったく思わない。

だから何か言い返したいけど、いざ吉川さんを前にすると怖気付いてしまう。


「てかあたしに文句言ったところで、あんた七宮に相手にされてないからね?」


追い討ちをかけるようにあたしにそう言ってきた吉川さんの言葉が胸に突き刺さる。あたしは恥ずかしくて顔から火が出そうになった。

確かにそう言われたのはごもっともで、ぐうの音も出ない。

情けなくも少し涙目になっていた時、今日二度目の大きな手が、あたしの頭の上にポンと優しく乗せられた。


教室を出ようとしていたのか、鞄を持った高野くんが、あたしの側に立っている。


突然のことで、驚きで目を見開いて高野くんを見つめる吉川さん。


「どこが趣味悪いのか教えて。」


高野くんの吉川さんに向けられた、無愛想な声が教室内によく響いた。


「えっ?」

「…柚瑠のどこがダメなのか教えて。」

「そ、それはっ、じょ、冗談冗談!!」


高野くんを前にした吉川さんは、一瞬で態度が豹変した。にこりと顔に笑みを張りつけて高野くんを見るが、そんな吉川さんとは真逆で高野くんの表情は、見たこともないくらい冷ややかだった。


「…冗談で趣味悪いなんてよく言えんな。」

「えっ…、それはっ…。」


高野くんの声からは、吉川さんへの“怒り”の感情が滲み出ている。自分が仲良くしている人がそんなことを言われたら、怒りたくなる気持ちは当然だ。


「好きな人がそんな言われ方してたら、不満のひとつも言いたくなると思うんだけど…。」


高野くんはそう言って、チラリとあたしに目を向けてくる。

あたしはせめてもの吉川さんへの抵抗をするためにうんうんと首を縦に振ると、高野くんはポンポンと軽くあたしの頭を叩いてから手を離した。


最後に、唇を噛み締め青ざめた顔をして俯いた吉川さんをジッと見下ろして、高野くんは静かに教室を出ていった。


友達のことを思う高野くんに、

あたしは物凄く救われたのだった。


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